砂漠の街 別れ
茶屋で腹ごしらえ。
少女は剣聖を探している。
だが、その理由は話せない。
また、どうやら少女は剣聖と結婚する気でいるらしい。しかも剣聖は不老不死?
ジンは頭を抱える。
結局、少女が剣聖を探している理由は話せないものであるらしかった。
ただ、少女は幼い頃、剣聖の妻になると約束をしたらしい。
まさか、10年以上前の婚約を成し遂げるために剣聖を探している訳ではあるまいが…。
不精ヒゲ男ことジンと少女が店を出ると
もうすっかり外は暗くなっていた。
夜空に3つの月が大きく輝いている。
それぞれ白月、赤月、青月。
その名の通りの色に輝いている。
「んで、君これからどーすんのー?」
「今夜は宿を取って、また明日、自警団に行ってみます。」
「そかそかー。んじゃー」
ジンはそそくさと去ろうとする。
少女はジンを特に好きではないし、むしろ妙な人だと思っているが、いざ別れるとなると何故か寂しく思った。
「…あ、ジン殿」
「んあー?」
ふりかえり、寝ぼけたような開いてるんだか閉じてるんだかわからない眼で少女を見やる。
「あの…今日は本当にありがとうございました。」
すっと頭を下げた。
少女は姿勢が良く、頭を下げる時でも身体の軸がぶれない。
「いやー、とにかくムリすんなよー
じゃなー」
ジンは手をひらひらさせながら街中へ消えて行った。
それを見届け、少女は今更ながら気がついた。
ジンは黒髪、黒い瞳で黄色の肌。
この街の人たちのほとんどが、ジンと同じだ。
だから自然とジンはこの辺りの住人だと思っていた。
だが、ジンは砂漠で会った時に、街の方角を聞いて来た。
つまり、かなりの方向音痴か、この街の住人ではないことになる。
(そういえば、饅頭にしても、店で出された料理にも珍しそうにいちいち感心しながら食べていた)
この街の住人でないなら、ジンは何をしにここまで来たのだろうか?
自分の事ばかり考えていて、ジンのことは何も聞かなかった。
疲労もあったし、野盗との戦闘もあった。
剣聖様を探す事で頭がいっぱいだったが、恩人と言いながら、ジンのことをひとつも知ろうとしなかった。
その事に気づいた時、少女はなんだか情けない気持ちでいっぱいになった。
「もし、こんど会えたらジン殿のことも聞いてみよう…」
少女は踵を返し、宿屋街へ向かって行った。