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侯爵令嬢の恋心



―――――― カロリーヌ・モンタニエ五歳。

シルバーブロンドのサラサラとした髪に、ゴールドシトリンの宝石のように輝く瞳は太陽の下でより美しく輝く。モンタニエ家の長女として生まれた彼女は、貴族では珍しく恋愛結婚で結ばれた両親と兄二人に愛されて育った。





「これ持って!はい、かまえて!!」


「は!?なんでオレが!」


「クロヴィスしかいないでしょ、相手できるの」



そこら辺に落ちていた良い塩梅の木の棒を渡し、兄の構えを真似る。今日は上の兄とジェラルドが稽古をする日なので、カロリーヌも一緒にくっついて王宮に遊びに来た。すると、クロヴィスもたまたま遊びに来ていたらしく、これはちょうど良いと彼をつかまえて稽古の相手をしてもらうことにした。



カン!カン!と小気味いい音が鳴り響き、カロリーヌはクロヴィスと打ち合いをする。ただの真似事なので型も何もあったものではないが、こういった無茶振りでもクロヴィスは上手く受け止めてくれる。自分より背が小さいのに、やっぱり男の子なだけあって力はある。ひとしきり打ち合って満足したカロリーヌは、持ってきたタオルをクロヴィスに渡す。



「そういえば、最近アルは来ないわね」


「あぁ。なんかしばらく、じいさんとどっか行ってたみたいで、帰ってきたら毎日図書館に行ってずっと魔術書読んでるらしいぞ」


「ふーん。アルは魔力が強いからやっぱり魔術師になるのかしら」


「だろうな。キャロは騎士を目指すのか?」


「えぇ!ラウ兄様みたいに強くなりたいの!」


「ふーん…」



王宮の広場に置かれたベンチに二人並んで座りながら、タオルで汗を拭く。まだ兄たちは稽古をしているのだろう、遠くで打ち合う音と声が風に乗って流れてくる。後ろにひとつで結んだシルバーブロンドの髪がサラサラと風に流される。



「葉っぱついてるぞ」



そう言いながらカロリーヌの頭についた葉っぱをとるクロヴィス。彼の瞳はエメラルド色で、陽の光の下では新緑のような輝きをもつ彼の色がカロリーヌは大好きだ。髪はゆるくウェーブした柔らかな黒髪で、ふわふわとしているのを見るとつい触りたくなってしまう。一度触ったとき、くすぐったくてイヤだと言われてしまったので、今も風に揺られるのを見るだけで我慢する。でも最近、それを我慢するのが何となく嫌な気持ちになってしまうカロリーヌ。胸の奥がもやもやとするのだが、それが何故なのかわからない。ふぅっと大きく息を吐いて前を向く。そうすると胸のもやもやが少しなくなる気がするのだ。


その後もモンタニエ家に迷い込んだ猫の話や街で人気のお菓子の話などをしていると、クロヴィスの母親であるレスタンクール家侯爵夫人のミレイユが二人のもとにやってきた。



「カロリーヌちゃん。今日も遊んでくれてありがとう」


「いえ、クロヴィスが相手をしてくれたので。こちらこそありがとうございました」



まだ拙い淑女の礼をすると、隣に座っていたクロヴィスはベンチから降りて母親の隣へ行った。遠くで聞こえていた打ち合いの音も聞こえなくなったので、そろそろ兄も終わる頃だろう。じゃあな、と手を上げて帰っていくクロヴィスの姿を見ながら、今度はいつ会えるだろうかと考えていた。




その機会は思ったよりも早くやってきた。アルフレッドが魔術の練習をしたいからとオリオール家に呼ばれたのだ。少ないながらもカロリーヌとクロヴィスは魔力を持っているので、二人はオリオール家のお菓子を楽しみに訪れることにした。



「今日は魔力を流す練習をしたいんだ」



まだ幼い彼らは、魔力を上手にコントロールすることができない。魔道具に魔力を流してもコントロールができずに壊してしまう可能性があるため、お互いの手に魔力を流していくことが魔力コントロールの初歩の訓練だとアルフレッドは言った。



まずはアルフレッドとクロヴィスがお互いの手を合わせて流してみる。しばらくするとクロヴィスが眉間に皺を寄せて変な顔をしている。アルフレッドもそのタイミングで手を離した。



「どうしたの?」



カロリーヌが聞くと、眉間に皺を寄せたまま両手をプラプラとしながら椅子に座る。



「…なんか腕がムズムズして気持ちわりぃ」



魔力を人に流すことなどしたことのないカロリーヌは、その言葉を聞いて少し不安になる。次はアルフレッドとカロリーヌでやってみたが、クロヴィスが言うように手から魔力が流れ始めるとくすぐったいような、痺れるような変な感覚になった。それはアルフレッドも同じようで魔力が流れすぎなのかな、などと一人でぶつぶつと言っている。



「わたくしは魔術の才能はなさそうだわ」


「オレもだな」



二人は早々にあきらめて、目の前のお菓子に手を伸ばす。相変わらずオリオール家のお菓子は美味しい。アルフレッドの母親がお料理好きで、遊びに来ると必ず手作りのお菓子を用意してくれるのだ。淑女らしさも忘れてもぐもぐとお菓子を食べていると、アルフレッドが何かを思いついたようにこちらを見た。



「ねぇ、二人でもやってみてくれる?」



別に魔術師を目指しているわけでもないが、お菓子をただ食べるだけでは申し訳ないので、アルフレッドに言われた通りに二人は向かい合う。カロリーヌの方が少し背が高いので、少し視線を下げながら手を合わせて魔力を流してみた。



「……なんか、別に気持ち悪くないな」


「そうね。さっきよりビリビリしたりしないわ」



それを聞いたアルフレッドは、やっぱり相手が…などとまた一人の世界に入ってしまった。二人はもう話しかけても無駄だなと思い、再びお菓子に手を伸ばす。







――――― そして、その時のカロリーヌは何の気なしにしたことだった。

まだ五歳の少女は、普段両親がしていたことをただしただけで、その行動によって相手がこんな反応をするとは思ってもいなかったのだ。




「やめろよ!!!」



自分の手を強く振り払われ、真っ赤な顔で怒り出すクロヴィス。それはあまりに突然で、カロリーヌにはどうして急に彼が怒り出したのか分からなかった。思考の沼に落ちていたアルフレッドも何事かと顔を上げる。



「ふ、ふざけんな!!」



ふざけてなどいない。ましてや馬鹿にしたわけでもないのに、何故こんなに怒っているのか分からないカロリーヌ。振り払われた手が赤くなり、ジンジンと痛む。


だた頬についていたお菓子を口でパクリと食べただけなのに、ものすごい形相で睨んでくるので思わず目に涙が浮かんでくる。


でも自分は悪くない。悪いことなんてしていない。お父様とお母様がニコニコ笑いながらいつもしていることだ。そう思ったカロリーヌは思わず叫んだ。



「クロヴィスのばか!!!!だいっっっきらい!!!」




この日を境に、この二人は顔を合わせてもお互いを傷つける言葉ばかりを口にするようになってしまった。





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