しっぽの短いあいつ
『ッ!?伏せて!!!』
「これは分かる!」
後ろから迫ってくる魔物に咄嗟に『爪術』を使い振り下ろされる爪を弾く。
「いッ!」
『下がって!アスールとルージュは背後に回れ!』
「ヴァイス。頼む。」
咄嗟に使った『爪術』はウェアウルフみたいに速さを活かした使い方ではなかったからか、体が爆散することは無かったが威力は全く出ず、押し負ける形で吹っ飛ばされた。命があるだけマシだけだと、痛いな…。
後ろから襲ってきたのは熊みたいにずんぐりむっくりしてるが、猫科特有のしなやかさが見える。正直チーターとか豹とかジャガーとか違いが分からないんだけど、ジャガーって尻尾短いんだっけ?ここまで見てきたどの猫科よりも尻尾短いから仮称ジャガー型としとこう。
「地面がびちゃびちゃだったから走ってくる音が聞こえたが、ただの草原だったら気付けなかったかもしれない。足音以外何も気づかなかった。」
『しっぽが短い猫め!驚かせやがって!アスールは右後ろ脚!ルージュは左後ろ脚を捕まえて反対方向に引っ張れ!僕は顔を抑える!』
ヴァイス達の戦闘を眺めていると今までできた猫科の魔物のように噛みつきを使ってくるのが少ないように感じる。また、爪を振るう瞬間前脚が大きくなってないだろうか。
「それにしても見れば見るほど熊みたいだな。こんな体躯で何であんなに素早くてしなやかな動きが出来るんだよ。熊と猫のハイブリットかよ。」
ジャガー型の爪の振り下ろしをヴァイスは傷一つなく受け止めている。爪と宝石のぶつかり合いのはずなのに火花が散るのはどうなんだろう。暗いから火花が良く見えるよ。
『アスール、ルージュ!僕が合図したらせーので引っ張れ!』
ジャガー型と激しい攻防を繰り返していたヴァイスからアスール達に指示が出る。
『今だ!引っ張れ!』
ヴァイスが何度目かの爪撃を弾いたときアスールとルージュが一斉に後ろに引っ張る。それにより、体勢を大きく崩し頭が地に着く。ヴァイスが頭を覆うように被さり、前に回って来たアスールが両前脚、ルージュが両後脚を拘束する。決着ついたかな。今回はだいぶ時間かかったけど、水浸しの地面というのも動きづらいとかあるのか?
『ようやく終わったよー。早く食べて綺麗な水場に行こうー!もう全身泥だらけだよー。』
アスール達もヴァイスと同じ気持ちなのか同意するように激しく飛び跳ねる。早く綺麗にしたいのは分かるけど、そんなに飛び跳ねてると近くに寄りずらいんだ。ちょっと落ち着こうか。
ジャガー型は野性味が強い感じだけど、激しい運動をしていたからか思ったよりおいしい。ずんぐりむっくりしてたから、脂身が多めに感じたけど、それが甘みに繋がってるのかな?しつこくない、くどくないおいしいお肉でした。ずっと食べ続けるのは避けたいけど。
「食べ終わったし水場探しに戻ろう。君たちを早く綺麗にしないといけないし、君たちが汚れない戦い方も探さないとね。」
地面の湿り方と、水の匂いの多いほうを目指して慎重に歩いていく。先ほどの後ろからの奇襲に備えたのかヴァイスは僕の近くに戻って来た。代わりにアスールが先頭にルージュは変わらず間にその後ろに僕、さらに後ろにヴァイスという縦列戦型で進んでいく。
「さっきのジャガー型との戦いだけど、守り一辺倒のヴァイス達が珍しく好戦的だったけどどうしたんだ?いつもは僕を守るのを優先してたヴァイスも最前線に立ってたし。」
『そりゃあ僕も浮かれてたとは言え、守るといった君を傷つけられちゃったからさ。ちょっと怒っちゃったよね。』
「傷つけられたって言っても僕は『爪術』を使った受け流しを失敗しての自傷みたいなものだから、ヴァイスのせいじゃないさ。それに、咄嗟の時に身を守れることが分かったし、悪い事だけじゃなかったよ。」
『そう言ってくれると僕も少しは楽になるけどさ。』
いつも能天気みたいに喋るヴァイスでも悩むことなんてあったんだな。確かに僕が『爪術』を使っていなかったら大けがを負っていたかもしれないが、それはろくに身を守る術も持っていないのにこんなところに来た僕が悪いのであって、ヴァイス達は何も悪くないんだから気にしなくていいのに。
「この話はとりあえず綺麗にしてからにしよう。こっちの方に水場がありそうだ。」
『嗅覚強化』により増した嗅覚が水の匂いを感知した。その方向に先頭のアスールを誘導する。
「水場があるってことは、さっきのジャガー型も近くにいるかもしれなから気をつけろよ。」
魔物が水を飲むのか知らないけど。ヴァイス達は魔力があれば問題ないって言ってるけど、他の魔物もそうなのか。それとも、肉食のライオンやジャガー、チーターは肉や水が必要なのか。魔物は謎が多いな。
『次は無いから安心して!僕が絶対に守るから!』
その気持ちは嬉しいけど、過保護にならないと良いな。案外『爪術』も、速さと威力を捨てれば使えないことも分かったし。練習しとこ。
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