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第二話・鳥山アスカ

 三人の主人公の一人、苦悩担当・鳥山アスカの視点で描いたストーリーです。

「ありがとうございましたー」



 カランコロンとベルの音が鳴ると店舗のドアがしまっていく。ここは私こと鳥山とりやまアスカの実家の美容室。


 この店は元々私の両親が経営と営業をしていたのだが、私が中学校に進学してから少しだけ状況が変わった。


 私も両親の跡を継いで美容師になるべく、店の手伝いをし出してからだ。手伝うと言っても当初は精々雑務程度だったのだが、今はそれどころじゃない。



 ある日、常連のお客さんの一言で私がカットをすることになった。



 それが契機となっていつの間にか私は店の従業員のように平然と働くようになった。日によっては私に指名が入るほどの人気が出てしまい、私は困惑した。


 だけど両親は「実戦に勝る訓練はない」と言って寧ろウェルカム、そしてタチが悪いのが常連さんもまた「若い人の感性って素敵ね」と言って私のカットを褒めてくれるのだ。



 それもこれも、全ては私の能力のせいなのだが。



 因みに私の幼馴染である奥戸優人おくど ゆうとも不思議な能力を持っている、と言うよりも私たちはある日突然、それに目覚めてしまったのだ。



 店にお客さんはもういない、だから私は辟易して天井に向かって大きなため息を吐いた。



「はああああ……、これって絶対に隕石が原因だよね?」



 一ヶ月前、この街・北斎町に巨大な隕石が墜落した。その翌日から私と幼馴染の優人は不思議な能力に目覚めてしまったのだ。


 優人は別の物体と自分の体を同化させる能力。私は……。



 カランコロン。



 おっと、私は営業時間中にも関わらず油断をしてしまった。私はしまったと感じながらも、営業スマイルを作って入店してきたお客さんの方を振り向いた。


 そしてそのお客さんの正体を知って瞬時に表情を硬らせてしまった。



「ほ、細田さん!?」

「何よ、私が来ちゃマズいの?」

「だ、だってこの店は細田さんみたいな美人さんがくる場所じゃないよ? 客層だって近所の主婦だとか、小学生の女子とか、そんな感じだし」



 細田翔子ほそだ しょうこ、私のクラスメイトにして中川中学校でも有名な才色兼備の美人さん。流れるような美しい黒髪に、大きな瞳、そして整った輪郭が学校の男子たちを虜にするような人。



 そして先日、私を拉致監禁した人。



 私は当然のようにゴクリと唾の飲み込むも、彼女はそんな私を無視するかのように椅子に腰を下ろして足を組んだ。


 私はそのあまりの迫力に何も出来ずに佇んでいると、彼女はギロリと私を睨んで一方的に話しかけてきた。



「早くカットして欲しいんだけど、ここは美容室なんでしょう? で、鳥山さんはその従業員。違うの?」

「そ、そうだけど……」

「じゃあさっさとやっちゃって。アナタの能力で私を美しくして頂戴」

「!! ど、どうして!?」

「気付かないとでも思った? この店の常連は例外なく幸せを掴んでる、主婦だったら旦那と仲睦まじくなって、子供はガキのくせに好きな男子と付き合って。こんな小さい街でそんな変化があったら誰だって気付くわ、少なくとも能力者ならね」



 この細田さんもまた能力者、それも人の体をシンプルに切り刻むと言ったもの。その断面から一滴の血も流すことなくただシンプルに切断する。


 そしてどう言う訳か刻まれた人は絶命しない。


 だけど唯一例外があるようで、人体の生命活動に支障をきたすような箇所を細かく刻まれると死ぬらしい。私は心臓を切り刻まれて殺されかけた。



 そんな私がどうして細田さんのカットをしないといけないの? この人って本当に自分勝手だと思う。私はその不満をぶち撒けるように首を横に振った。



「絶対に嫌!!」

「アナタにそんな権利があると思ってるの!? 私は優人くんに振り向いて欲しいだけなのよ!!」

「人を殺そうとした人が何を言ってるの!? 自分勝手にも程があるわ!!」

「ふー、アナタ、お客を選ぶんだ?」

「なんですって?」

「プロの美容師になりたいんでしょう? そんな人がお客を選りすぐるんだ?」

「この後に及んでど正論吐くんじゃないっての!!」

「はいはい、分かりました。じゃあもういいわ、私はアナタの心の傷になってやるわ。アナタは私をカットするのが怖い、絶世の美貌を壊すことを恐れて私のカットを拒んだ。アナタには負け犬人生がお似合いよ!!」



 この女、どこまでも自分勝手なんだから。


 だけどそれと同時に揺るがないものを持っている。優人に愛されたからと言う理由だけで、ここまで言い切るなんて。


 私はフツフツと怒りを感じて俯いた。


 そしてそんな私を軽蔑するように細田さんは「ふん」と言って店を出ようとする。私はどうしようもない敗北感を覚えて、俯きながら細田さんに向かって言葉を口にしていた。



「やってやろうじゃん」

「……なんですって?」

「細田さんのカット、やってやるって言ってるのよ!! とっとと座りなさいよ!!」



 細田さんはこうなると予見していたのか、まるで台本でも読んだかのようにスムーズに踵を返して椅子に座り直した。そして偉そうに再び足を組んで「さっさとして頂戴」と言い放つ。



 だけどね、細田さんは勘違いしてるのよ。


 私の能力は人を美しくすることじゃない。私はカットの最中にお客さんと会話するのが好き。そしてその人の願いを聞くの。私はそんなお客さんの小さな願いを吸い上げて、本当にそうなれば良いなー、と願いながら髪を切る。


 つまり細田さんの言っていた常連さんの幸せってのは私が望んだ未来なのよ。


 誰が細田さんの幸せなんて望むもんですか。私はこの女が最も嫌悪する未来を思い描いて髪をカットしていった。そして私がカットの手を止めると細田さんは振り振り向いていから私に問いかけた。



「これで、……優人くんに好かれるの?」

「そうね『優人以外』には好かれるわ」

「どう言うこと?」

「アンタの美貌は確かに研ぎ澄まされた、だけどそれは優人以外にしか効かないのよ」

「……そう」

「優人が見たらアンタのことを豚かなにかと勘違いするかもね!! いい気味よ!!」



 私がそう言うと細田さんは無言のまま立ち上がって「そう」と再び呟いてレジの台の前にソッとお金を置いた。そして無言のまま店を出ていった。


 私はお客さんである細田さんに恨みを晴らしたと感じて興奮していたが、次の日学校に登校すると彼女は欠席してた。



 その時になって初めて私は後悔した。


 細田さんの欠席の原因は私にあると。



 私はプロの美容師を目指すものとしてお客を差別してしまったのだ。私は細田さんによってどう足掻いても払拭出来ない敗北感を植え付けられてしまった。



 私もまた優人と同様に思い知ることとなった、彼女の『目的のためなら何だってするんだって言う執念』、それだけは本当に見習うべきだと感じてしまったのだ。


 私は細田さんの言う通り、負け犬になってしまった。

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