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婚約破棄されたくない

新連載です。『ポンコツ魔力~』のスピンオフですが、単体でお楽しみいただけます。更新頻度も以前と同じくらいで週1~2程度の予定です。とりあえず今日は2話アップします。




「そんなにわたくしのことが嫌いならば、婚約は解消いたしましょう」


「…………は?」


「家同士のこととはいえ、嫌いな人間との結婚なんて苦痛でしかないでしょう。お父様にはわたくしからお話しておきます」


「……………」



目の前の男は、いつも自分が優位に立っていると思っていたのだ。まさかこちらから解消を申し出されるとは思ってもいなかったのだろう。言葉を失って立ち尽くす姿を見たら、少し胸がすく思いだ。……本当に、本当に少しだけ。

この婚約を喜んでいた自分の気持ちは心の奥底にしまう。この年齢ともなれば、自分の感情を表に出さないのは、わたくしにとっては簡単なこと。


今日わたくしは、長年自分を嫌っていた相手との婚約の解消を申し出た。婚約破棄をされる悪役令嬢にはなりたくなかったから。








――――――――――




王都の中心街にあるモンタニエ家の庭園は、五大侯爵家の中でも最も美しいと言われている。

専属の庭師たちにより日々丹精込めて育てられた花々は華やかに咲き誇り、木々も樹種によって最も美しく見える姿に整えられる。季節や年によってその景色が変わることから、いつも訪れる人々の目を楽しませている。



この国は貴族間の大きな派閥もないことから、不定期に開催されるモンタニエ家のお茶会は、いつどこの誰に声がかかるか分からない。そんなこともあり、招待状を手にしたものは運が良いとも言われている。


この日も天候に恵まれ温かな日差しの中、庭園の一部にある開けた場所でモンタニエ家恒例のお茶会が催されていた。





「お姉さまって、“あくやく令嬢”っぽいですわよね」


「は??」



突然、目の前の従妹からそんなことを言われ、今年十歳になるカロリーヌは手に持っていたカップの持ち手を折りそうになる。普段から礼儀がなっていないとは思っていたが、お茶会が始まって早々、年上のしかも格上の侯爵家の令嬢に向かってその暴言は何なんだと思い、つい低い声が出てしまった。



「くくっ……!」


「…………」



その隣に座るヤツもヤツだ。笑いを堪えているように見せかけて、完全にバカにしている。今日のお茶会は母が親しい友人を呼んだせいで、その子どもたちも連れ添われてきたが自分にとっては最悪のメンバーだ。



「あくやく、令嬢とは…なんですの?」



どうせ悪役であろうことは分かるが、貴族の令嬢に悪役なんて言葉がくっつくこと自体理解できない。ただ人を貶める言葉であることはわかるので、心を冷静にして問いただす。



「お姉さま、ご存じないんですか?今、市井で流行っている恋愛小説には“悪役令嬢”が必ずと言っていいほど出てくるんですよ」



基本的に貴族のマナーやしきたりの本ばかりで、特に恋愛小説はほとんど読まない。恋愛小説を読んでいるのがそんなに偉いのか。なぜか上から目線で話してくる彼女に疑問符が複数浮かぶ。その横でいまだに笑いを堪えているヤツ、後で覚えておけよ。



「そうなの。恋愛小説はあまり読まないから、今度読んでみるわね。ところでクロヴィス、あなた何でここにいるの?今日は王都騎士団の見学に行くとか言ってなかったかしら」



これ以上話を広げると厄介なのでさっさと会話を打ち切り、隣で涙を浮かべながら腹を抑える男に話をふる。いい加減笑うのやめろ。半目でそちらを睨むと、あーやばい、おもしろいなどと言いながら息を整えて話し出した。



「いやー、やっぱオレ魔術学院入ることにしたわ」


「は??」



本日二度目の「は??」である。

こいつ今なんと言った?



「アンタ、士官学校に入るって言ってなかった?」



ダメだ、ついこいつの前だと口調が戻ってしまう。しかし何で急に魔術学院なんて話になったのだ。それじゃあ自分も士官学校に入りたかったのに、わざわざ魔術学院に変えた意味がないではないか。



「オマエの兄貴に相談したんだよ。そしたら魔術学院がいいんじゃないかって言われて入ることにしたんだ」



カロリーヌには騎士団を目指して士官学校に通う四歳上の長男ラウルと、魔術学院に通う三歳年上の次男のルドルフという兄が二人いる。どちらか分からないが余計なことを言ってくれたものだ。



「いやよ!なんで学校に行ってまでアンタと毎日顔を合わせなきゃなんないのよ!」


「はぁ!?べ、別にオマエがいるから入ったわけじゃねーよ!…あ、もしかしてオレのほうが魔力が高いの気にしてんだろ?」


「そんなわけないでしょ!だいたい騎士になるっていってたのが何で急に魔術師に変わるのよ!」


「うるせーな!オレの将来のことなんかオマエに関係ねーだろ!」



最低だ、最低だ。こんなことなら最初から士官学校に決めていれば良かった。魔術学院よりも早く入学の締め切りをしてしまったので、今から変えることはできない。こいつを避けて過ごしたかったのに、これから先、六年も一緒に学院生活を送るのかと思うと絶望しかない。そんなことを考えていながら目の前の男と言い争っていると、テーブルの傍に二つの気配があることに気づいた。



「……カロリーヌ、お招きしている立場で何という振る舞いをしているのですか?そしてその言葉遣いはなんですか?」


「クロヴィス!あなた今日、自分から行きたいって言ったのに何てことしてるの!いっつもいっつもカロリーヌちゃんいじめて!ちょっとこっち来なさい!」


「いてててて…!耳ひっぱるなよ!」



ふと見ると、ズル賢い従妹はテーブルからいつの間にかいなくなっていた。帰ったらお母様のお説教タイムだ。今日は何時間かかるだろう。それもこれも全部アイツのせいだ!カロリーヌは去っていくクロヴィスの背中を睨みつけた。







「お兄様!アイツに余計なこと言いましたわね!」



ノックもせずバンッと大きな音をたてて下の兄ルドルフの部屋に入る。ドカドカと足音を鳴らして歩く姿は貴族のご令嬢とは思えない。



「なんのことだい、カロリーヌ」


「とぼける気ですか!クロヴィスに魔術学院に入るようお話したのはルドお兄様でなくて!?」



昨日は夜遅くまでお母様に怒られたせいで聞くことができなかったが、今日はきちんと兄に問いたださなければならない。現在、魔術学院に通っている三回生の兄がヤツに話したに違いないと思ったので、こうして朝一番に押し掛けた。



「クロヴィスは魔術学院に入るのかい?」


「…え?そ、そうよ!昨日お兄様に言われて士官学校ではなく魔術学院に入学すると!どうして学校に行ってまでアイツの顔を見なければならないの!!」


「んー。でも僕はクロヴィスとは話していないよ」


「じゃあラウ兄様ね!後で聞いてみるわ!!」


「そうすると良いよ。ただね、カロリーヌ。事実を確認する前に物事を決めつけてから話をするのは良くない。」


「……はい、お兄様。ごめんなさい」



カロリーヌは勢いを失いシュンとしてしまった。

ルド兄様は、こうしていつも優しく諭すように話をしてくれる。だから頭に血が上ったカロリーヌも冷静になって自分の行いを反省するのだ。



てっきりルド兄様がヤツに話をしていたのだと思っていたが、どうやら違うらしい。ラウ兄様に会ったら聞いてみなければと部屋を後にしたカロリーヌだが、長男のラウルは士官学校で長期の遠征訓練に出てしまい、その後話を聞くことはできなかった。





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