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レスタンクール家訪問



今年の夏休みはそれほど暑くなく、初めての農作業をするのも楽だった。ジャンは充分暑くて死にそうだと汗をかきながら言っていたけれど、これもサバイバルで鍛えられたおかげだろう。作業がとても捗ったと農家のおじいちゃんにはとても感謝された。一緒に行ったアネットは実家のレストランに使えるかもと言って野菜の糖度やハーブの品質を調べまくっていた。


今回は収穫がメインだったけれど、土を耕して植え付ける作業など細かく教えてもらったものはメモをして、今後も時間があるときにお邪魔させてもらうことにした。





そして今日は、いよいよレスタンクール家訪問日。


ミレイユ様のご懐妊を知った日、家に帰ってお母様に確認するとミレイユ様は悪阻が重かったらしく体調が安定するまでは、あまりお知らせしないようにしていたそうだ。その後の経過は順調で、無事に元気な男の子の赤ちゃんが産まれたとレスタンクール家からご連絡いただいたのは、夏休みに入ってすぐの半月ほど前。


それからお母様と一緒にお祝いの品を選ぶのはとても楽しかった。王都に出て赤ちゃんのお洋服やおもちゃが売っているお店に行ったり、ミレイユ様のお身体が休まるようなお茶や香油を選んだりと二人で色々と買いすぎてしまったせいか、帰ってからお父様やお兄様たちに呆れられてしまった。



お母様とモンタニエ家の馬車に乗り、久しぶりに来たレスタンクール家。久しぶりの景色に小さい頃を思い出し心がキュッとなる。レスタンクール家の庭師はモンタニエ家の庭師と弟子ということもあり、モンタニエ家に次ぐ庭園として評判が高い。


しかしカロリーヌがお気に入りなのは、立派な邸宅の裏で育てられているハーブや薬草をメインとした庭園だった。ここはレスタンクール家やごく親しい友人しか訪れない場所で、そこには小さな池があり午後になると池に日が差して魚がキラキラと輝くのを見るのが大好きだった。ハーブや薬草の香りも大好きで、ここに来ると普段はお転婆な自分もおしとやかで上品な女の子になれた気がしたのだ。


そしてその庭園を管理しているのがミレイユ様だ。もともと魔術医をしていたミレイユ様は、侯爵夫人となってからも自ら薬草を育てて薬を作っては辺境の村や孤児院やそれを届けているのだ。



「このたびはミレイユ様ならびにレスタンクール家の皆様、おめでとうございます」



レスタンクール家に入ると、侯爵であるルドルフ様が出迎えてくれた。お母様に続いてご挨拶と礼をする。よく見るとルドルフ様の後ろの方にヤツがいるが今日はお祝いに来たのだ。いつもだったら睨みをきかせるところだが、ご挨拶をしたそのままの笑顔を向ける。それに気づいたアイツはギョッとしてどこかに行ってしまったが、気にしない。


ルドルフ様の案内でミレイユ様のお部屋に向かう。

レスタンクール家を訪問するのは数年ぶりだが、以前と変わらない様子に何故かホッとしてしまった。



「いらっしゃい。こんな格好でごめんなさいね」



部屋に入ると、ミレイユ様はゆったりとした服装でソファから立ち上がった。



「まだ体調がきちんと戻っていないのだから座っていて」



お母様がそう言うとミレイユ様は申し訳なさそうにソファに座り、侍女にお茶の用意を頼んだ。部屋を見渡すと小さな木製のベッドが置いてある。きっとあそこに赤ちゃんがいるんだ!そう思うとつい身体が前のめりになってしまいそうになるが、そんなことをしたらお母様に叱られるのは目に見えている。はやる気持ちをグッと堪えて姿勢を正す。視線の端にいつの間に居たのかヤツが見えたが気にしない。



ソファに座り、モンタニエ家から持ってきたお祝いの品をお渡しする。ちょっと量が多すぎてルドルフ様とミレイユ様が驚いていたが、二人で選んだらなかなか決められなかったと話したら楽しそうに笑ってくれた。


私からは赤ちゃんのビブをプレゼントした。お名前をセドリック様と伺っていたので、真っ白で肌触りの良いシンプルな生地にセドリックという名前とレスタンクール家の家紋を簡略化したものを水色と銀色の糸で刺繍した。



「素敵ね、さすがカロリーヌちゃん!セドリックにつけてあげてくれる?」



ミレイユ様がそう言うと、ゆっくりと小さなベッドに向かいセドリック様を抱き上げた。…小さい!生まれたばかりの赤ちゃんを見るのは初めてなので、こんなに小さいとは思わなかった。でもその小さい命がキラキラと輝いていて、思わず目が熱くなる。



「まだ首がすわっていなくて不安定だから、そっとよ」



お母様にそう言われて、首がすわらないということがよくわからないけれど、とにかく力を入れないようにしなければ小さな赤ちゃんに傷をつけてしまいそうだ。両手でビブを持ったが、どうしたものかとオロオロしていると意外な所から助け船が出た。



「オレが少し首を支えるからこっちにこい」



言われたとおりにクロヴィスの隣に行くと、ミレイユ様が両腕で抱いているところに両手を入れて少し首を持ち上げてくれた。早くしないと赤ちゃんが痛くなっては困ると、手早くビブを首に巻き、無事つけられたことにホッとする。赤ちゃんの髪はミレイユ様に似たダークブラウン。クロヴィスは侯爵様と同じ黒髪だけれど、どちらの色にもあう刺繍にして正解だった。



「ありがとう」



ホッとしてクロヴィスにお礼を言うと、またギョッとした顔をされた。私がお礼を言うのがそんなに珍しいのか。でも今日は赤ちゃんのおかげで今日は心がトゲトゲすることはない。



「かわいい…」



抱っこしてみる?とミレイユ様に言われたけれど、あまりに小さくて壊してしまいそうだとお断りすると、指を手に乗せてみてと言われた。そっと人差し指を赤ちゃんの小さな手に乗せると、ふわふわとした指がキュッと自分の指を握ってくれた。



「…………お母様!」



思わずお母様を見ると微笑みながら、赤ちゃんは手に何かを乗せると握るのよと教えてくれた。まだ生まれたばかりで目も見えないのだとさっき教えてもらったけれど、こうして自分の指を握る赤ちゃんを見て、赤ちゃんてなんて不思議なんだろう。ただ可愛いだけではない目の前の存在に、また目が熱くなってしまったのをグッと堪えた。




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