ピオーネホテルにて
秋塚文近と名乗る男からの呼び出しを受けピオーネホテルへと足を運んだ河豚男。受付へと向かう。
先ずは受付で秋塚文近の客だと伝えるんだったな。
「ようこそ。ピオーネホテルへ。予約の確認を致しますので、お名前をお願い致します」
「いや、予約はしてないです。秋塚文近という方と待ち合わせをしていまして、受付でそう伝えれば案内してもらえるとお聞きしたのですが」
「秋塚様のお客様なのですね。これは大変失礼いたしました。当ホテルの最上階VIPルームに御案内致します」
受付の女性と共にエレベータに乗り込み受付の女性が鍵を差し込むとパネルが出てきて、指紋と暗証番号を入力し最上階のボタンを押す。
「随分、セキュリティが高いんですね?」
「えぇ、このピオーネホテルの売りはVIPの方々に世俗を離れた安心をと謳っておりますので、芸能人の方やお忍びでいらした方、財閥の方や政界の人に重宝して頂いております。秋塚様は、当ホテルの支配人を兼任されているのです」
「成程、ここまでセキュリティが高ければ安心ですね」
秋塚文近がこのホテルの支配人?frontier社で父さんの腹心を務めていたんじゃなかったのか?どういうことだ?まさか黙って副業で懐を肥やしていた?だとしたらとんでもない男の可能性が高い。用心しておかなければならない気がする。
「そう緊張する必要はありませんよ。桶階作智様」
「えっ?」
なんで、この受付の女が俺の本名を知っている?
「そう驚く必要はありませんよ。当ピオーネホテルは、桶階作斗様がオーナーなのですから。それにしても文近の言っていた通り、生きていらしたのですね作智坊ちゃま」
「さっきから貴方は何を言っているんだ?僕の名前は肝田河豚男。桶階作智なんて名前は知らない」
「成程、警戒心を解いてはくださいませんか。まぁ、それも仕方ありません」
チンと音が鳴り最上階のVIPルームとやらについた。その奥に見た目は20代に見える男性が1人立っていた。
「初めまして、作智坊ちゃま。当ホテルの支配人を務めております秋塚文近と申します。この度は、当ホテルに御足労いただきまして誠に有難うございます」
「さっきから君たちは何を言ってるんだ?僕の名前は肝田河豚男。作智なんて名前ではないのだが」
「警戒するのも無理はありません。羽陽音様から私が作斗様を裏切り貞朝に付いた裏切り者だとそう言われたのでしょう。その言葉に間違いはありません。大恩ある作斗様を裏切り、貞朝に尻尾を振った。だがそれもこれも作斗様のため。行方不明などではなく貞朝が何処かに監禁していると考え、探るためだったのです。信じては頂けないかもしれませんがここ数日貞朝がイライラしているのを見て、後を付けたところ厳重に鍵のかかった扉を見つけたのです。恐らくそこに囚われているのではないかと考えています。行方不明となっていた風呂階羽陽音様とその付き人の梨里杏。それに最も驚いたのは死んだと聞かされていた作智坊ちゃまの生存でした。良く良く生きていてくださいました」
コイツの言葉を全て信じて良いのか?だが、俺の生存を本当に喜んでいる。この涙を流す2人に嘘はないように見受けられる。
「わかった。降参だ。僕が桶階作智だよ。君たち2人のことを信じるよ」
「文近、良かったわね」
「あぁ、菖蒲にも今まで私のせいで心労をかけたな」
「良いのよ。妻として夫を支えるのは当然だもの。それに、私たちを結びつけてくれたのは作斗様だもの。私だって、作斗様の無事を願う1人だもの」
「えっ奥さんが受付嬢なの?」
「あっ。改めまして、当ホテルの社長を務めております秋塚菖蒲と申します」
奥さんが社長で旦那が支配人?
「困惑されるのも無理はありません。先程文近の申した通り、当ホテルのオーナーは桶階作斗様。社長には文近の妻の私秋塚菖蒲がそして、支配人には文近が。このホテルは、今のfrontier社の中で唯一御離羅家の影響の及ばないところとなっています。財界との強いパイプのあるこのホテルに対して御離羅家は放置することを決めたのです。監視もありません。そんなことをすれば、政界から御離羅家に対してどんな処罰が下されるかわかりませんから。ですからそのあたりは御安心くださいませ作智坊ちゃま」
「その坊ちゃまってのやめてくれない?むず痒いんだけど。そもそも、僕にとっては2人とも今日会ったばかりの他人だよ?父に御世話になったからって僕にまで気を遣う必要はないんだよ」
「いえ、文近も私も元は桶階家に仕える使用人なのです」
「当時から噂になっていたのですが皆見て見ぬふりをしてくださっていたのですが当時メイドと執事の恋愛は御法度でした。そこを作斗様が私を新しく作ったfrontier社の研究主任に、菖蒲をピオーネホテルの社長とすることで、交際を後押ししてくださったのです。我々にとって、作斗様の御子息である作智様は、大事な坊ちゃまなのですよ」
「そういうことなら無理にとは言わないけど。で話ってのはそれだけ?」
「いえ、デモンズフロンティアの世界は、今や御離羅貞朝に監視されています。向こうの世界で、くれぐれも桶階作智と名乗らぬように。後、私はこれからも貞朝に付きながら作斗様の行方を追いますので、頼まれた際は敵となることをお許しください」
「わかった。皆にもそのように言っておくよ。でも、それじゃあ、司と戦った時のヤバいんじゃ」
「御安心ください。私がそれを一番最初に見て、作智坊ちゃまの生存に気付いたのです。そうでなければ今頃、大変なことになっていたでしょう」
「知らない間に助けられていたんだな。ありがとう」
「いえ、それでは作智坊ちゃま。どうかくれぐれもお気をつけください。御離羅貞朝は、懸賞金だけでなく第二の刺客である御離羅和に作智坊ちゃまを襲わせようとしています」
「また、御離羅家か。わかった。重ね重ね感謝する」
こうして僕はピオーネホテルを後にして、風呂階邸に戻るのだった。
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