第74話 変わる世界
「ふふっ、素晴らしいではないか」
執務室の窓から、夕焼けに染まる大都会を見下ろす。
ひっきりなしに到着する電車に、そこから吐き出されるたくさんの人間たち。
ある者は買い物のために駅ビルへ、ある者は商談の為か小走りにオフィスビルへ駆けていく。
家路を急ぐ学生たちや繁華街に消えていくサラリーマン。
いつも通りの営み、いつも通りの世界。
ダンジョンバスター競技大会の熱狂が去った後、彼らの世界がどう変わったか……ほとんどの人たちは、意識する事はないだろう。
「ようやく、ここまで来たか」
日々もたらされる情報は、ほぼ全てがマクライドの計画通りに進んでいることを示唆していた。もうすぐ、彼の野望を実現するための準備が整う。
「最後のピースは……やはり君たちかな?」
めったに口にしない酒でのどを潤す。
マクライドの視線の先は、遠く西の方角を向いていた。
*** ***
「はふぅ……」
「むぅ……」
「少しだけ、疲れましたね」
日曜日の昼下がり、我が家のリビングに勢ぞろいしたF・アカシアギルドのメンバーは、皆元気がなかった
「ほら、甘いものでも食え」
「!! ありがとう、ユウ!」
自家製の焼きプリンを出すと、一瞬顔を輝かせるリーサたちだが、すぐに表情を曇らせてしまう。
……まあ、無理もないだろう。
俺も少々気が滅入っている。
リビングの壁に掛かっている金と銀のメダルを見やる。
ダンジョンバスター競技大会が終了してから2か月余り……季節は冬から春へと移り変わろうとしていた。
「むむぅ~ちょっとやり過ぎだったかなぁ」
「相手は”溢れた”オーガ―だからな、仕方なかったと思うぞ」
ダンジョンバスタートーナメントの決勝戦。
スタジアムの地下に保管されていた競技用ダンジョンからモンスターが溢れ出た。
俺たちとルークさんもそいつらの退治を手伝ったのだが……。
ボスモンスターとして出現した大型のオーガー。
一撃で確実に葬るため、俺はリーサとミアと協力して戦技リンクを使った。
「あの程度の破壊行為でこれほどの騒ぎになるとはの。
ダンジョンからモンスターが出現するというのに、この世界の人間はいささか平和ボケしておるのではないか?」
焼きプリンを口に入れて頬を緩ませているミア。
彼女の指摘はもっともだが……。
俺が放った「天空斬り」は、オーガーを真っ二つにするだけでは飽き足らず、スタジアムの客席を大きく破壊してしまったのだ。
「スタジアムの補修は保険が下りたから助かったけどな」
協会本部の加入していた保険により、破壊された施設に対する補償が行われた。
「問題は世間の反応、でしたね」
ぴっ
フェリナがテレビのスイッチを入れる。
『……それでは次のニュースです。
ついにアメリカでも【ダンジョンバスター管理法】が成立しました』
ちょうどダンジョンバスター関係のニュースを放送している。
『ダンジョンバスターの管理業務は他の国と同じくノーツ財閥に委託されたとのことです。これでダンジョンバスター管理法の制定は85か国目、慎重な姿勢を崩さないわが国でも早急に管理法を制定すべきという声が次第に大きくなり……』
「マクライドの狙いが”コレ”だっとは……不覚でした」
「うーん……」
リーサやミアが現実世界で使用した魔法や、俺が放った天空斬りの様子は全世界に中継されていた。
『オーガーを一撃で倒すなんて! 凄い!』
『魔法が使える転生者がいるんだね、そのうち私たちも魔法を使えるようになるのかな?』
称賛の声が上がる一方で。
『あれほどの力、危険じゃないのか?』
『現代兵器で倒すのが難しいモンスターをあっさり倒す転生者。彼らが人類に刃向かってきたらどうするのか?』
『だからワシは最初から転生者や異世界帰りは危険だと言ったんじゃ!!』
俺のような異世界帰りや、リーサたちのような転生者を危険視する世論が、にわかに盛り上がったのだ。
「間違いなく、ノーツの情報操作があったと思われます」
こうなることを予測していたのだろう。
あっという間に広がった世論を各国の政府も無視することが出来ず、次々とダンジョンバスター管理法なる法律が成立している。
「我らのようなスキル持ちを国の統制下におき、能力を制限するじゃと?」
「今さら何を言っておるのだ?
”対怪異部隊”なる、転生者を集めた集団が存在するのであろう?」
頬を膨らませ、不満げなミア。
テレビに向けてネコ耳が絞られている。
「それは、軍隊は【制限された暴力】ですから」
「なぬ?」
フェリナの言う通り、日本にもある対怪異部隊は自衛隊の一組織であり政府の命令無しでは動けない。
それに引き換えダンジョンバスターは個人事業主であり、協会に所属しているとはいうものの個人の意思で動くことが出来る。
「マフィアに雇われたダンジョンバスターや、半グレもどきもいますからね。
放置ダンジョンや鉱山を不正に利用していた輩とか」
次々に出現するダンジョンへの対応を優先し、なあなあで放置されてきた諸問題が噴出した結果……ダンバス側も強くは言えないというのが実情だ。
「今や、世界のダンジョンバスターの8割がノーツの管理下にあります」
ふう、大きくため息をつくフェリナ。
「で、でもでも!
日本やブレンダおねーちゃんのイギリスは大丈夫なんだよね?」
「そうだな」
俺たちがダンジョン攻略配信を始めていたおかげで、ダンジョンバスターへの理解が進んでいた日本。
政府の重鎮であるルークさんの存在が大きく、魔法研究が進んでいるイギリス。
この二か国はノーツの提案には従わず、ダンジョンバスターの独立性を守るという事で法律を制定していない。
「まあそれでも、嫌がらせのメールは山ほど来ますけどね」
そのあたりの処理はフェリナがやってくれている。
俺たちの周りでも表立って危害を加えられるという事は無いが……。
念のためリーサたちにはガードマンを付けているし、自宅のセキュリティも強化した。
「それはそれとして……マジでヤバい」
「ふお?」
そのような大きな問題はありつつも……目の前の課題に、頭を抱える俺なのだった。




