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悪役貴族に転生した戦略ゲーオタクは推しのヤンデレ悪役令嬢を支えるようです  作者: ビッグベアー


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第8話 やられたらやり返せは貴族の基本

 第二皇子バルドは控えめに言ってアホだ。

 それもただのアホではない。アホの中のアホ。アホの皇帝位があるのならその玉座に座るのは間違いなくバルドだ。


 具体的に言えば、想像力が欠乏している。

 原作からしてバルドは自分の立場、自分が婚約破棄を言い渡した女性の身分、そして、自らの派閥が置かれている状況を何一つ想像できていない。


 できていれば、こんな形でイリアナに婚約破棄を言い渡すことなどしない。百歩譲って婚約破棄をするにしてもこのタイミングで、しかも、自分から言い出すなんてことはありえない。


 第二皇子を旗頭とする『第二皇統派』は帝都において最弱の派閥だ。兵力、財力、組織力どの点を見ても間違いなく最下位だ。


 理由はいくつかあるが、そもそも第二皇子を支持する貴族が少ないというのが大きい。

 次に、少ない支持基盤も帝都の外に勢力を持つ『商人連』や貴族たちで足元がおぼつかない。いざ帝都で政治抗争となれば瞬く間に殲滅されてしまうだろう。


 そのため第二皇統派は独力での皇帝即位を諦めている。無論表立って言葉にはしないが、少なくとも派閥の長老たちは漁夫の利を狙うか、あるいは、ほかの勢力にいかにして取り入るかを方針としている。


 そんな第二皇統派にとってバルドと第一皇統派の重鎮であるドルウェナ辺境伯の娘イリアナとの婚約は願ってもない幸運だった。

 なにせこの婚姻は第一皇統派との実質的な同盟。第二皇統派としては自分たちの不足を補うことができる上に、敵を味方に変えることができる妙策だった。


 にも関わらず、かの第二皇子殿下はそんな婚姻を己の判断だけで破棄しようとしている。それも『真実の愛』を見つけたなどという胡乱うろんの極みのような理由で。


 無論、自陣営への根回しなどもしていない。今回の件を知った時の驚愕具合はこちらよりもむしろ第二皇統派の方が大きいはずだ。


 そんなわけで政治的に見ても、戦略的に見ても、第二皇子バルドによる婚約破棄は愚行としか言いようがないのだ。

 しかも、これは第二皇統派に限った話。第一皇統派こっちにしてみればまた別の問題が山ほどある。


 例えば――、


「――さしあたって第一皇統派こちらとしては報復をせねばなりません」


 場所を移してジークリンデの離宮にある執務室。部外者に話を聞かれる心配のない状況で、オレは開口一番そう進言した。

 

 昼食を終えて一段落着いた後のことだ。イリアナはすでに帝都内のドヴェルナ子爵邸に返したうえで、対応を決めるまでは誰にもこの件を話すなと口止めをしておいた。

 この場にいるのもオレとジークリンデ、トモエの三人だけだから話が外に漏れる心配はない。

 

「……報復、ですか」


「はい。この件は第二皇子殿下とイリアナ嬢のみで済む話ではありません。第一皇統派としてこれだけの侮辱を受けて黙っているわけにはいかないのです」


「それは、そうですが……」


 ジークリンデの反応にはどこか戸惑いが見て取れる。ここら辺の理屈は生まれてこのかた権謀術数の中で生きてきたジークリンデの方が身に染みていると思ったが……、

 ああ、いや、違う。彼女は優しいんだ。だから、この期に及んで穏便に事を済ませられないかと考えている。


 でも、今回はそれを許すわけにはいかない。

 なぜか。原作においては、この婚約破棄事件に対して中途半端な対応をしたことが第一皇統派の凋落の始まりになってしまうからだ。


 第一皇統派の凋落はすなわちジークリンデの凋落。そんなことはこのオレの眼が黒いうちは絶対に許さない。

 だから、この件に対する対応は二つに一つ。徹底的に報復するか、あるいは――ああ、いや、こっちは今はいい。あくまで次善の策だ。


「…………報復するとして、具体的には?」


「まずは今回の婚約破棄に際しての謝罪と賠償を派閥全体に求めます。おそらくある程度の金額を提示してくるでしょうが、これは拒絶すべきです。商人どもに名誉を金で買えると誤解されては

いい迷惑ですから」


「……ふむ」


 考え込むジークリンデ。こういう時は続けろということなので、続けることにする。


「次に、手をまわして帝都内での第二皇統派側の商人連中の取引に圧力を掛けます。全部は止められませんが、大半は難儀するでしょう。一月か、二月。それくらい締めあげてやれば、向こうについている商人の半分はこちらに宗旨替えするかと」


「…………そう上手くはいかないのでは?」


「無論、ほかの派閥の妨害もあるでしょうが、今回に関してはこちらは被害者です。当然の賠償を求めている我々に難癖をつけるのは少々手間だと考えるものも多いでしょう。相手は大半が商人か、新興貴族です。身売りする相手が第一皇統派うちくらいしかありません」


 現在帝都に本拠地を置いている勢力は大きく分けて4つ。

 我ら第一皇統派と件の第二皇統派。第三皇子『ガルザ』を旗頭とする第三皇統。そして宗教勢力である『九界樹教会』。この4つの勢力が互いにけん制し合っていることで、帝都は仮初の平穏を保っている。


 この4つの勢力にはそれぞれ特色がある。

 例えば第三皇統派には開国以来の歴史を持つ大貴族が多く所属しており、伝統的価値観として商工業を軽視している。また九界樹教会も過度な財の貯蓄を罪としており、商人連中とは相性が良くない。


 なので、必然的に商人が身を寄せる先としては第一皇統派と第二皇統派の2つしかない。で、第二皇統派が頼りにならないとなれば、第一皇統派に鞍替えするしかなくなる。


「……それでも抵抗するものはいるでしょう。やりすぎれば批判がこちらに向くのではありませんか」


 オレの意図していること、この報復には報復以外の目的があると察したのか、ジークリンデの顔がこわばる。

 ……こんなやり口を彼女が好まないことはよく知っている。だが、従者として時に主の望まぬ汚れ仕事もやらねばならない。


「構いません。抵抗したとしてほかの派閥と結託される前に踏みつぶせます。反逆罪に、収賄、不敬罪、押し付けられる罪状ならばいくらでも」


 『帝国物語』の世界において、いやさ、あらゆる権力闘争において冤罪による大義名分の捏造は常套手段だ。

 このやり方のいいところは仮に嘘の罪状だとしてもこちらが権力を握りさえすればどうとでもなるという点。後世の歴史家にはぼろくそに言われるかもしれないが、そこはオレの仕業だという証拠をあえて残しておけばいい。ジークリンデの死後の名誉なら話は別だが、オレ自身が死んだ後のことなんてどうなろうとかまわない。


 それにここまでやるのにはもう一つ理由がある。


「……やりすぎです」

 

 オレの答えに、ジークリンデは悲しそうに目を細めた後、ため息をつく。オレの提案が道理であることを理解しつつも、心情的には頷けないのだ。


 一方で、壁際で話を聞いているトモエは何を甘いことを言わんばかりの呆れた顔をしている

 ……まあ、こいつの基準だとそうなるか。時代設定的には鎌倉時代くらいだもんな。婚約破棄なんて恥をかかされたら、もう『族滅』しかない世界で彼女は生きてきた。オレも個人的にはそっちの方が話が分かりやすくていいのだが、ここは帝都だ。血を流すにはそれなりの大義名分はいる。


「当然の報復です。第一皇統派の勢力を盛り返すにはここを逃す手はありません」


 ……今回の婚約破棄は面倒ごとであり、厄介ごとでもあるが、同時にチャンスでもある。


 第二皇子が婚約破棄なんて真似をしてくれたおかげで第一皇統派は格好の大義名分を得た。

 他勢力の介入を受けずに第二皇統派の勢力を接収できる機会など早々訪れない。単体では弱小勢力に過ぎない第二皇統派もこっちで取り込むことができれば強力な資金源となってくれる。


 それに報復をせねばならないという点については異論のつけようがないから、派閥内での反発もほとんどない。何かと小うるさい年寄り共もこの件には口を挟んではこないはずだ。


 無論、第二皇子とイリアナの婚姻が成立しても似たような効果は得られただろうが、所詮、同盟は同盟だ。いつ裏切られるともしれないし、全面的な協力を得られるとも限らない。

 であれば、いっそのこと第二皇統派を切り崩して取り込むほうがいい。あと腐れはあるが、少なくとも誰にも遠慮をせずに済む。


 それに後々のことを考えれば、ここで第一皇統派の戦力を増強できればだいぶ楽になる。効率という点においてはこれ以上の選択肢はない。


 問題があるとすれば、第二皇子バルドの『真実の愛』とやらの相手に強力な後ろ盾がある場合だが、そこは心配ない。

 なんせバルドの想い人は、この帝都に来たばかりの何の後ろ盾もない田舎娘なのだから。


 そう、バルドが第一皇統派との同盟を放り出してまで入れ込んでいる相手とは、原作主人公『聖女フレイン』なのである。


 ……本来の歴史、というか原作ではバルドは攻略対象の皇子の一人であり、フレインの後ろ盾となる人物だ。

 終始恋愛脳で顔面に右ストレートを叩き込みたくなる面をした彼だが、わきの甘いところが逆に女性受けしていた。


 一方、原作でバルドが活躍できたのはジークリンデが彼の婚約破棄に対してまともな報復をしなかったせいでもある。

 兄弟への情ゆえに手を緩め、結果として第一皇統派は婚約破棄のような侮辱を受けても何もできないと侮られ、そこから凋落の一途をたどってしまうのだ。


 そんなことにはさせない、絶対に。そのために、オレがここにいる。


「……貴方の話は、理解しました」


 でも、やはり、運命を決めるのは、ジークリンデ自身だ。

 だって、オレは彼女の意志に、彼女の誇り高き姿にあこがれたんだ。であれば、彼女の選択をないがしろにすることだけはできない。


「わたしは……今回の件を…………」


 ゆっくりと考えながら言葉を紡いでいくジークリンデ。

 この慎重さは言葉を違えてはいけないという誠実さに由来するものであり、ジークリンデという人物の素晴らしさはこうした真面目さにあるとオレは思っている。


 だから、オレも彼女に応えたい。そのための時間はあった。

 

 ジークリンデがどんな選択をしたとしても、その選択を最善の結果に導くための策をオレは用意している。

 よい従者とはそういうもの。不遇の運命なんて簡単に覆してみせるとも。

 

あとがき

新作です! 第一章完結まで一か月ほどは毎日更新の予定です!

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