第14話 赫奕剣騎士団のここがすごい!
そういうわけで、オレはあのバカの代名詞こと第二皇子バルドの指南役になってしまった。
10日に一度、わざわざ午後に三時間ほど武芸やら軍略やらについて教えてやらないといけない。会場はジークリンデの離宮であるアルヴ離宮だ。
ジークリンデの傍を離れずに済むのはいいんだが、それはそれとして面倒だ。
だが、引き受けた以上はやる。政治的なアピールにもなるし、時間をどぶに捨てるわけじゃないと自分に言い聞かせて頑張る。将来的にはバルドがジークリンデの側近になってくれれば、と儚い希望を抱いて。
さて、そんな第二皇子のことも大事、でもないが、オレの本職はジークリンデの従者であり、その業務には彼女の麾下にある『赫奕剣騎士団』の管理も含まれている。
先のことを考えたら、騎士団の改革は急務だ。
トモエという劇薬の投与により個々の騎士団員の戦闘能力には改善の兆しが見えているが、そもそも人材が足りていない。質の面でも量の面でもまだまだ人材不足だ。
なので、人材を広く募ることにした。いわば、騎士団員の公募だ。
帝都中の立て看板にお触れを出して、貴族非貴族問わず志あるものは集えと広告を打った。
こうした公募自体はそう珍しいことではないが、身分を問わずにというのはこの時代の帝都ではほとんどない。というか、貴族の伝統には反している。
にもかかわらず、ジークリンデはこの公募を二つ返事で了承してくれた。
彼女らしい柔軟さだ。皇族として伝統や慣習を尊重するがそこに囚われずに判断することができている。
くわえて、すでにジークリンデはトモエという非貴族でありながら貴族以上の力を持つ武人を知っている。話が早かったのはその影響もある。作戦通りだ。
……まあ、どれだけ手際よく公募を開始できてもいい人材が来てくれるかは条件次第、運次第ではある。
原作でもそうだ。人材の公募は定期的にできるが、それで有用な人材が来る可能性はせいぜいが2から3パーセントほどだ。
条件はかなり良くした。給金はもちろん住居や福利厚生に関してもほかの騎士団よりもかなりの好条件だと断言できる。その甲斐あってたった3日間の掲示で100人以上の応募があったわけだが――、
「ダメ。使い物にならない」
採用試験当日、午前中の応募者の試験が終わったところでトモエが言った。
会場となっているのは赫奕剣騎士団の兵舎にある営庭だ。見惚れるほどに整った横顔は失望と退屈に倦んでいた。
……なるほど。美人というのはこういう時に得だな。どんな表情を浮かべていても絵になるというか、様になるというか、この光景を模写するだけで芸術品として、ああいや、一枚絵として成立しそうだ。
今回の採用試験で試験官を務めているのはオレとトモエ、そして、騎士団のまとめ役でもあるコドール卿にも来てもらっている。
コドール卿は赫奕剣騎士団の中では数少ない実戦経験豊富な騎士で、騎士団内では騎士長の一人として現場の指揮を担っている人物だ。
無精ひげの似合うナイスミドルで新参のオレが副団長に就任することにも反対しなかった奇特なおじさんでもある。
原作では登場していなかったが、おそらくどこかのタイミングで別の派閥に鞍替えしていたのだろう。原作の第一皇統派は第二皇子の婚約破棄以降は落ち目だしな、仕方なくはある。
一方、最高責任者でもある騎士団長ジークリンデは離宮で休んでいる。しばらく頑張ってくれていたからな、彼女こそ休養を取るべきだ。
……しかし、トモエの言うとおり、試験の結果はかんばしくない。
午前中だけで60人の候補者を試したが、オレの求める基準に達しているものは一人としていなかった。
能力値の平均が60以上、あるいは武勇、知略、政治のうちどれかが70以上というのがオレの求める人材だ。要求が高いのは分かっているが、これぐらいでなければジークリンデを守る『赫奕剣騎士団』の中枢を任せることはできない。
無論、ゲームとは違い直接能力値を見ることができない。
だから、面接での感触と試験の結果で判断するしかないのだが、今のところ、めぼしい人材は皆無といっていい。それでも3人ほどは候補者を確保はしたが、即戦力としては期待できない。
……本当なら能力値の確定している原作の名ありキャラを直接スカウトしたいんだが、オレの知る限り今の帝都にはそういう粒だったものはいない。
時期的な問題だ。原作時系列的には聖女が帝都に招かれシナリオが始まったばかり。ゲーム的には序盤も序盤、最序盤な以上、有能なキャラの獲得はできないようになっている。
現実的には比較的政情が安定している今は野心を持つ有能なものは外征に加わるか、地方でくすぶっていると言ったところか。
ちなみにトモエの代わりに勧誘するはずだったソールはその例外だ。能力値は高いがすぐに裏切るので勧誘が許されている。
「だいたい、誰も彼も動きが固い。この程度で緊張するようでは戦働きなど夢のまた夢」
「……確かにな。文官志望の連中も嚙みまくりで痛々しかった。ただの面接だぞ? なぜあんなざまになってんだ?」
試験内容としては武官志望者には騎士団員との模擬戦、文官志望者には自己アピールを兼ねて経歴を口頭で述べてもらったわけだが、ことごとく全員が緊張でガチガチになっていた。中には途中で冷や汗が止まらなくなり失神してるやつもいた。
理由は不明。できるだけ威圧感がないように気をつかったつもりなんだが……もしや、この営庭、酸素が薄いのか? 屋外なのに?
「副長殿、謙虚も過ぎると毒になりますぜ。特にあんたみたいに名の知れ渡ってるような方は特に」
「名が知れ渡って……まさか、例のあだ名か!?」
コドール卿に指摘されてようやくそのことに気付く。
いや、オレ自身、自分の『シグヴァルトの凶戦士』というあだ名については把握しているが、それが赤の他人を委縮させるほどの効果と知名度を持っているとは認識していなかった。
……でも、騎士学校にいたころのあだ名だぞ? 失神するほどのネームバリューがあるとは到底思えない。
「少し前ならそうでもなかったんですがね。最近はただの決闘好きじゃなくて、気に入らないなら貴き方々でも決闘を吹っかけて殴打するケダモノだと言われてますからなぁ。誰だって怖いでしょ、そりゃ」
「………………バルド殿下の従者だな」
『気に入らないなら貴き方でも殴打する』。オレの凶状にこの項目が付け加わったのはどう考えても昨日の婚約破棄事件のせいだ。
あの決闘の現場にいたのは全部で五人。そのうち四名は当事者であるオレとバルド、ジークリンデ、トモエだ。
この四人が情報を漏洩するとは思えないので、必然的に容疑者は一名のみ。バルドの従者だ。
確かに、皇族をぶん殴るやつはどれだけ控えめに言っても危険人物だ。というか、マジもんのベルセルクだ。いくらオーディン帝国が戦士文化を中核としているとはいえ、まともな神経をしていれば近づきたいとは思わないし、怖がるのは当然だな。
ましてや、噂には尾ひれが付くもの。きっと候補者たちの中ではオレは気に入らないやつを殴り倒してそいつの内臓を食べるバケモノか何か見えていたんだろう。そりゃ失神もするか……、
しかも、副団長であるオレが面接を担当することは告知していない。向こうにしてみれば軽い気持ちで応募してみたら、出会い頭にぶん殴られたようなものだ。
「……では、午後からオレは席を外しましょう」
これが採用試験である以上、その審査はできうるかぎり公正を期すべきだ。最低限の誠実さと言い換えてもいい。そこを損なってはジークリンデに顔向けできない。
というわけで、オレはここまでにした方がいい。と思ったのだが――、
「そいつはお待ちを」
「ええ。待った方がいい」
コドール卿だけではなくトモエにまで止められる。なぜだ。
「確かに旦那は怖がられてますが、それ以上に名が売れてまさ。なんで、集まった連中には旦那を目当てで来たやつも相当いるはずです。有能な連中を集めるんだったら、そういうやつらから選んだ方がいい」
「同感。士は己を知るもののために死すもの。だいたい、あなたがいないとつまらない」
…………一理あるか。
好条件で釣っているとはいえ第一皇統派に属するということはオレの部下に、ひいてはジークリンデの配下になるということ。その覚悟もないような奴を採用しても仕方ない。
最悪の場合はジークリンデのために死んでもらわないといけないわけだしな。オレ程度にビビるやつではそれも無理だろうし……、
「……分かりました。だけど、午後からは質疑応答はコドール卿にお願いします。自分は黙って見ているので」
「それはそれで威圧感凄いと思いますが……まあ、任されますわ。給金も上げていただきましたしね」
そういえば、新規募集に際して騎士団全体の給与の引き上げも確かにやった。
第一皇統派の資金繰りは決して順調とは言えないが、人件費をケチって天下をとったという例は古今東西探しても存在しない。むしろここは無理をしててでも動くべきだとジークリンデとオレの意見は一致していた。
……コドール卿を慰留できたのは僥倖だった。
彼は間違いなく優秀だ。武勇も知略も70以上は確定であるとみた。原作でも彼がいればもうすこし第一皇統派は粘れたんじゃないかと思う。
そんな彼を多少の給与アップで留められたんなら最低限の出費で大きな戦果を得られたということになる。まさしくオレとジークリンデの思惑が思わぬ形で実を結んだというわけだ。
しかし、既存団員に対する施策が上手くいった一方、午後になって30人ほどを面接しても有用な人材は現れなかった。
……さすがにそう都合よくはいかないか。
原作の『帝国物語』でも募集でまともな人材が得られる確率は10パーセントくらいだしな。一回や二回ではこんなものか……、
そんな風に諦めかけた時、その人物は現れた。
「失礼します!」
聞き覚えのよく通る中性的な声とともに、彼は営庭に現れた。
金色の髪に、蒼い瞳の青年。精悍さや逞しさこそないが、美しい顔立ちとすらりとした立ち姿は理想の男性像がそのまま出力されてきたようだ。
このイケメンの名は『メロヴィ』、『メロヴィ・ラインゴッズ』。原作『帝国物語』における攻略対象の一人であり、別名『万能王子』が今オレたちの前にいる……!
……でも、なんだろう、なんか違和感がある。
原作の立ち絵よりちょっと華奢っていうか、背が低い……? なんだろう、元から中性的だったのが、さらに女性に寄ったような……なんでだ?
…………まあ、なんでもいいか! 有能だしな!
あとがき
新作です! 第一章完結まで一か月ほどは毎日更新の予定です!
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