砂漠の野盗
真紅の瞳、銀色の髪、褐色の肌。
少女ウォルデリアは砂漠を歩いていた。
照りつける陽射しの中、先を急いでいた。
(本来ならば、日が落ちてから動くべきだが…)
いや、しかし!と頭を左右にふる。
(一刻も早く、あの方を探さねば!)
先程、携帯していた水は飲み干してしまった。
もはや、賭けに近い。
行き倒れるのが先か、それとも街に着くのが先か。
照りつける太陽に水分を奪われる。
砂の上を歩くのは体力をつかう。
砂漠は平坦ではない。
砂丘を下り、また登る。
そうしていくつかの砂の山を越えて、日が沈みかけた頃、ようやく街が見えた。
(街だ!まさか蜃気楼ではあるまいな…)
疲労のせいか、乾き切った身体のせいか、視界はぼんやりとしていた。
真昼間ならば蜃気楼かも知れないが、日はすでに傾いている。
遠くに見える街を蜃気楼と見間違えそうなほど、少女は疲弊していた。
(とりあえずは、この命つなげそうだな)
そう思うと急に力が抜けて、砂の上にぺたりと座り込んでしまった。
緊張の糸が切れてしまったのか、立ち上がろうとするが力が入らない。
(くっ!あと、もう少しなのに…)
その時、思わぬ方向から土煙が上がった。
驚き、振り向くと、土煙の向こうに影が2つ。
少女はぼんやりとした眼をこすり、じっと見つめる。
その影はだんだんと近く大きくなった。
(あれは…)
砂ぼこりを巻き上げながらあらわれたのは、ダクダルという大きな鳥が2頭。
鳥ではあるが、飛ぶよりも砂の上を走るのを得意としている。
そしてその上には人影がある。
(まずいな。野盗か…。街の自警団であれば助かるが…。)
砂漠では隠れようもない。
それにすでに向こうは少女を認識しているようだ。
まっすぐに向かって来る。
(野盗のたぐいであればダクダルを奪えれば、ちょうどいい)
そう思案を巡らせていると、2頭の大きな鳥が少女の前で止まった。
巻き上がる砂ぼこりに思わず顔をしかめながらも見上げた。
その上に乗る男二人は見るからにチンピラのたぐいである。
脂肪の多い大男とひょろひょろとした細身の男。
ニヤニヤしながら無言で少女を見下ろし、なめまわすように全身を見ている。
(これはまた見るからに悪人面だな)
人を見た目で判断してはいけないと思い直し、少女は丁寧にたずねた。
「あの、大変申し訳ないが、街まで連れて行ってもらえないだろうか?
水がつきてしまって…」
男二人はお互いに顔を見合わせ、何やらうなづくとダクダルから下りて、少女に近づいた。
細身の男と大男。
ひょろりとした男のほうが少女の前に座り込んで顔を近づけた。
「あ、あの…」
そう言いながらも少女はマントのなかで短剣の柄を握りしめる。
男はニヤニヤしながらおもむろに座り込む少女の太ももの間に手を突っ込んだ。
「何をする!」
少女は叫ぶと同時に片足で男のアゴを蹴りあげる。
男はひっくり返りながらも器用に一回転して少女に向き直った。
ニヤニヤした顔のままで言った。
「オイオイ、おまえ足癖が悪いなぁ?
目上の大人に向かって、それはないだろう?
これは教育する必要があるなぁ?」
その後ろから大男がぺろりと舌をだした。
「怒った顔がいいねぇ~。おれはそういう女を屈服させるのが大好きなんだよぉ」
少女は自らのマントを剥ぎ取って、痩せた男に向かって投げつけた。
「うおっ」
マントを被せられ尻もちを着く男。
少女は素早く飛び乗り、その上から短剣を突き立てる。
「ぎゃあああ!!」
布地の上からなのでどの程度のダメージを与えられたかは良くわからない。
しかし手応えはあった。
マントをかぶったまま、のたうち回る男を気にせず、もう1人に向かって腰の革袋から細く鋭い棒をいくつか取り出し、素早く投げつける。
キンキンと金属同士がかち合う音が響く。
「なめんなっ」
男は忌々しげに叫びながらそれらを器用に剣で払い落としていた。
少女は素早く相手の左に回り込む。
(野盗にしてはまあまあできる方か?)
それでも勝てない相手ではないと踏んで腰の剣を抜いて構えた。
体調はすこぶる悪い。
不調もいいところだ。
だがこの程度ならそう長引くことはないだろう。
ぶんぶんと振り回す大雑把な剣を少女はスルスルとかわす。
技量で勝るとも、腕力の差はいかんともしがたい。
大男とまともに撃ち合うのは流石に分が悪い。
回避に徹する。
「この女ぁ!ちょこまかと!」
男が横に剣をなぐ。
それをスっと下がって避けた。
避けたところで、ぐにゃりと足場かゆがんだ。
何かを踏んだようだ。
体制を立て直そうとした瞬間
「つっかまえたぁ!」
少女の耳元で先程転げ回っていた男の大声がした。
(しまった!)
身体をよじり砂の上に転がろうとしたが、男が後ろから少女の身体を抱き抱えて離さない。
(油断した!あれだけ叫んでいれば戦力にならないものとばかり思っていたが!)
「うひひひひ!お前が刺したのは水袋だ!ざーんねーん!」
少女をしっかりと抱きしめながら男はそう言って耳にしゃぶりついた。
(くっ!気持ち悪い!)
男は足をからめて、少女とともに砂の上に転がる。
寝技のようだ。
男にしては細い腕がぐねぐねと少女に絡みつき、自由を奪う。
「でかした!」
大男がにやりと笑いながらゆっくりと近づいて来た。
(まずい…動けない!)
少女の両手は細い男の片手で上手く封じられ、両足も男の足がからみついたままだ。
「ウッヒョォォォォオ!揉みがいがあるなぁ!」
男は空いた片手で後ろから少女の大ぶりな胸をまさぐっていた。
(くっ!この変態め!
逃げられない!どうするか…
大人しくなったフリをして油断させて倒すか…)
細い男は少女の胸を揉みしだいていた手を離し、腹をなでまわし、そのまま下をまさぐる。
(んっ!このやろう!)
「お嬢ちゃ~ん、そんなににらむなってぇ。
ちゃ~んと気持ち良くしてあげるからさぁ」
男はいきり立った物を少女の尻にこすりつける。
こんなところで、こんな最後を迎えるわけにはいかない。
大男がゆっくりと近づきながら言った。
「もう観念しろって。殺しはしねぇからよ。
だってもったいないだろ?
俺たちがゆっくり楽しんだあとはコズバ様に献上してやる。」
(コズバ?このあたりの頭目か?)
とりあえず命だけは助かるようだ。
だが、こんな男たちに貞操を散らされるわけにはいかない。
(どうすれば逃れられる?!
何としても、あのお方にお会いしなければならないのに、こんなところで!)
少女は1ヶ月前まではこんな事になるとは思ってもいなかった。