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農耕令嬢になります

遅くなりました。



ラウ兄様とジェラルド様が士官学校を卒業し、王都騎士団に入団したこともありサバイバル訓練は終了となった。おおよその知識や経験が身に着いたので、とりあえず十日くらいは山の中に捨てられても生きていけるだろう。



「問題は、地方の領地に飛ばされた場合よね…」



手に持っている恋愛小説の悪役令嬢は、大きな罪を犯したわけではなかったので暗殺や誘拐などはされなかったものの、王族へ不敬を働いたとして地方の領地に療養という名目で飛ばされていた。



「モンタニエ家の領地は安定した経営状態らしいけど、いつ飢饉や災害が起きるかわからないわ。そうなると自給自足ができないと」



自給自足となると、農業の知識や経験は必須だ。王都で暮らしているため、農業を行っている貴族の友人はいない。学院で農業について知っていそうな友人にあたってみることにしよう。





「え??」


「農業って…?」


「カロリーヌ、畑つくるの?」


「えぇ、そうよ」



学院の食堂の同じテーブルに座る友人三人は目を丸くして見てくるが、貴族の令嬢が畑を耕すのがそんなにおかしいことなのだろうか。そんな顔をしていると、平民ではあるが実家が大きな商会を営んでいるアネットが、おかしいからね!と言ってきた。解せない。



「私の実家にも畑はあったけど、おじいちゃんがやってたからなぁ。あ、食べられる草か食べられない草か見分けるのは得意だよ!」



平民だが魔術の知識がズバ抜けて天才的なリディは、この国の小さな村の出身ともあってなかなかたくましい。ぜひ今度、食べられる草の見分け方は教えてもらうことにしよう。



「オレんち、王都の隣町に畑あるぞ?近いからすぐに行けるし」



二回生になってから知り合ったジャンも同じく平民だが、アネットと同じく有名な商会の子息で魔力も高く優秀だ。



「ぜひ、そこにわたくしを連れて行ってくれないかしら?」


「あぁ、いいよ。商会を退職したおじいちゃんがやってるから、夏休みとかなら行けると思う」


「たすかるわ!」



持つべきものは友人だ。学院に入って身分関係なく友人ができたことで、自分の立場では知り得なかったことや経験できなかっただろうことが、できるようになった。



「リディ」



……私の友人を呼ぶこの声はアルフレッドだ。ということはヤツもいるのだろう。内心舌打ちをしつつ、気配を消す。アルフレッドはニコニコと胡散臭い笑みを浮かべながら、リディの隣に座る。入学してからというもの、彼はやたらとリディのことを構っている。そのせいで会いたくもないヤツとの遭遇率が上がってしまい、こちらとしてはいい迷惑だ。けれどリディは仲の良い友人なので、自分のこんなちっぽけな感情でここから離れるのは悔しい。



「夏休みの話をしていたの?」



アルフレッドはさりげなく聞いているが、どうせ私たちの話を最初から聞いていたんだろう。とりあえずヤツを視界に入れないよう答える。



「そうよ。わたくしはジャンのお知り合いの所にお邪魔することになったの。リディは今年もアルと図書館のいくのでしょう?」


「うん。」



アルフレッドとリディの二人は魔術オタクなので夏休みになると王立図書館に行き、ひたすら魔術書を読み漁っているらしい。身分こそ違うものの、魔術の知識を常に高め合い常に上位を競い合っている。そしてそんな二人を見ると羨ましく思ってしまう。自分だって本当は……考えてもしかたがない。嫌われている相手に近づいて傷つけられるのはもう嫌だ。あんな思いはしたくない。



「クロヴィスは今年は家でゆっくりするんだろう?」


「あぁ、そうだな。母さんも心配だし」



知りたくもない情報が耳に入ってくる。ヤツが家でゆっくりしようが、どこかに出かけて楽しく過ごそうが自分には関係ない。だが、クロヴィスの母であるミレイユ様に何かあったのだろうか。


ヤツとはこんな関係だが、ミレイユ様はたびたびお母様の所に来ては一緒にお茶をしてカロリーヌにも他愛もない話をしてくれる良い関係だ。さっぱりとした性格で、私の貴族令嬢らしからぬ振る舞いを見てもケラケラと笑って、叱るお母様をなだめてくれるので、カロリーヌはいつも助けられているのだ。そのミレイユ様が心配な状態にあるというのはカロリーヌとしても聞き流すことはできない。そういえば、ミレイユ様はしばらくモンタニエ家に来ていないことに気づいた。



「ミレイユ様、お加減が悪いの……?」



ここ最近では自分から話しかけることなどしていなかったが、ミレイユ様に何かあってはと心配になり手に血が通わず震えてしまう。するとクロヴィスが驚いたように顔を上げてこちらを見てくる。



「あ、あぁ。……もうすぐ弟か妹が生まれるんだ」



そう言うと私から視線を外し、クロヴィスはプイッと顔をそむけてしまった。



「え…?」



弟か妹…ということは、ミレイユ様のお腹には今赤ちゃんがいるということ…!?

どこかお身体の具合が悪いと思っていたけれど、まさか赤ちゃんが生まれるとは思わなかった。



「ミレイユ様に赤ちゃんが……!?」



思わずクロヴィスに向かって身を乗り出す。あまりの驚きにちょっと勢いがつきすぎてしまったせいで、ヤツの身体が後ろに逃げたが今はそんなことどうでもいい。

ミレイユ様に赤ちゃんが生まれるなんて!自分は末っ子なので、身近に赤ちゃんがいたことはない。いつか、モンタニエ家のお茶会に赤ちゃんを連れてきた伯爵家の方がいらっしゃったが、初めて見る赤ちゃんは小さくて柔らかくてキラキラとして、とにかく可愛かった。その赤ちゃんがミレイユ様に…!



「いつ!?いつ、生まれるの!!?」


「え、あぁ、えっと…」



いつもはすぐに帰ってくる返事も、何故か顔を赤くしてヤツはもだもだしている。そっぽ向いてないで早く答えてよ、と思わず両手を握って上下に振る。



「夏休み中の予定らしいよ」



見かねたアルフレッドが代わりに教えてくれた。



「クロヴィス!生まれたらお祝いに行かせて!!」



もう何年も足を運んでいないレスタンクール家だが、おめでたいことならばきちんとお祝いに伺わなければ。何より赤ちゃんに会える!向かいでヤツが変な顔をしているけど気にしない!夏休みは農作業にお祝いの準備に今年も忙しくなりそうだ。





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