第31話 俺たちのギルド、多忙になる
「はあっ!!」
ダマスカスブレードを薙ぎ払う。
ガキインッ!
このダンジョンのボスであるバジリスクは、切っ先に噛みつき攻撃を防ごうとするが、増幅の腕輪+でステータスを強化している俺の一撃を止めることはできない。
ザンッ!
そのまま真っ二つになるバジリスク。
『依頼No:C28171、C+ランクダンジョンの消失を確認』
『現金報酬355,000円 スキルポイント報酬:12,750(獲得倍率:340%)』
「ふうぅ、疲れた……」
C+ランクダンジョンともなると、状態異常を仕掛けてくるモンスターや、打撃が効かないモンスターが出現するので攻略に時間が掛かる。
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■個人情報
明石 優
年齢:25歳 性別:男
所属:F・ノーツギルド
ランク:B
スキルポイント残高:97,500(+12,750)
スキルポイント獲得倍率:350%
口座残高:5,326,000円(+355,000)
称号:ドラゴンスレイヤー
災害迷宮撃破褒章
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「ユウさん、お疲れ様です」
俺のサポートに付いてくれているフェリナが、社有車に装備された冷蔵庫から冷えたタオルとスポーツドリンクを取り出してくれる。
「ありがとう。
……ぷはぁ」
9月になったとはいえ、まだまだ厳しい残暑である。
冷たいスポーツドリンクが火照った体を冷やしてくれる。
「フェリナ、さすがに今日は打ち止めだろ?」
今日の仕事場となった市民ホールを、真っ赤な夕日が照らす。
そろそろウチに帰ってリーサに晩飯を作ってやらなきゃいけない。
「……その、言いにくいのですが。
たった今、県の方から最優先依頼が来まして」
「明日の朝までに対処して欲しいと」
「ま、マジかよ!?」
俺のスマホに新たに示された座標は、県立科学館。
「地下に複数のダンジョンが出現したとのことで、明日受け入れ予定の遠足に間に合わせてほしいそうです」
「うぐぐ……」
災害クラスのダンジョンを退治し、協会本部から表彰までされた俺とフェリナのギルド。
その反動として、大量の公共案件が舞い込むようになっていた。
表彰してやったんだから、働け!という事である。
もともと公共案件は報酬が安く、敬遠するダンバスも多い。
「すみません、本社の意向もありまして」
だが、地盤としていた関東から関西への進出をもくろむノーツ財閥はこのような公共案件も積極的に受けていて……。
「仕方ない……リーサの遠足の為だ」
いくら俺たちのギルドに自由裁量権があると言っても、親会社であるノーツ財閥の意向を完全には無視できない。
なにより、遠足の予定表にリーサが通う学園の名前を見つけた俺は、超過勤務の覚悟を決める。
「晩飯は外食だな。
リーサにも手伝ってもらおう」
「……せめて、ギルドの経費からおごらせてください」
「助かる」
リーサの夏休みが終わったので昼間の依頼は俺がソロで潜ることも増えた。
「うーむ、さすがに人を増やした方がいいのか?」
いくらシローさんとレミリアさんがウチのギルド所属になったと言っても、それは書類上の事でSSランクのダンバスであるシローさんたちには指名依頼が山のように届く。
このような小さな案件を手伝う余裕はないのだった。
「それが義父……本社の方からはギルドに新しいダンジョンバスターを入れるなと言われてまして……」
「なんだってぇ!?」
当分、忙しい日々が続きそうだった。
*** ***
「ユウ、お仕事お疲れさまっ!」
「リーサもお手伝いありがとうな?」
「うんっ!」
「追加注文、いくらでもオッケーですから」
「やった~!」
県立科学館に出現した複数のダンジョンを退治し終えた後、俺たちは近所の居酒屋で遅めの夕食をとっていた。
新鮮な瀬戸内海の魚を食べさせてくれる割に値段が安いので、低ランク時代に月に1度のご褒美として通っていた店だ。
兄さん羽振りが良くなったんやろ? リーサちゃんに美味しいもの食わせたらんかい!
という大将のご厚意で、大きな真鯛を丸ごと使ったフルコースを出して貰った。
「ふぅ、沁みるな」
真鯛の刺身に日本酒が旨い。
「さすがに忙しすぎるので、関西に進出した他のギルドに仕事を回せるようにしておきますね」
「頼むわ」
ローンを前倒しで返せるのはいいけれど、パパとしてリーサとの時間も大切にしたい。
フェリナに任せておけば、ワークライフバランスも重視してくれるだろう。
「ぷはぁ、いっぱい食べたぁ!」
「あ、そうだ!」
塩焼きをぺろりと平らげたリーサが、何かを思い出したのかランドセルから愛用のノートパソコンを取り出す。
「空き時間に魔導書の解析を進めてたんだけど……。
じゃーん!」
ノートパソコンの画面に映っていたのは、複雑な魔法術式。
リーサがエンターキーを押すと、巨大な爆発が画面いっぱいに広がる。
「これは……”フレア・バースト”か?」
「そうだよ! 今のマナ量じゃとても使えないけど……魔法術式を再現してみたんだ!」
「懐かしいな」
この魔法は魔王を守護する大量の魔物を何とかするため、リーサと一緒に開発した極大爆裂魔法。
「……実験の時、5回ぐらい死にかけたけどな」
「そ、そうだったっけ?」
ありえないほど莫大なマナと、精緻な術式が必要な魔法だ。
完成するまでには多大な苦労が必要だった。
「でも、この魔法のお陰で」
「魔王の元にたどり着いたんだよな」
「でもまさか、魔王ちゃんがあんなにかわいい顔してたとはね」
「恐ろしいほど強かったけどな」
「て、転生者のお話しは凄いですね……ちょっと憧れます」
エルフ耳をぴくぴくと動かすフェリナ。
「ほんとっ!? それじゃ、風の魔法をつかさどるマナルーベンス第三方程式から解説するね!」
(あっ)
「は、はいっ?」
リーサのスイッチが入ってしまった。
俺は大将に、デザートはゆっくり出してもらえるようお願いするのだった。




