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悪役貴族に転生した戦略ゲーオタクは推しのヤンデレ悪役令嬢を支えるようです  作者: ビッグベアー


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第5話 美少女でも呂布は呂布

 あてにしていた武力100のゴリラがなぜか美少女と入れ替わっていた。

 オレの記憶違い、ということはありえない。ソールの勧誘イベントの日付は覚えているし、場所もこの『酔いどれ狼亭』で間違いない。


 となると、今この目の前にいる着物姿の黒髪美少女があの『ファンタジー呂布』ことソールということになる。

 

 ……この世界に転生して初めての事例だ。

 これまでにも原作との些細な差異はいくつも存在していた。たとえば出来事の起きる日付が2、3日ズレたり、集まる人数が違ったりということはあったが、ここまで大きな変化は見たことがない。


 ……だが、今も目の前では和風美少女の細腕に大の男たちが文字通りに捻りつぶされている。腕相撲を組んだ瞬間に吹き飛ばされているのだ。


 このとんでもない怪力は間違いなくあのソールのもので間違いない。

 認めざるをえまい。あのむくつけき大男がこの世界では美少女なのだ、と。どんな因果のめぐりあわせだ。


 ……でも、似ているところもある、か?

 原作におけるソールは体格がよく筋骨隆々だったように、目のまえの美少女もなかなかに恵まれた肉体をしている。


 特に着物の上からでもうかがえる双丘には目を奪われるものがある。着物ということはさらしを巻いているはずなのになにも淑やかになっていない。ジークリンデも原作からしてかなりのものをお持ちなのだが、それすらも上回って――、


「――聞いていた話と随分違いますが?」


 そんなオレの不敬極まりない内心を知ってか知らずか、ジークリンデがひそめた声で言った。

 オレもまったく同じことを考えていたが、どう見た目が変わっていても武力100が健在ならばこれを逃す手はない。


「確かめてまいります。ここでお待ちを」


 そういうわけで件の美少女へと近づいていく。

 

 なるほど。

 こうして改めて観察してみると、やはり格が違う。


 オレも伊達に十二年間武芸を磨いてきたわけじゃない。強者に近づけば纏う雰囲気で何となく察せられる。

 この黒髪の美少女はとてつもなく強い。それこそ人外の領域である武力100に到達していなければこれほどの威圧感は放てない。


「何が起きてるんだ?」


 フードを外して気の良さそうな酔っ払いに話しかける。

 領地では社会勉強もかねてこういう酒場にも出入りしていたから振舞い方は心得ている。


「あ? 今来たのか、にいちゃん。だったらついてるぜ。これからがいいところさ」


「そうなのか? さっするに賭け勝負のようだが、アンタはどっちに賭けてるんだい?」


「あのねえちゃんの方さ! 突然、酒場に現れてな。腕試しをしたいって言いだしたんだ。で、あれだけの美人だろ? ごろつきどもが下心丸出しで挑みかかったんだが、あのざまよ」


「それで、そのまま勝ちまくってるってわけか」

 

「現在十四連勝中さ! なかには『恩寵持ち』の傭兵もいたんだがな、一ひねりよ! ありゃ、戦神いくさがみ様に愛されてるな、まちげえねえ!」


「なるほど。いいことを聞いた。一杯おごるよ」


 酔っ払いに銅貨を握らせて、そのまま前に出て黒髪美少女の対面に腰掛ける。

 こんなところで勝負事なんて趣味ではないが、決闘三昧のおかげで度胸はついた。


 それに、さっきの話のおかげでこの少女の目的は大体わかった。そこに合わせてやれば話もしやすい。


「一勝負につき銀貨一枚」


 美少女が言った。

 少しなまりのある帝国公用語。服装通り異国の出身のようだが、美しい声だ。戦場の隅々まで届きそうなほどに澄んでいる。


 ……戦場で兵を指揮させるのも悪くないかもしれない。無論、彼女の能力値次第ではあるが……、


「了解した。だが、一つ条件がある」


「なに?」


「オレが負けた場合は、銀貨を三枚出すから話をさせてくれないか?」


「おお! 口説いてるぞ! 勇気あるなにいちゃん!」

 

 オレの提案に、ギャラリーが色めきだつ。

 ……確かに文言だけ聞くとナンパだな。だが、名誉に誓う。下心はあるが、そういう意味での下心じゃない。オレはあくまで彼女を戦力として勧誘しに来たんだからな。


「……銀貨五枚。それなら話を聞く、少しだけ」


「いいだろう。万が一、こちらが勝った場合も話を聞いてもらうが、いいかな?」


「ふっ」


 勝った時のことに言及すると鼻で笑われる。まあ、オレも勝てるとは思っていない。せいぜいオレの武力は50程度。必ずしも武力=腕力ではないとしても、オレの予想通りなら勝ち目は皆無だ。


 それでも勝負に挑むのはこの美少女の関心を買うためだ。


 あの酔っ払いの話からしても、本人の態度からしても、彼女の目的は金銭ではなく勝負そのもの。文字通り腕試しのために勝負を続けている。金だけが目的なら10人ほどを打ち負かした時点で一月は余裕で暮らせる。ならば、他に目的があると見ていい。


 おそらく腕相撲を続けているのは強者を求めてのことだ。

 自身を鍛えるため、あるいは、戦いの緊張感を味わうため。この美少女がそういった類の武人であるならば、まずは彼女の言語で話をしないといけない。


 すなわち、負けるにしてもいい勝負をする。頑張れ、オレ……!


「いざ」


 美少女が右手を台の上に置き、オレも右手を差し出す。二つの掌ががっちりと組合った。

 掌の大きさ、腕の太さだけを見れば勝敗は一目瞭然だが、この世界においては肉体の強さよりも恩寵の強さの方が物を言う。


 というか、組み合っているとマジで勝てる気がしない。

 だが、格上相手の戦いは慣れている。今更ビビるオレじゃない。


「勝負!」


 審判役が宣言した瞬間、腕が肩からちぎれるのではないかというほどの圧が右手に襲いかかった。

 一瞬で吹き飛ばされそうになるが、右足を踏ん張ってどうにか堪える。大盾で攻撃を受け止める時の応用だ。全身の筋力を硬直させて、体全体を岩のように固めるのだ。


 その技のおかげで傾いていた天秤をどうにか拮抗状態まで押し戻す。


「おお! すげえ三秒持ったぞ! 初めてだ!」


「いいぞ、にいちゃん! そのまま勝っちまえ!」


 外野が盛り上がっているが、こっちとしてはそれどころじゃない。というか、今の状態を維持するのに必死で攻め込むどころじゃない。まるで山を押しているような気分だ。


 ……美少女の方も少し驚いている。が、苦しそうではない。まだまだ余力はあるが、こちらの底力に驚いた。そんなところだろうか。


 …………これでは駄目だな。せめて彼女が本気を出すくらいには粘らないとスカウトが有利にならない。

 

「――ッ!」

 

 歯を食いしばり、気合を入れなおす。オレのこの右腕にはオレだけではなくジークリンデの名誉もかかっている。そう思えばたとえ相手が人間大のドラゴンだったとしても決して負けられない。


「――ほう」


 そんなオレに対して美少女は余裕の表情。だが、どこか感心しているようにも見える。オレの願望か? いや、違う。彼女はこの勝負を楽しんでいる、そんな風に見える。


 力と力のぶつかり合いに、骨が軋む。限界を超えた負荷に筋繊維がちぎれるぶちぶちという音が聞こえた。

 熱気のせいか、あるいは、脳の血管でもどうにかなったのか、視界がゆがんでいく。


 それでも、負けない。原作でのジークリンデの苦しみ、口惜しさ、悲しみを思えば、この程度は何でもない。

 それに死なら一度は経験済みだ。この程度なら死にはしないと本能で分かる。


「――くっ!?」


 オレの覚悟を感じて少女が怯んだのか、少しだけ天秤がオレへと傾く。だが、すぐにさらにすさまじい力で押し返される。

 ここまで力んで顔色一つ変えないとは、見事な怪力だ。ますます彼女が、配下に、欲しい。これだけの力があればジークリンデの運命を変えるのに大いに役立つ!


 まだまだ勝負はこれからだ。限界は近いがまだ――不意に体が沈みこんだのはその次の瞬間だった。


 遅れて聞こえてくるドカンという破砕音。どうやらオレたちの力に耐えられず木製のテーブルが砕け散ったのだと理解したのは、床に倒れ込んだ後のことだった。


「……勝負なし、ね」


 先に立ち上がった美少女が無念そうな声で言った。まあ、勝敗はついていないわけだし、そうなるか。


 ……無念だ。あそこまで競ったのだから勝敗は付けたかった。


「うおー! すげえ勝負だ!」


「あのにいちゃん互角だぞ! 賭けはやり直しだ!」


 ギャラリーは大盛り上がり。明らかに次の勝負を期待しているが、どうしたもんか……、


「どうする? 二戦目に行くかね?」


「その必要はない」


 しかし、当の本人は再戦はしたくないらしい。

 こちらと違ってまだ余裕はあると思うんだが、どうしたんだろうか?


「じゃあ、少し話を――」


「我が名はトモエ。ミナトガワ・トモエという」


「そ、そうか、よろしくトモエ」


 オレの困惑をよそに、黒髪美少女ことトモエはずいっと距離を詰めてくる。 

 ……黒色の瞳がこれまでにない熱を帯びている。あと、なんというか距離が近い。下手に動くと彼女の体の一部に触れてしまいそうだ。


 しかし、トモエ……トモエか……、

 なんかどっかで聞いたような気がする。こう、帝国物語本編じゃないんだが、どっかに登場していたような……、


 いや、思い出せない。思い出せないが、今はこの武力100の確保が優先だ。


「それで、少し話をしたいんだが、いいだろうか?」


「話はいらない。今の勝負で、これが運命さだめだとわかった」


 よく、意味が分からない。

 どうやらオレの知らないところでトモエが盛り上がっているようだ。


 ……すごく嫌な予感がする。なんかこう、意図せずして結構でかいフラグを立ててしまったような、そんな感じだ。

 死亡フラグじゃありませんようにと祈るが、キリアンの運じゃなと冷たく感じている自分もいた。


「貴方が、トモエの()()だ。よろしく頼む、我が夫」


 しかし、トモエの口から飛び出したのは予想外にもほどがある宣言だった。


 …………どういうことです? 

 原作にこんな展開なかったんですけど!? あったとしてもこういうのは主人公の聖女の役得じゃねえのかよ……!

 

 ってそうだ! 思い出した! トモエってあれじゃん、外伝の主人公じゃねえか!

あとがき

新作です! 第一章完結まで一か月ほどは毎日更新の予定です!

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