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砂漠の街で屋台と厠

少女ウォルデリアはあるお方を探していた。

旅の途中、砂漠で二人の野盗に襲われる。

突然現れた中年男は助ける訳ではなかったが、それても少女に武器を渡し、大男を倒す手助けをする。

もうひとりの野盗は大きな鳥に乗り逃げてしまう。

捉えた大男を自警団に引き渡すべく、街に向かう少女と妙な中年男、そして捉えた大男。

自警団に行く前にメシが食いたいと言う中年男だったが、少女に却下された。

中年男よりも大きな腹の虫を盛大に鳴かせながら少女ウォルデリアは街に入ると自警団へとまっすぐに向かった。

自分を襲った二人の野盗の片方である大男を引き渡すためである。


手足を奴隷のように縛った野盗を置いて、悠長にメシなど食えん、というのが少女の意見であり、それは真っ当である。

大男を連れているとメシを食っている間に野盗の仲間に見つかって襲われる可能性も高い。

大男の連れで逃げた細身の男が恐らく野盗の頭目に報告しているだろう。


(この妙な中年男はともかく、わたしの外見は目立つからな…)


少女ウォルデリアは真紅の瞳、銀色の髪、そして日焼けともまた違う褐色の肌であり、この辺りでは珍しいもっと南の人種だった。

このあたりは黒髪に黒い瞳、日焼けしているが元の皮膚は黄色である。


人種の問題だけではない。

少女は極めて美しいと言っても過言ではない。

まだ10代半ばであり、年齢からもまだ顔にどこか幼さを残すものの、猫を思わせる顔立ちで剣を振るう時などは引き締まり、女豹のようにも見える。

触れるならば、相当の覚悟をしなければ、かなりの痛手を食うのではないかと思わせる野性味のある美人である。


顔立ちだけではなく、身長は特別に高くはないものの、実に健康的なバランスの取れた身体をしている。

全身は日々の鍛錬により引き締まっているが、女性の象徴である胸や尻がよく発達している。

マントを被ってしまえば分からないが暑いので前は開けている。

風にタントがはためけば、嫌でもその完成された肉体美があらわになる。


(わたしは別に望んでいないのだが、男の視線を集める容姿であることは理解している。

しかし、どう見ても戦士であるのに…

まぁ好奇心というものか…)


はぁ、とため息をつく。

「どったの?話聞こか?」

急にフードの奥の顔をのぞき込まれて、ぎょっとする。

声の主は相変わらずのまぬけ面である。

中年男…と思っていたが不精ヒゲのせいでそう思い込んでいたようだ。

間近でみると肌ツヤなどからそれほど年齢を感じさせない。

もしかすると30代ぐらいかもしれない。

しかし歳上の男性の年齢はよく分からない。

立派なヒゲが生えているだけで40代か50代かと思ったら、まだ20代だと城の衛兵に言われた事がある。

恰幅がいいのは、ただの肥満だそうだ。

そうは言っても衛兵である。

全部が脂肪であるはずもない。


「ん?悩み事なら、おじさんに話してごらん?」

中年…だと思われる男は、雰囲気がなんだか薄っぺらい。

「…いえ、結構です。お気づかい頂きありがとうございます」

実に冷えた口調で少女は少なくとも目上であろう男にはっきり告げた。


「そっかー、ざんねーん」

そう言いながら、中年男は口をもぐもぐさせている。

思わず二度見した。

(は?え?は?)

びっくりして猫のような眼をまん丸にして中年男の顔…いや口元とその手にする物を見た。

「ん?どったの?んぐんぐ」

「………」

(何を食べているんだ?いや、いつ手に入れた?ずっとわたしの横を歩いていたはずだ?)

男は口の端をにっと上げて言った。

「なんか君ってちょっと変わってるよねー」

「………」

(いやいやいや、待て待て待て

変わってるのは貴様だ)


そこでまたもや少女の盛大な腹の虫が鳴いた。

思わず腹を手で押さえる。

中年男は、そこでハっとする。

「あ、ごめーん、まことにすっまーん」

変な調子を取りながらそう言うと懐から 葉に包まれた饅頭を差し出した。

「なかなか美味だぞ、中にひき肉と何か野菜を砕いたものを混ぜたものが入っていた」

「…あ、ありがたくいただきます。」


受け取った饅頭はまだ暖かい。

「暑い時に熱いものはどうかと思うが冷やした汁物はさすがに懐に入れられんからな。ははは。」

「…いつの間に買われたのですか?」

「ん?先ほどな、そこの屋台だ」

(なんという早業か…

先ほど、というと、わたしがつまらぬ思案をしていた時か…)

振り向きつつ中年男の指さす方角を見やり、前を向いて、いくぶん行儀が悪いが歩きながら食べようかと饅頭を口にほおばろうとした時、嫌な予感があたまをよぎり、後ろを振り向いた。

「え?は?え?」

またもや思わず二度見した。

そして中年男に向き直り、その名を呼ぼうとして、未だにその名を尋ねていなかったことに今更気がついた。

しかし、今は問題はそれでは無い。

「あの男は?!」

「あの男とは?」

中年男はもぐもぐと口を動かす。

「あの野盗の大男はどこに?!」

「ああ、あの大男かー、小便がしたいと言ったので、おれが屋台に行った時に厠に行かせた」

「なんですって?!」

「いや、だから、小便をしに…

たしかに小便にしては遅い。うむ、大きい方かもしれんなー

身体がデカイからな、出る物もデカイのであろうなー

もしかして硬いのかもな?

今頃、うんうん、唸っているかな?

う〇こだけにねー。ははは。」


その間の抜けた声に思わず往来のど真ん中で頭を抱えて、少女は座り込んだ。

(なんということか…

この妙な中年男に野盗の縄を持たせたのが間違いであったか…)

「私では力づくでは敵わないからと、貴殿に任せたのが浅はかであった…」

「うむ?」

はて?とでも言うように小首を傾げる名称不明、年齢不詳の不精ヒゲ男であった。

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