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第27話 リーサの魔法

「……う」


 ズキズキと頭の芯が痛む。

 何か昔の事を思い出していたような気がする……リーサと共に駆けた異世界の事を。


「あ、ユウっちが気付いたよ」


「ユウ君、大丈夫かい?」


 それが何か思い出す前に、シローさんとレミリアさんが俺を起こしてくれた。


「……いてて」


 目を開けると、巨大なシールドマシンが目に入る。

 どうやら無事にダンジョンの外へ出られたらしい。


「はっっ! そういえば災害ダンジョンはどうなったんです!?」


「だいじょーぶ、ユウっちのお陰で」


 レミリアさんがダンバスアプリを開いて見せてくれる。

 アプリの右上に、アンテナマークがちゃんと表示されていた。


「と、いうことは?」


「SS+ランクの災害ダンジョンは消失、アプリの接続も回復した。

 大手柄だな、ユウ君」


「……やった!」


 イチかバチかの賭けだったけど、俺の拳は災害ダンジョンのコアをぶっ壊したようだ。


「何人かけが人は出たが、再起不能の大ケガを負う者は出なかった。

 ユウ君が素早く動いてくれたおかげだ」


「いや、正直勢いだけの所もあったといいますか……」


 ユニークスキルのお陰で何とかなりました、はい。


「朝から行方不明になっていたダンジョンバスターも救助できたしな」


 ん? シローさんが抱えているのは陣さんか?

 このプロジェクトに参加していたんだな……もしかしたら、災害ダンジョンの中にいたのかもしれない。

 気を失っているけど無事みたいだ。


「ユウ君も手持ちのスキルポイントを殆ど使い果たしてしまっただろう?

 特別報酬を出すように、クライアントや協会にも掛け合っておくよ」


「助かります」


 スキルポイント残高は0になっている。

 正直な話、家と車のローンがあるのでシローさんの申し出は大変ありがたかった。


 ピリリリリ


 その時、回線が復旧したスマホから着信音が鳴り響く。

 これは……フェリナだ。


『もしもし、そっちにリーサちゃんはいますか!?』


 かなり慌てた声。


「いや、いないけど……ああ、チャットをくれてたのか」


 恐らくダンジョン攻略中に届いたチャットには、リーサが事務棟からいなくなった事が書かれている。


「リーサめ、俺が心配になったんだな?」


 リーサは少しずつ”魔法”の力を取り戻している。

 俺の手助けをしようと思ってくれたのだろうけど……。


「あれだけ危険だと言ったのに」


 今回ばかりはしっかりと叱る必要がありそうだ。


 まずはリーサを探さないと……そう考えた俺はフェリナにリーサをサーチできないか尋ねようとしたのだが。


「ユウっち!!」


 だっ!


「うわっ!?」


 急に体当たりしてきたレミリアさんに押し倒される。


 一体何を、そう言おうとした俺の頭上を《《剣の切っ先》》がかすめる。


「…………は?」



 ゴーブウッ!



 工事現場のトンネル内に響き渡る雄叫び。

 醜悪な豚のような頭。

 寸胴で筋肉隆々な身体を錆びた鎧で包み、右手にはボロボロのショートソードを構えたケモノ。


「ゴ、ゴブリン……ロード?」


 D~Cランクのダンジョンに出没する最上位ランクのゴブリンで、200程のHPと、100程度の攻撃力を持つ。

 初級クラスのダンバスには辛い相手だが、いまの俺にとっては特に苦労する相手ではない。


 ()()()()()()()()()()()()()


「ま、まさか……”溢れた”ってことですか!?」


「残念だが、そのようだな」


「そ、そんな……封印処理は完璧だったはずじゃ!?」


 今朝時点で出現していたダンジョンは、下請けのダンバスたちが封印済みだ。

 災害ダンジョンと同時に出現したダンジョンは、チーフクラスのダンバスと俺たちで退治した。


 出現したダンジョンがこちらの世界と”繋がる”までには、半日~数日程度の時間を要するため、ダンジョンバスター関連の技術が進歩した現在ではモンスターがダンジョンから溢れてくることは、まずないと言ってよかった。


「あるいは、本部の”サーチ”にも引っかからなかったダンジョン、かもね?」


「そんな!?」


 にやり、と不敵な笑みを浮かべるレミリアさん。


 日本国内に出現したダンジョンは協会……日本ダンジョンバスター協会の検知ステムが即座に把握する。半日以上その網に引っかからないダンジョンが出現したとしたら、ダンジョン対策が根本的にひっくり返る。


「協会本部の連中は絶対に認めないだろうがね……」


 苦々しい表情を浮かべるシローさん。

 何か事情があるんだろうか?


「そんなことより」


 ゴーブ!


 吠えるゴブリンロードから慎重に距離を取るシローさん。


 そうだ。

 ダンジョン内では取るに足らないモンスターでも、こちらの世界に溢れてきた個体は恐ろしい災厄と化す。


 火薬を使った銃器などはほぼ通用せず、爆弾などを使ったとしても謎の衝撃に弾かれる。周囲を丸ごと吹き飛ばすような高威力兵器なら通じるが、街に近いこんな場所で使うわけにはいかない。


『対怪異特殊部隊に出動を依頼しましたが……到着は2時間後だそうです!』


 フェリナが絶望的な事実を告げる。

 万が一の事態に備え、モンスターを相手にできる装備を揃え、訓練を積んだ特殊部隊は存在する。

 とはいえ、こんな大深度地下まですぐに来れるわけがない。


「フェリナ君、周囲にいる全ダンジョンバスターに避難指示を」


『はい、もう連絡済みです!

 念のため、工事現場付近の住民にも避難指示を出すように政府に掛け合ってきます!』


「ありがとう」


『皆さんもお気をつけて!』


 事は一刻を争う。

 フェリナは関係各所の根回しに着手している。


「だが、ゴブリンロード相手に3人で2時間か……厳しいな」


 いくらスキルポイントでステータスを強化できると言っても高ステータスの身体を操るには現実世界での鍛錬が重要となる。

 そのため、武芸を習っているダンバスは多い。

 だが……。


「故郷の魔法を使えればこんな奴、一発なんだけど……!」


 いくらシローさんたちがSSランクとはいっても専門はダンジョン内での戦闘だ。

 スライムレベルならともかく、ゴブリンロードクラスのモンスターを相手にするのは厳しい。ごく最初期のダンジョンバスターたちと違い、俺たちの能力はダンジョン内での戦闘に特化しているのだ。


「適当なダンジョンが出現するのを待って、中に誘い込むか?

 いやしかし……」


 ゴブリンロードもこちらを警戒してるのか、すぐには襲い掛かってこない。


(ごくっ)


 作戦を練るシローさんの後ろで息をのむ俺。

 実をいうと……策はある。


 俺は素早く周囲に視線を走らせる。


(武器になりそうなものは……あった!)


 シールドマシンの下に転がっている金属製のシャベル。

 刃の先は尖っており、重量も十分だ。


「ユウ君? なにを!?」


 シローさんが驚いている。

 それはそうだろう。

 シャベルを拾った俺が、ゴブリンロードに向けておかしな構えを取っているのだから。


 左足を後ろに下げ、腰を落とす。

 身体をねじり、シャベルに回転の勢いが伝わるように構えを取る。


「まさか、ユウっち?」


 レミリアさんの言葉に頷く。


 異世界からの帰還者は、ごくまれに向こうのスキルを持って戻ってくることがある。

 向こうの世界で剣士として戦っていた俺は、こちらの世界に戻ってきた時に幾つかのスキルを持っていた。


 初級剣技ではあるが、こちらの世界の武器でモンスターを”斬れる”技。


(本当は、使いたくないんだけど)


 もう10年近く前になるだろう。

 駆け出しの時、リーサの為に手っ取り早く稼ぎたかった俺は、アングラネットでワケアリのダンジョンを探していた。


 どこかにある封印漏れのダンジョン。

 そこには物凄いお宝が眠っているという。


 今考えたら低級ゴシップのたぐいだが、若かった俺はとある廃ビルの地下に向かい……ダンジョンから溢れたモンスターと遭遇した。

 慌てた俺は無我夢中で剣技スキルを使って……その衝撃で両手両足を骨折し全治半年の重傷を負った。


 未成年の転生帰還者に支給される援助金が無ければ、俺とリーサは飢え死にしていたかもしれない。


(だけど、今なら……!)


 俺が働けなくなっても蓄えは充分だし、フェリナも援助してくれるだろう。

 ここでゴブリンロードを止めないと、シローさんたちやほかのダンバス、何よりリーサに危害が及ぶ。


「行きます! 下がっててください!」


 じゃりっ


 俺は全身に力を込め、スキルを発動させる。

 リーサ、ごめん!


 覚悟を決めたその瞬間、地下空間によく知った声が響く。


「だめえええええええええっ!」


「……え?」


 シールドマシンの上部にあるキャットウォークの上、ランドセルを背負ったまま仁王立ちしているのは……リーサだ!


「ユウは、やらせないよっ!」


「ま、まてっ!?」


 キイイインッ!


 魔力が収束し、リーサの指先で具現化していく。


「……うそ?」


 唖然としたレミリアさんのつぶやきが耳に届いた。


「”ホーノオ”!」


 ズッ……ドオオオオンッ!


 次の瞬間、リーサの指先から放たれた火球がゴブリンロードに命中し……跡形もなく燃やし尽くしたのだった。



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