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初めての魔物食はラムネ味

「君の能力は『悪食王』というものだね。どんなものでも食べられるようになる効果のようだ。どんなゲテモノだろうが、毒が含まれていても問題なしになるようだね。それこそ、土とか木とか、コンクリートなどの食べ物じゃないものも食べられるようだね。ギルドのデータベースに無いから、君が初めての発現者だ!おめでとう!唯一保持者だ!これから先、空腹で倒れることは無くなったね!」


「………『悪食王』ですか。こ、これって、戦闘で使えますか?」


「んー。何事も使い方だと思うよ。毒も食べられるなら、人には毒の塊の魔物だって食べられるはずだし。」


「魔物を食べる、ですか。」


「まぁそれが気に入らないなら、ダンジョンに入らなければいいだけだし、何も問題ないでしょ。次の人もいるから、そろそろどいてね!」


 解析カウンターの前から離れ、ギルドの入り口付近まで下がる。


「なんでも食べられる『悪食王』。王を冠するのになんでも食べられるだけって…。これから先どうしよ。」


 入り口横にあった観葉植物の葉を、物は試しと食べながらどうしてこうなったのかを思い出す。


「あ、おいしい。」




 僕は梔子夕。高校を卒業して、冒険者会社に務める予定だったんだけど、先月の半ばに突然会社が無くなった。会社が赤字で倒産とか、ダンジョン関連から離れるとか、犯罪していて捜査当局が入ったとかじゃなく、会社があった場所にダンジョンが出現して物理的になくなっちゃった。

 急に社長さんから連絡来て、一年で何とかするから待っていてもらえないか!って来た時はなんのこっちゃって感じだったけど、契約書を持って来た時にダンジョンになってたのを見て、そういう事かと納得したね。


「それでもこれからどうするかって話なんだけどね。」


 人が生きていくには衣食住が必要だと言われているけど、食は『悪食王』のおかげで何とでもなるし、衣も贅沢言わなきゃ今までのものがあるから問題なし。でも、住は、会社の寮に入る予定だったから、さてどうしよう。


「短期間ならホテル住まいでもよかったんだが、さすがに一年泊まれるほどの蓄えはない。」


 とりあえず、会社に入ったらやる予定だった冒険者登録をしてきたものの、手に入れた能力は『悪食王』。会社に入っていれば、これの上手い使いみちを習えたかもしれないけど、教えてくれる人もいない。これが剣術や槍術みたいな、名前からして分かりやすいものなら喜び勇んでダンジョンに潜っていたけど。


「ダンジョンね。食べ物に困らないし、ダンジョンに泊まる?」


 考えがまとまらな過ぎて危険な考えが浮かんできた。


「ダンジョンはさすがに。過去に疲れ果てて眠りに落ちた冒険者が『掃除屋』に食べられかけたって噂もあったし、おちおち眠れないよ。」


 ダンジョンでの寝泊まりは否定するも、今日明日のホテル代を稼ぐためにダンジョンに足を向ける。


「ここから一番近くて一番難易度が低いダンジョンは………『粘魔の宝石箱』?Fランクダンジョンか。さすがにここなら僕でも入れるかな。」


『粘魔の宝石箱』ここはFランクダンジョンで、出てくる魔物は粘魔種・スライム種のみであり、全十階層。スライム種は『ダンジョンの掃除屋』と呼ばれており、魔物では珍しく中立であり、どこのダンジョンにもいるとされている。こちらが敵対しなければ通路などでぽよんぽよん跳ねているだけであり、可愛いものである。魔物を倒した時や、魔物に倒されたときにそれを処理するために覆いかぶさり、溶かして食べることが目撃されている。粘魔種の種類は多岐に渡り、火山地帯に耐えるものや豪雪地帯に耐えるものなど、環境により特別な進化をする。


『粘魔の宝石箱』固有のスライム。ジュエルスライムを見つけた君はラッキーだ!倒すと宝石が手に入るぞ!


「ジュエルスライムか。ラッキーってことは相当稀に出るってことか。僕の今の運は過去最低だから出会える気がしないね。」


 早速ダンジョンに入っていくと、非敵対魔物しか出現しない初心者におすすめのダンジョンらしく、僕と同じく初心者だと思われる冒険者が目に映る。


 非敵対とはいえスライムも魔物は魔物。初めての戦闘を一対一で戦えるのはありがたい。スライムは攻撃すると攻撃を受けた一体と戦闘状態になる為、魔物と言えど生物を殺すことが出来るのか、試すにはちょうどいいらしい。


「僕も戦闘をしてみたいけど、さすがにスライムを食べてるところを見られたくはないな。もっと端っこの方に行こう。」


 通路で剣や槍、杖、拳などでスライムと戦う人たちを横目に見ながら奥に奥に進んでいく。


「さっきまで結構すれ違ってたのに。」


 通路をそのまま進んでいても人が途切れないことに気づいてから脇道に入ったら、途端に人と会わなくなった。初めてのダンジョンアタックで脇道に逸れる人はいないだろうし、慣れた人がわざわざ階層更新しないで一階層に留まるわけないか。


 少し遠くに行き止まりが見えるところで、左からぽよんぽよんと跳ねながら一匹のスライムが現れた。


「どの段階で敵対となるのか分からないけど、『悪食王』試してみますか。」


 まずは跳ねているスライムに近づいてみる。特に反応なし。通路を歩いているときもスライムの横を通るとき、何もなかったからこれは分かっていたこと。

 次に手に持ってもみる。これも反応なし。武器を構える、警戒しながら近づくなんてことをしなかったのが良かったのかもしれない。持ってみたら意外と小さく手のひらサイズ。もしかしたらミニスライムかもしれない。初めての魔物で僕も舞い上がっていたのかもしれない。

 最後に『悪食王』を試して食べてみる。顔を近づけても反応がなく、ぷるぷるの体にかぶりついたとき初めて体をねじるような反応をした。


「あ、甘くておいしい。」


 ぷるぷるの通りにゼリーのような食感だった。大きさもあって二口で食べてしまったけど、二口目に魔石も口に入り、ぱちぱちとした新食感が心地よく、ミニスライムの色も相まってラムネのゼリーを食べているようだった。


「初めての魔物食はラムネ味。」

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