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砂漠の街 少女ウォルデリアの回想

少女ウォルデリアは砂漠で不精ヒゲ男ジンと出会う。

少女はある目的から放浪の剣聖バルデスを探している。

二人は砂漠の街へ向かい、そこで別れるのだが…。

砂漠の街の中央部には大きな通りがある。

夜でも飲み屋を中心に活気がたえない。

その大通りから少し外れた所に街の外から来た旅人を受け入れる宿屋街がある。


真紅の瞳、肩のあたりで切りそろえた銀色の髪、褐色の肌をもつ少女ウォルデリアは、宿屋の一室でほっと一息ついていた。

それはため息にも似ていた。


宿の部屋は小さく、荷物置き場と寝床、小さな丸いテーブルがひとつ。

椅子はなく、座るのはベッドの端だった。


少女は今夜、街についたばかりだ。

夕暮れ時には砂漠で水も無く、危うく死ぬところだった。

運がないことに、野盗にも襲われ、犯されそうになったが、妙な不精ヒゲ男が現れ、野盗に奪われた武具を渡してもらえた。

その妙な男はあろうことか助けようともせずに、ウォルデリアの尻を叩いて「がんばって」と言った。

さらに「もう産めそうだね」とも言っていた。


「まったく、わけのわからん男だったな…」

少女はひとりごち、小さな窓を見やる。

雲の少ない夜空に3つの月が輝いている。

「しかも、せっかく捕らえた野盗を逃がしてしまうし」

少女はその猫のような顔を少ししかめた。

褐色の肌は日焼けではなく、生来のものだ。

その目元は化粧もしていないのに薄い桃色をしている。

生まれ持ったアイシャドウだ。


「…剣聖様はどこにおられるのか…」

少女は月をみながらつぶやいた。

「この月明かりに剣聖様も照らされているだろう。

月の神よ、教えてくれ。

剣聖様はどこにおられるのか…

我が王国の一大事なのだ…」

月が答えるわけもない。

それは少女もわかっている。

わかっているが、今は何も出来ないことに焦燥している。


少女は眼を閉じた。

(父上、兄上…)

1ヶ月前の夜を思い出していた。


その日の夜は雲が多く3つの月がすべて隠れ、暗い夜だった。

王族の住まう城では大広間で晩餐会が行われていた。

王を筆頭に王族に名を連ねる者のすべて、王族と言っても隠居している遠い親戚や、産まれたばかりの幼子も含めて11人。

そして貴族でも有力な7貴族の代表者が連れ立った者も含め17人。

政治を担う宰相と大臣たちが副大臣を含め22人。

王国の経済を担う大商人らの一族がまとめて30人。

教皇を筆頭とした教会の司教たちが13人。

計93人の晩餐会である。

その大広間を守るのはそれぞれが配置につく近衛騎士団総員20名だった。


少女ウォルデリアは父である国王、そして兄である王子と共に、王女として晩餐会に出席していた。


ひとりの貴族が少女に声をかけた。

「まぁまぁ、ウォルデリア様、お久しぶりでございます。本当にお美しくなられて。

亡くなられた王妃様にそっくりでございますね」

その貴族は豪奢なドレスに身を包んだウォルデリアをみながら、目を細めてしみじみとそう言った。


母である王妃は大陸の南、最南端にある部族の出身だった。少女と同じ赤い瞳に銀髪、褐色の肌。

王妃が夫となる王と出会った旅の話はまた別の物語である。


王妃は少女が幼い頃、すでに亡くなっている。

南の国で伸び伸びと育ち、身体は丈夫な方であったが、運が悪く流行り病に倒れ、あれよあれよという間に容態が急変し眠るように息を引き取った。


まだ幼かったウォルデリアを皆が慰めた。

その中でも当時王国に滞留していた剣聖バルデスが良く遊んでやった。

王と王妃、そして剣聖バルデスはかつて共に大陸中を旅した親友であった。


北限の氷の大地でオーロラを見て、東端ではまったく文化の異なる不思議な民族と交流し

南の密林で巨大な魔獣を狩り、西の遺跡で巨大な操り人形を倒した。


そんな王妃にそっくりだと言われ、嬉しく思うと同時に亡き母の優しい笑顔を思い出すと泣きそうになる。

一生忘れることのない母の笑顔。


(母様…)


突然、叫び声があがり騒がしくなった。

100名近い人々がいる晩餐会である。

人混みが邪魔で声のする方を向いても、少女には何が起きているのかわからない。


するとよく通る大声が聞こえてきた。

「曲者だ!皆さん、壁際に下がって下さい!」

騎士団長の声だ。

遠くから金属音が聴こえる。

ウォルデリアは瞬時に戦闘モードに切り替わる。

王女でありながら、騎士団に交じり今まで武を磨いてきた。


悲鳴をあげながら大広間の奥の壁際まで逃げようとする来賓客たちの波をよけながら、逆に音のする方へと向かう。

晩餐会であるから少女はドレスを着ていて動きにくい。もちろん武装は何もない。

少女は軽く舌打ちをする。


(隠し剣ぐらい太ももに装備するべきだったか!

たしか向こうには父様と兄上がいたはず!)


そう思いながらテーブルの上の明かりを灯す燭台を手に取り、逃げ惑う人波をくぐり抜けた。

(これでも無いよりマシだろう)


人混みを抜けるとそこには王と王子を守ろうする騎士団長と数名の騎士の姿があった。

そしてそれを取り囲む奇妙な仮面の男たち。

明らかに侵入者たちの方が人数が多い。


「父様!兄上!」

思わず声をあげる少女に王は言った。

「ダメだ!こっちに来るな!逃げろ!」

王は軟弱ではない。

大陸を駆け巡ったこともある猛者である。

その人物の判断が間違っている訳が無い。

つまりそれだけ勝ち目がないということだ。


(父様が判断を間違うはずかない!

でも!)


「ウォルデリア!肖像画だ!戦場で迷うな!」

間を置かずに兄である王子の声が飛ぶ。


(肖像画!)

少女はせめてもの抵抗として、手にしていた燭台を仮面の男たちの方に向けて投げつけた。

侵入者の1人がなんなくそれを剣で撃ち落とす。

キインと乾いた金属音が鳴ると同時に少女は侵入者たちが来た出入り口でも、来賓客が逃げた壁際でもなく、大きな先代国王の肖像画へと向かって身を屈めて全力でジグザグに走った。


後ろから鋭い金属が投げつけられたが、ジグザグに走る屈めた身体に当てるのは難しく、それらはウォルデリアの横をすり抜けた。

「王女を傷つけるな!献上するのだ!生けどれ!」

後ろで声がした。

少女からは見えなかったが、そう言ったのは仮面の男たちのひとりだった。


(献上?!誰に?!どういうことだ?!)


少女は後ろで聴こえた声に一瞬思いを巡らすが、すぐに切り替えた。

肖像画の前にたどり着くと

(お爺様!失礼します!)

心の中で先代王に詫び、そのまま飛び上がり、からだを丸めて肖像画に飛び込んだ。


バリっと肖像画が破れ、その向こう側に吸い込まれるように王女ウォルデリアの姿が消えた。


「なんだとっ?!」

仮面男のひとりが叫んびながら、肖像画に駆け寄り、破れた肖像画の向こう側をのぞきこんだ。

人ひとりが通れる大きさの穴が空いていて、坂になっていた。

中は暗く奥までは見えないが、どういう仕掛けか、天井が崩れ、消えた王女を追いかけることは出来そうもなかった。


「…チッ!逃げられたか」

男は振り返り仮面の男たちに向かって叫んだ

「何人か王女を追え!

他の者は王族を捕らえろ!

抵抗するなら女と子供から殺せ!」

一呼吸おいてからまた言った。

「王族にしか用は無い!

他の者は抵抗したら殺す!」


女と子供を人質にとられたのと同じようなものだ。

武器もなく抵抗は難しい。

王族以外、逆らわなければ殺されないならば、来賓客たちは大人しくするしかない。


こうして王族11人は捕らえられ、来賓客たちはかなりの脅しと口止めをされてから全員が解放された。

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