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貴方は私の番です、結婚してください!

作者: ましろ

(つがい)』 それは、獣人の本能とも言えるもので、出会った瞬間から特別な存在だと感じる相手を指す。その縁は、単なる偶然ではなく、宿命的な繋がりがあるものだと考えられているのだ。


番は獣人同士であるとは限らない為、学園卒業までに番が見つからない場合は、1年間は他国に旅に出ることが許されている。

僕もそのひとりで、このデルガド国は既に6カ国目。

ここは人間の多い国だし、既に残りの日数がひと月を切ってしまった為、焦りと諦めが入り混じりながらも街中を彷徨っていたのだが。


──あれ?


何とも甘やかな香りが鼻を(くすぐ)り、その香りを探すべく視線を向けると、それはまるで夜空に輝く真珠星のように、彼女だけが眩しく浮かび上がった。


ようやく見つけた!僕の(つがい)っ!!


あまりの衝撃に涙が溢れそうになった。

だってもう無理なのかと思った。だって、番を見つけられるのは奇跡の様なものだから。


僕は駆け寄ってその輝きに手を伸ばし、


「貴方は私の番です、結婚して下さい!」


何の飾り気も無い、無様だけど本気の本気で求婚の言葉をぶつけたんだ。


「は?お断りしますけど」


まさか断られるとは思わず、更には伸ばした腕をむんずと掴まれ、こちらの勢いを利用して投げ飛ばされたのだ!


びだんっ!!!


「いでっ!?」


地面に叩き付けられ、更にはそのままうつ伏せにされ、腕を背後で(ひね)られしっかりと拘束されて、


「ぐえっ!」


こ、これは膝?グッと体重を掛けて抑え込まれてしまった。僕の番は格闘家なのだろうか。


「君は犬の獣人かな」

「そ、そうです!ボーダーコリーです!貴方の番ですっ!!」


嬉しい!彼女から僕のことを聞いてくれるなんて!でも手首も肩も背中もめっちゃ痛いんですけど!?


「おい、ララ。小僧が泣きそうだぞ」

「仕方がないでしょう。番を見つけた獣人は危険だもの。下手をすると拉致とかするのよ?」

「しないよ!?」

「するわよ。新聞を読んでいないの?獣人の嫁取りは国際問題になってるでしょうが」

「僕はそんなことしません!」


酷い!でもララさんっていうんだ。綺麗な名前だなあ。


「ララさん、僕はデュリュイ国から貴方を探しに来たミカエル・エラン19歳です」

「名前を呼んでいいなんて言ってないけど?」


え!じゃあ、ハニーとかラブとか?ちょっと恥ずかしいけど、番の希望ならっ!


「えっと、ダーリン?」


勇気を出して言ってみたのに、膝でグリグリとされてしまった。


「痛い痛いぃぃいっ!!」


酷いっ!ララさんは相手をいじめたい系の人なの!?


「気持ち悪いことを言わないで」

「ごめんなさい!」

「ふはっ!だーりん!」

「リコ、笑わないで。ねえ、君。私が番で、だから結婚してって言ったかしら」

「言いました!」


なんだ、ちゃんと聞いてくれていたんじゃないか。ところでさっきからララさんに気軽に話し掛けるこの男は誰?


「…その人、まさか恋人じゃないですよね?」

「なぜ初対面の君に答えなくてはいけないの?」

「だって貴方は僕の番だっ!!」


ララさんを傷付けたくないから抑え込まれたままでいるけど、そろそろ我慢出来なくなってきた。

早く貴方を抱きしめたい。貴方の香りを確かめたい!


「ねえ、私ってどんな髪と瞳の色だった?」

「……え?」


どんな?えっと、確か髪はブルネットで瞳は……青?いや、緑?


「特徴的なホクロがあるの。どこか分かる?あと、どんな服とアクセサリーを身に着けているかしら」


ホクロ……は分からない。服は白のブラウスで、アクセサリー?そんな細かい所まで見ていない。


「私は何歳でどんな性格?貴方は私のどんなところに惹かれたの?それに家族構成は?恋人や婚約者、夫の有無は?」

「それはこれから色々と教えてくれたら」

「人間はね。番の本能なんて無いの。まったくのゼロよ。だから伴侶を決めるのは家同士の繋がりや、性格や相性。そういった色々なものを考慮して決めるものなの」


……番が分からない?そんな、確かにそういう感覚が弱いとは聞いていたけど、まったく分からないだなんてありえるのか?


「とりあえず放すけど。襲ったら麻酔弾を打ち込むから。分かった?」

「……はい」


なんで麻酔弾なんか持ってるの?とか、気になることはあったけど、何よりも番が分からないことの方がショックで。


起き上がり、ララさんと向き合う。


スラリと細身で身長は170くらいかな。

艷やかで真っ直ぐなブルネットの髪をポニーテールにしていて、瞳は空色。右目の涙ぼくろは双子星だ。

シンプルな白のシャツに小ぶりのネックレス。石は何だろう。シトリン…それともトパーズかな。

女性には珍しいパンツスタイル、というか乗馬服か?それに腰には本当に銃が装備されている。


「ララさんは、本当に番が分からないの?」

「ええ。私の知る限り、獣人の血は入っていないから仕方がないのではないかしら」


どうして?こんなにも甘やかな香りがするのに。

こんなにも僕を惹きつけてやまないのに。


「それに恋人もいるわ。彼と結婚の約束をしてるから、貴方のプロポーズはお断りします」

「そんな!やっと出会えたんだよ!?」

「私だってやっと愛する人に出会えたの」

「番じゃないじゃないかっ!!」


納得出来ない、こうやって触れ合えるくらい近くにいるのにっ!泣きたい程の歓喜をどうして感じてくれないんだっ!!


──そうだよ、触れ合えばララさんにも分かるんじゃないか?


何かを感じたララさんが銃を取り出そうとしたけど、獣人の速さには敵わない。

一気に距離を詰め、ララさんを抱きしめようと手を伸ばし────



「誰の許可を得て触れようとしているんだ」



ゾクっとする程殺気立った声が聞こえたかと思った瞬間、僕の体は蹴り飛ばされた。


「ジンッ!」

「ララ。甘い顔を見せず、番を迫る獣人はとりあえず撃てと言っただろう」

「ごめんなさい、毛並みのいいワンコかと思って」

(しつけ)がなっていなければどんな犬種でも駄犬だ」


起き上がると、ララさんは大柄な男に抱きしめられていた。

アッシュグレーの髪に、僕を見据える瞳は琥珀。


まさか───


「ハイイロオオカミ……?」


僕が勝てるはずが無い。でも、獣人なのにどうしてっ!


「ララは俺の伴侶だ」

「違う!僕の番だっ!貴方なら分かるはずだろう!?」

「だから?番か如何かなんて俺には関係ない。

ララが赤ん坊の頃から守ってきたんだ。そんな俺の宝物のララが俺を男として、生涯を共にする相手として選んでくれた。

これ以上の理由が必要か?」

「赤ちゃんって変態かよ!」


全然意味が分からない。幼い頃から側にいたから?だから何だと言うんだ!


「誤解しないで。ジンは5つ上の幼馴染よ。でも、誰よりも何よりも私達はお互いのことを理解しているわ。

良いところも悪いところも引っ(くる)めて大好きなの」

「でも、そいつだって獣人だ!いつか番に出逢って君から離れて行くぞっ!」


獣人の本能は絶対だ。今までの好意より、番への本能の方が断然上なのだから。


「番にはもう出会った」

「………は?」

「だが俺はララしか要らない。どんなに求められても応えられないから。最終的に薬を服用してもらった」

「……薬って……」

「知っているだろう?番の本能を消す薬だ」


……知ってる。それを飲めば二度と番を察知出来なくなる、通称番殺しと呼ばれる薬だ。

番が見つからなくて他の相手と結婚する時に、その後のトラブル回避の為に飲むことが一般的な物で。


「……どうして?せっかく番と出逢えたのに!?」

「初めて会う中身も知らない女より、17年大切にしてきたララを選ぶに決まっているだろう」


コイツは本当に獣人なのか?オオカミは妻を一人しか娶らず、伴侶をとても大切にするはずなのに……


「……番の香りは甘かっただろう?」

「あんな甘ったるい匂いより、ララの香りの方がいい」

「暗闇に光る真珠星のように眩しい存在だっただろ!?」

「珍しく少しだけ目を引く女だった。でもそれだけだ。俺はそいつを知らないし、知りたいと思わなかった。

ララが泣く方がよっぽど困る」

「……ジン、泣いてないから」

「そうだな。涙を浮かべて縋るように見つめてくるお前は最高に可愛かった」


そう言って笑った顔は本当に満ち足りた顔で。

でも、僕にはどうしても理解が出来ない。


「……番以上のものなんか存在しない」

「なぜ?番以外との夫婦がどれだけ存在しているのか知らないのか?」

「それは出逢うことが出来なかっただけだ!」

「それでも皆自分で選んだんだ。番以外との未来を。

なあ、もしも番に夫や子供がいたらどうするつもりだった?」


それは……考えないようにしていた最悪な事態だ。

それでも、ようやく出会えた番を諦めることは出来ない。


「何とかその夫達に理解してもらって離縁してもらうしか」

「お前は。それまで連れ添った夫や子供を平気で捨てるような女を愛せるのか?」

「……でも……だって、番ってそうだろ?何よりも尊い存在なんだ」

「私はそんな女を見たらとりあえずビンタするわね。

だって人でなしじゃない。一生添い遂げると伴侶にも神様にも自分自身にも誓ったのに、本能ひとつで(ひるがえ)すなんて。

人として最低最悪だとしか言えないわ」


ララさんの言葉が僕の胸を切り裂いた。

人間の常識と獣人の常識の違いを突き付けられたから。


「なあ。旅に出る前に両親に言われなかったか?ルールを守れって。その国によって法律は違うのだから気を付けろと」

「……言われました」

「じゃあ、諦めろ。番の本能が無い人間は、突然『番のいい匂いがしたから結婚して下さい』なんて台詞で、『嬉しいわ、ありがとう』と答えることはほぼ100%有り得ないから」


ポロポロと涙が止まらない。だって彼等の本気が伝わるから。

僕の番なのに、ハイイロオオカミの瞳の色のネックレスをつけて、彼としっかりと手を繋いでいて。

僕の入る隙が何処にも無い。


「なあ、疑問なんだけど。見つかった番が70歳の可愛らしいおばあちゃんだったらどうするの?孫も10人くらいいてさ。それでも攫ってくのかい?」


確かリコとかいう男からの質問に一瞬(ひる)んでしまった。

番が老人……それは考えたことが無かった。

番と出逢い、幸せな夫婦となって可愛い子供を授かって温かな家庭を築くことしか想像したことがなかったから。


「……それは分からない。先が短いのなら、その幸せを壊すことはしないかも……」


それが正直な気持ちだった。

なんだ……僕の番への思いはその程度のものだったのか。


「俺はララを幸せにする。今までもそうだったし、これからも絶対だ。

コイツは領主の娘のくせに本当に気が強くて、領民を守らなくちゃいけないからと、お前を警戒して見回りをする怖いもの知らずだから、俺が守らないと」

「僕を警戒?」

「お前達の国が一年間番探しの旅に出ることは各国に把握されているぞ。だが、恋人や伴侶がいないとは限らず、度々問題を起こすから、人間が多い国では警戒対象なんだ」


警戒対象って、まるで犯罪者扱いなのか?


「ひと月前に、犬種の青年が入国したと連絡が来た。そろそろここにも来そうだからと、領主様は騎士団や自警団に見回りを強化させていたんだ。

まさか今日はララまで行ってるとは思わなくて肝が冷えたぞ。

まあ、ある意味運命だったのかもな。こうして番同士が出会っているのだから。

だが、ララは俺を選んだ。そしてさっき彼女が言った通り、これまでの縁や誓いを捨ててお前に付いていくことは絶対に無い。

悪いが諦めてくれ。彼女の幸せを願うなら」


彼女の幸せ。そうか、僕は自分のことしか考えていなかった。僕が幸せになる為に、それだけの為に旅を続けていたんだ……。


その日の夜、僕は薬を飲んだ。二人にお願いして、次の日にもう一度だけ会ってもらった。


「おはよう。昨日はよく眠れた?」


ララさんは昨日の出来事など無かったかのような笑顔で朝の挨拶を交わす。

今日はパンツスタイルでは無く、シンプルな水色のデイドレスで、胸元にはやはり今日もジンさんの瞳の色のネックレスを付けている。

そんなララさんはとても綺麗で、でもそれだけだった。番の香りがしない彼女はもう僕の心を動かさない。

その事に何よりも僕の心は痛んだ。


「おはようございます。昨日はびっくりするくらいぐっすり眠れました」


薬を服用したせいか、精神的疲労のせいか。

泣きながらベッドに倒れ込んで朝まで眠ってしまった為、まぶたが少し重い。


「今日帰るのなら途中まで送るぞ」

「……さっさと追い出したいみたいですね」

「俺の宝物を奪われたら堪らんからな」

「…ララさんを幸せにしてあげて下さい」

「必ず。それはララの両親にも誓い済みだし。コイツを泣かせたら殺される」

「ははっ」


ハイイロオオカミを殺そうとする人間か。それは凄いな。

そうして、領主様に港まで馬車を出して送もらうことが決まった。


「ララさん、お元気で」

「うん。君もね」


結局、ただの一度も彼女が僕の名前を呼ぶことは無かった。

見ず知らずの突然の求婚者との距離とは本当はこの程度のものなのか。




馬車に揺られ、船に揺られ。少々の乗り物酔いを体験しながら国に帰ると。


「アメリー?」

「おかえりなさい、ミカエル」


何故か幼馴染のアメリーが家にいた。


「今日くらいに着くっておばさんに聞いてたから」

「そっか、ありがとう」


それから、二人でお茶を飲みながら、この一年の旅の話をアメリーに聞かせた。

彼女はひとつ年下だから、たぶん、もうすぐ番探しの旅に出るのだろう。


「私ね、番を探す気はないの。お父さん達にも薬を飲むって伝えてあるわ」

「え!どうして?」

「……好きな人がいるから」


その言葉に驚いた。ずっと妹みたいな存在だと思っていたのに、アメリーはこの一年の間にひとりの女性へと変わってしまったのか。


「彼が幸せならそれでいいと思ってたの。でも、失恋したみたいだから。だったら私が頑張ってもいいよね?」

「え、……うん。でも本当に後悔しないのか」


今でもララさんを見つけた時の多幸感が忘れられない。

あのまま二人で結ばれたなら、それから先はどれだけ幸せになれたのだろうかと、どうしても考えてしまう。


「だってずっと好きだったの。この気持ちはきっと番の本能にも負けないと思うわ」


少し頬を染めて微笑んだアメリーはとっても綺麗だった。

そうか。アメリーはその人が番だからでは無くて、その人だから好きなんだ。

それは何故か番を見つけた人よりも羨ましいと思ってしまった。

ずっと僕のあとをついて回っていたアメリーが他の男に恋をしていたなんて。


おかしい。この気持ちは何だろう?



「あのね、ミカエル。私は───」








【end】









♫•*¨*•.¸¸♪✧ ♫•*¨*•.¸¸♪✧ ♫•*¨*•.¸¸♪✧




【ララに触れようとした所からのお馬鹿ver.IF】




ぐわしっ!!


う~~っ、ララさんいい匂いっ!好きっ!!

どう?伝わった?僕です番のミカエルでっす!


ドゴッ!「ぎゃんっ!」


痛った!蹴った!?ララさんが蹴った!?


「おすわりっ!」

「はい!」


痛いよぉ、スネがじんじんする!

それでもお座りのコマンドに反応して正座する僕はいい子でしょ?

でも、ララさんは僕をひと睨みすると、スイっと視線を外した。


「……えっと、ララさん?」


え、無視!?オロオロしながらも、でもお座りを止めたら駄目な気がするから一生懸命ララさんに視線を向けて待つことにする。

抱きついたのが駄目だった?だから怒ってるんだよね?


「ララさん、ごめんなさい」


謝ってもこっちを見てくれない。


「ララさ~ん……」


どうしよう。番が怒ってる。全然こっちを見てくれない。どうして?飛びつくのはそんなに嫌だったの?


く~んく~ん、と鳴いてもまったく反応してくれない。


「ごめんなさい、二度と飛びつかないから許して下さい!」


えぐえぐ泣きながら謝っても許してもらえず、


「お嬢、そろそろ許してやれば?」

「犬の躾に情けは無用よ」


ララさんはそう言ってベンチに座りコーヒーを一杯飲んでから、ようやくこっちを見てくれた。


「何が悪かったか分かる?」

「勝手に抱きついてごめんなさい……」

「貴方がしたことは不同意わいせつ罪だから」


だって番なのにと思いながらも、言ったら絶対に叱られるのが分かっているのでひたすら謝った。


「分かった。次は了承を得てからにします!」

「しないわよ?貴方を飼う気は無いの」

「ペットじゃなくて夫希望です!」

「残念、すでに予約済みです」

「え!?」

「お相手はハイイロオオカミと人間のハーフ」

「オオカミ!?」

「番よりも私が良いと選んでくれた強者で」

「うそ!」

「私の親兄弟も認めてくれてるの」

「そんな!」

「出会うのが17年程遅かったわ。残念ね?」

「その頃まだ僕赤ちゃんだよ!?」


なんで!?情報が多すぎるよっ!!


「──ほお?これが噂のワンコロか」


バリトンボイスに殺意を乗せて届いた声に恐る恐る振り向くと、琥珀の瞳が僕をロックオンしていた。


「ジン、来たの?」

「どこかのやんちゃ娘が飛び出して行ったと聞いたからな。お仕置きが必要だろう?」


笑ってるのにまったく笑っていない瞳が凄く怖い。


「それで?犬好き娘のお眼鏡に適ったのか」

「やぁね、私が好きなのはオオカミさんよ?」

「犬の(しつけ)の本を読んでいたくせに?」

「あら、少し(たしな)んでいただけじゃない」

「……まあいい。それで?」


ぎゃっ!ララさんへの怒りまで僕にぶつけないで!


「俺のララを奪いに来たのか?」 

「ごめんなさい!奪えそうにありません!!」

「よし。じゃあ、薬飲んどけ。な?」

「はい!」


ううっ、情けないと笑わないで。仮令(たとえ)ハーフでもオオカミはオオカミ。牧羊犬の僕では勝てませんっ!


「……ハーフって本当ですか?」

「先祖返りらしくてな」

「あ、ですよね~」


だって迫力が違う。飼い犬と野生のオオカミの違いだよ、わかる?


それから僕は馬車に乗せられていそいそと家に帰った。……うん。もう、番はいいかなって。


「おかえり、ミカエル」

「アメリー?どうして……」

「おばさんに聞いたの。大変だったみたいね。大丈夫?」


キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルのアメリーはフワッとした癒やし系の女の子だ。

ちょっと体が弱いけど、いつも僕の後をついてくる姿が可愛くて。

……駄目だ。何だか心が弱ってるのかな。

アメリーの顔を見たら、何だか気が緩んで泣けてきた。


「やだ、ミカエル泣かないで?」


突然泣き出した僕を、アメリーがよしよしと撫でてくれる。


「……抱きしめてもいいですか」

「なんで敬語なの?全然いいよ?」


それはスネを蹴られて反省させられたからです。


ぽすりとアメリーにくっつき、ふんふんと髪の匂いを嗅ぐ。僕の家と同じシャンプーの香りに和んでしまう。


「ふふ、ミカエルが可愛い」

「……ごめん、かっこ悪くて」

「どうして?ミカエルはいつもカッコイイよ。だって大好きだもん」

「え!?」


突然の『大好き』に、ガバリと体を起こす。


「大好きだからいつも追い掛けてたの。知らなかった?」

「……ごめん、全然知らなかった」

「じゃあ、これから知ってね。私ももうすぐ卒業なの。……放っておくと、番探しに行っちゃうよ?」


なんと!


え、神様。これはいいのでしょうか。

番に振られたからって、優しい幼馴染にあっと言う間に絆されちゃってもいいのですか?!


「アメリー、行かないで!」


ごめん!自分が一番可愛くてっ!!


「えへっ、嬉しい」


きゅっと抱きついてきたアメリーは最高に可愛かった。


「僕、これからもっと頑張るから!」

「じゃあ、私はそのお手伝いをしてもいい?」

「よろしくお願いします!」


まさか幸せがこんな近くにあるなんて。


でもきっと、旅に出たからこそ気付けた幸せで。


さよなら、僕の番。僕はここで幸せになります!





【end】







IFはちょっと阿呆過ぎるかと思ってボツにしたけど、アメリーが気に入っているのでオマケで投稿しました。

これで実はあざとかったら笑うな~と思ったり?

とりあえず、お粗末様でした。





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