《 足跡 》
君の目は 時々 楽しげに輝くけれど、
君の目は 虚ろで哀しげに沈んでいて、
君の目は 常に静かな怒りに燃えている。
私から生まれた運命を 嘆いているのだろうか…。
ミニカーで遊んでいた あの小さな手は、
今では 私の手より大きくなって、
私が重い物を持ったり 高い所から何かを取る時に、
その成長した大きな手で助けてくれるようになった。
だけど君は 亡き父親の足跡をなぞるように、
まるで 知らず知らず追うように、
父親が付けた足跡の上を歩いてる。
君の父親が永遠の眠りに就いたその後の、
新たな名前には 月 という文字が入っているから、
父親の足跡を忘れずにいて欲しいと思いつつ、
あの部屋で途絶えた足跡よりも、
君は顔を上げ夜空の月を見ながら、
自分自身の足跡を付けて、
君だけの道を歩んで行って欲しいと願っている。
破滅を望むほど心が痛むなら尚更、
これから君は 君らしさを失くさず、
君自身の人生を築いて欲しいと、
心から 心から願っている。
秋が深まる11月の あの部屋の、
寝室の床に独り溶けて最期を迎える人生ではなく。
そして、
プルタブを引く音を聞く度に、
憎悪が膨らんでいた頃は解らなくなっていたけれど、
どれほど苦悩に傷んでいても、
徐々にあらゆる事が損なわれていっても、
息子への愛情だけは失わなかった君の父親に、
今でも心の中で ありがとう と、
言い続けている事を知っていて欲しい。
君は父親の足跡に 何を語りかけているのだろうか…。
また巡ってきた11月の夜も 月の光りは美しい。




