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魔術学院に入ったのは



――――――いつからこんな関係になってしまったのか。

それは自分のせいだと、はっきりわかっている。でも仕方がないだろ。アイツがいきなりあんなことをしてきたせいで、オレはあの日からアイツの目をまともに見れなくなってしまったんだから。




忘れもしない十年ほど前のまだ子供のころ。友人のアルフレッド呼ばれて行ったのはオリオール侯爵家。魔術の練習をしたいからと、魔力を持つオレとキャロ…カロリーヌで一緒に行った時のことだ。


アルフレッドに言われるがまま手を合わせて魔力を流す練習をしたが、アルとやったときは何だか気持ちが悪かった。魔力がぶつかり合うような反発しあう感じがしたのだ。でもその後にカロリーヌと魔力を流し合ったときには不思議とその気持ち悪さがなく、むしろ心地よささえ感じた。別に気持ち悪くないなんて言ったけれど、カロリーヌの魔力が優しくて柔らかくてずっとこのままでも良いと思ったくらいだ。


魔力を流し合うなんてしたことがなかったから、その後も身体がふわふわと不思議な感じがしていたがそれに気づかれたくなくて目の前にあるお菓子をひたすら食べた。



―――その時だった。



アイツが突然、オレの頬に…キ……キ…スをしてきた…!貴族のご令嬢の癖に、いつもドレスを着ているのに庭を走り回ったり木の棒を振り回したりしているのに、いきなりキスをしてくるなんておかしいだろ!しかもそんな雰囲気などまったくなかったのに、意味が分からない!


動揺したオレは思わずアイツの手を思いっきり振り払ってしまった。でも、その時のカロリーヌの表情は今になっても忘れられない。酷く傷ついたような顔で目に涙を浮かべ、しまったと思ったときにはもう遅かった。



『だいっっっきらい!!!』



そう言われて訳が分からないまま呆然と立ち尽くすオレは、それから今まで一度も謝罪の言葉を伝えることができていない。キスなんて好きな相手にするもんだと思っていたのに、直後に言われた『大嫌い』の言葉。


会うたびに今日こそはと思いながら話しかけても、アイツが拒絶するような言葉を向けてくるからオレも同じようにするしかなかった。




魔術学院に入学したのも、アイツが入ることを知ったから。往生際が悪いと思われるだろうが、一緒にいる時間が増えればいつか昔のような関係に戻れると思っていた。だから士官学校に入学する予定だったのをギリギリで変更した。


そもそもオレが士官学校に入って騎士を目指そうとしたのも、第二王子のジェラルド様に憧れているのを知っていたから。カロリーヌ自身も幼い頃は騎士になりたいと言っていたし、それならオレも一緒に騎士になればいいと思っていた。それなのにオレの知らないところで魔術学院に入学しようとしていたこともショックだった。



オレが魔術学院に入学するという話をしたときの顔も思い出したくないくらいだ。そんなにオレと一緒にいるのが嫌なのかと。でもオレはいつかお前と前のような関係に戻れることを信じて、苦しい気持ちをグッと押し込めたんだ。



もともとちょっと抜けているところがあったが、その頃から彼女の行動が不可思議なものになった。サバイバル訓練をすると言って、ラウル様やジェラルド様と一緒に山にこもって修行(意味がわからん)をし始めた。ルドルフ様が苦笑いしながら教えてくれたのだが、オレにもまったく意味が分からなかった。でも、どうしてそこでジェラルド様が一緒なのかと真っ黒い気持ちで胸がいっぱいになった。居ても立っても居られず、直接話を聞いてみれば『関係ない!』と突っぱねられた。


確かに関係ないかもしれないが、昔だったら一緒にやろうと声をかけてくれたじゃないか。あんなことがなければオレだって…と結局、未だに謝罪の言葉ひとつ言えない自分に嫌気がさした。



その後も農業やらなんやらと色々手を出しているようだったが、ジェラルド様も騎士団として忙しくしているようで少しホッとしつつも彼女のやることを少し離れたところからいつも見ていた。だが嬉しいことに、アルフレッドがカロリーヌの友人である平民の女の子を好きらしく(後で聞いたら魔術オタクになったきっかけらしい)、それに乗じてカロリーヌの近くに行ける機会が増えた。




転機が訪れたのは母さんの出産だった。長らく一人っ子だったオレに弟が産まれたのだ。弟がお腹にいる間、母さんの体調はあまりすぐれず周囲には知らせていなかった。たまたまアルフレッドには話す機会があったのだが、それもだいぶ体調が安定した頃だった。


出産が近くなってきたころ、たまたまカロリーヌに知らせることになったが、うちの母さんを慕っている彼女に知らせていなかったことに申し訳なさを感じた。けれど、そんなことは気にも留めず目を輝かせながら弟が産まれてくることを心から喜んでくれた。あんなことがあってから、彼女がオレの目を真っすぐ見てくれることなんてなかったから、かなり動揺した。



無事セドリックが元気に産まれて何年かぶりにレスタンクール家に来てくれた時は、昔に戻ったかのようにオレにも笑顔を向けてくれたり、弟を見ては少し目を潤ませたりしていた。


その後もオレがいない時を見計らって母さんや弟に会いに来ていたが、オレは気づかれないようにそっと遠くから彼女の姿を見ていた。セドリックを抱きしめて嬉しそうにしている姿を見るとモヤモヤとしたが、弟に嫉妬するなんてカッコ悪いので平静を装った。





オレと彼女の関係は変わらぬまま、六年間の学院生活も最終学年となってしまった。しかし、思わぬ事態にある決断をすることになる。自分としても本意ではなかったが、今動かなければ一生後悔する。そう思って決めたことだったが、結局はこの決断を後悔することになってしまった。




いつだってオレは彼女を傷つけてしまう。


でもどうしても手放したくないんだ。



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