第9話 ダンバスランクを上げてみよう
「どきどき」
『はい、準備完了です』
「こ、ここに入れるの……?」
リーサのほっそりとした白魚のような指が、小さな穴を指さす。
『リーサちゃん、やりすぎるとあふれちゃうから……最初はゆっくりね』
「はいっ。
……ごくっ」
リーサは息を飲み、ゆっくりと穴に近づいていく。
「……こら、変な空気にしない」
ぽこん
軽くリーサの頭を小突く。
「単なる”ランクアップ”の作業だろ?」
「フェリナもリーサで遊ばない」
『てへ、ちょっと盛り上がっちゃいましたね』
「は~い、ちょっと残念」
「……まったく」
教育に悪いぞ?
あらためて、目の前の壁に浮き出た緑色の魔法陣を観察する。
ここは某政府機関が入るビルの地下。
俺たちは、念願の”ランクアップ”をするためにここに来ていた。
あらゆる場所に出現するダンジョン。
その中にはごくまれに、特別な効果を持つ物があり……そういうダンジョンは退治せずに”固定化”される。
スキルポイントを掘り出せる鉱山と呼ばれるものや、今俺たちの目の前にあるダンジョンバスターランクをアップできる限界突破と呼ばれるものがその一部だ。
「ほら、あとがつかえてるんだから早く行くぞ」
限界突破ダンジョンは日本に数カ所しかなく、ランクアップしたいダンバスでいつも予約が埋まっている。
ノーツ家の特別枠をフェリナが融通してくれ、待ち時間なしでのランクアップが出来ることになったのだ。
(ランクアップなんて……5年ぶりくらいか?)
見習いであるHランクは書類上のランクであり、HからGへのランクアップは自動で行われる。
俺が正規のランクアップをしたのは、GからFへの一度のみ。
「ユウ、早く行こう?」
「……ああ!」
実はリーサ以上にドキドキしている。
俺は緑色に輝く魔法陣に触れると、限界突破ダンジョンへ転移した。
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『スキルポイント8,000を消費し、ランクをFからDに変更します』
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■個人情報
明石 優
年齢:25歳 性別:男
所属:F・ノーツギルド
ランク:F
スキルポイント残高:11,780
スキルポイント獲得倍率:と$な#%
口座残高:900,800円
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「了解!」
現在所持しているスキルポイントを確認し、
ダンバスアプリを限界突破ダンジョンに連携する。
『限界突破プロトコルへの接続を確認、スキルポイントのチャージをお願いします』
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ランクE :必要スキルポイント3,000
ランクD :必要スキルポイント5,000
ランクC :必要スキルポイント15,000
ランクB :必要スキルポイント150,000
ランクB+:必要スキルポイント500,000
ランクA :必要スキルポイント1,250,000
ランクA+:必要スキルポイント2,500,000
ランクS :必要スキルポイント5,000,000
……
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「す、凄いたくさんひつよう!」
表示されたダンバスランクアップ表に、目を白黒させるリーサ。
ランクCまでは少し頑張ればなれるが、それ以上になると必要なスキルポイントが跳ね上がる。
ランクBで全体の1%、ランクA+で日本に十数人、S以上になると世界で両手の指で足りるほどしか存在しない。
「SSランクの上にUGランクという人類未踏ゾーンがあるらしいけどな……ま、トンデモレベルの噂だな」
「ほ、ほえ~」
『限界突破オーブの出現を確認』
今は天上人の事より、ランクアップである。
固定された限界突破ダンジョンはちょっとした会議室ぐらいの大きさしかない。
目の前に現れたオーブにスキルポイントをチャージする。
ぱああっ
オーブが一度大きく明滅し、俺の個人情報が書き換わる。
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■個人情報
明石 優
年齢:25歳 性別:男
所属:F・ノーツギルド
ランク:F→D
スキルポイント残高:11,780(-8,000)
スキルポイント獲得倍率:と$な#%
口座残高:900,800円
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「いいな~」
リーサが指をくわえてこちらを見ている。
見習いダンバスはHランク固定だからな。
「リーサは俺のパートナーだから、俺のランクに合わせた装備の一部を使えるぞ?」
「ほんとっ!?」
リーサの目の前で、装備一覧を表示する。
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■ランクD 装備
刀剣武器(30~100)
打撃武器(30~100)
投擲武器(30~100)
銃器(100~200)
軽装防具(30~50)
重装防具(50~100)
■ランクD スキル
ファイア、ブリザード、ライトニングLV2(30~50)
ヒールLV2(30~50)
フライト(100)
ダズル(幻惑魔法)(150)
攻撃強化技10%(100)
魔法強化技10%(100)
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「わああ、魔法もいっぱいある!
凄いね、ユウ!」
「Dランクになると、一気にバリエーションが増えるんだ」
とは言いつつ、俺もカタログで見たことがあるだけで実際に使ったことは無い。
「ねえユウ! わたしトンファーをもっと凄くしたい!」
目を輝かせたリーサが、トンファーをぶんぶんと振っている。
武器の種別を選べば、形状は自由にカスタマイズできるのだ。
「うーん……」
リーサの適性を考えれば、魔法と投擲武器を強化した方がいい。
「わたしのかくとう術は、なかなかだよ?」
ぶおんと回し蹴りを放つリーサ。
何やら学園のお友達が武術の達人らしく、よく教えてもらってるらしい。
だが、おパンツが見えちゃうから上段蹴りはやめような?
ちゃんとスパッツを履かせることにしよう。
「……ボウガンをサブウェポンにするか」
上位ランクのダンジョンになると、モンスターの不意打ちなども発生する。
俺がなるべくカバーすると言っても、自衛能力は必要だ。
「武器と防具、どんなデザインがいいか絵に描けるか?」
「うんっ!」
『ふふっ、一番楽しい瞬間ですよね』
俺たちは時間を忘れて装備のデザインに夢中になるのだった。
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