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男女逆転世界でキャンプをしよう!  作者: くもくも
1章 男女逆転世界のキャンパーさん
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4-3話 ちびすけ三女とキャンパーさん

 遥からステンレスの鍋を受け取り、壊れた炊飯器に入れたままだった吸水済みの米を移す。

 目分量で少し水を継ぎ足して、いざ炊飯開始だ。


 「今さらだけど本当に大丈夫? ボクが炊けたお米買ってきてもいいんだよ?」

 いたずらっぽく言う遥に、笑って返す。

 「まあ任せて下さい遥姉さん。炊飯器よりおいしく炊いてみせますよ」


 沸騰するまでは少し強めの火を使い、ある程度のところで一度蓋をとり、菜箸で中をかき回す。

 キャンプ用の鍋はアルミ製が多いが、ステンレス鍋で多めの米を炊く場合は、こうして熱を均一に伝える方が経験上うまく炊ける、と思っている。


 「ちょっと、ほんとに大丈夫なん? あたし蓋は外しちゃいけないと思ってたんだけど。なんだっけほら、なんとかしても蓋取るな、ってやつ」

 葵まで心配してくるが、全く心配ご無用だ。

 「赤子泣いても蓋とるな、だよ。でも大丈夫。あれ嘘みたいなもんだから。大して変わんないよ」

 蓋を戻してしばらくそのまま。

 

 「葵ねえ、これキャンプで炊飯するときに昔の人がやってたやり方です。この方が焦げにくいらしいです。だから大丈夫のはず」

 急に別の声が僕を擁護してくれた。

 声の主は三女の雪だ。急に現れたのでびっくりした。


 「雪ちゃん、久しぶり。今日からよろしくね。それにしても大きくなったね」

 実のところ、そんなに大きくなってはいない感じだけど。

 最近は女性も背が高くなりたいものらしいので、一応そう言っておく。


 雪は僕らの中で一番年下で、今年中学三年になる。

 昔から、可憐、という言葉が良く似合う、儚げな表情の美少女だが、蝶よ花よとみんなに可愛がられて育った結果、ちょっと性格がねじまがり、ひどい内弁慶さんになってしまっている。

 でも天使のごとくかわいいので、思春期の僕が唯一、冷たく扱わなかった相手だ。


 「亮にい、お久しぶりです。いいから、鍋に集中」

 「もう弱火にしたから大丈夫だよ。いい匂いでしょ。それより雪ちゃん、キャンプ好きになったんだ?」

 同志を見つけたかもしれないと探りを入れると、雪は姉の葵の後ろにすっと隠れてしまった。

 葵と並んでいると、背の低さがはっきりわかってしまう。胸元の膨らみのわびしさも際立つ。


 さらさらのロングヘアが葵の背中から覗いていた。引っ込み思案なやつだ。

 そういうところもかわいいけどさ……。


 「まあ、嫌いではないですよ、キャンプ。」

 なぜか照れたようにうつむいているが、少し嬉しそうな顔をしている。

 これは間違いない、キャンプ好き、しかも高確率でガチのキャンプ好きだ。これは黙っていられん。


 「雪ちゃん、なぜ恥ずかしがる。キャンプ好きなんだろ? なら、もっと熱くなれよ! 中学生がガチのキャンプ好き、確かに珍しいかもしれない。でもそれは他のやつらが遅れているだけだよ。心にランタンがないやつらには分からないだけだ。自然を感じたいんだろ? 自由を感じたいんだろ? 燃やそうぜ、俺たちキャンパーの心のオイルランタンを。焚き火の動画を見てるだけで満足か? 違うだろ? キャンプってのはさ、」

 「なんですか突然。気持ち悪いです。鍋の音が変わってきてます。焦げますよ」


 ほらキャンプ好きじゃん……音で分かるのはそこそこガチな人じゃん……

 そういう態度されたら寂しいんだけど……。


 「まあ待ちなさい。匂いからするともうちょっと火にかけた方がいい。……いや、そろそろかな」

 言って火を止める。間違いなくいい出来だ。


 しかし、美少女キャンパーを発見してちょっとテンションが上がってしまった。

 なにせ前世の時代のキャンプ場で、こんなに若い、そして美少女がガチキャンプしている姿なんて、動画以外では全く見たことがなかったから。


 逆にこの世界では、キャンプ好きな男の僕の方が圧倒的に貴重なわけだけど。


 「じゃあ葵、10分くらいこのまま蒸らしたら完成だから。酢飯作りは任せたよ。シャリ切りシャリ切り」

 空中をチョップチョップ。シャリ切りとは一体……。


 「おっす、やるじゃん亮一。ほんとに料理できるんだ」

 葵も空中をチョップチョップしている。さすがギャル。ノリがいいね。


 とりあえず、みんなにいいところを見せられて満足だ。

 いや、ちょっと違うか。

 僕が鍋と向き合っていた間、葵は僕のケツあたりをかなりガン見していた。

 さらに言えば、真面目そうな遥も僕の胸元をちらちら見ていた。


 気づかれないようで、気づかれている。よこしまな視線とはそういうものだ。指摘はしないけど。

 そして僕の体の何がいいのかは、前世の感覚のせいもあり、さっぱり理解できないけど。


 葵と楽しそうにしていると、雪がぐいっと間に入ってくる。

 「おっと亮にい、葵ねえにちょっかい出すのは禁止ですよ。遥ねえはまだいいですが、葵ねえは私のです」

 シスコン尊い。そして遥への扱いが軽い。長女なのに。


 「あと、さっき聞こえてましたが、以前のこと私にも謝罪を要求します。葵ねえ泣いてましたからね、あなたが冷たくなったって。私にはいつも通りだったのに、最低です。許してはおけません」

 ひっ……。目が冷たい……。


 「その節は大変申し訳ございませんでした。反省し、悔い改める次第です。つきましては反省の証として、ぜひ一緒にキャンプ用品店などに遊びに行かせてもらえればと。もちろん安いものであれば喜んで購入させていただく所存です。」

 エサをちらつかせると、雪はようやく葵のうしろから出てきてくれた。

 実に小動物的である。


 でもやっぱり恥ずかしそうにうつむいたまま、こちらに小指をつき出してきた。

 「貢ぎ物はペグハンマーを希望します。軽めのやつで」

 要求するものが渋い。そしてやはりキャンプ好き確定だ。

 ここはたたみかけて仲間作りに勤しもう。


 自分の小指を雪の小指に絡め、そしてもう一方の手で雪の手の甲を包むように握る。

 無言のまま、うつむいた雪と無理やり視線をあわせる。約束だね、という微笑みと共に。


 殿下の宝刀、ボディタッチ及びイケメンムーブ再び。

 中学生女子に耐えられるものではない。

 

 「し、尻軽みたいなのは良くないです。ま、まだ妊娠したくないです。ボディタッチは厳禁です。です。」

 明らかに照れている。喜んでいる。

 引っ込み思案な三女、陥落なり。


 「お兄ちゃん、さっきからちょっとおかしくない? 妹をそっちのけで他の女の子にちょっかい出したらいけないんだよ? 懲役刑だよ?」

 急速に進む雫のヤンデレ化。しかし可愛いから問題なしだ。


 「あれー、ボクのときはそういうのなかったのに。ちょっと残念だなあ」

 遥が言う。待って。ややこしくなるから待って。


 「わたしのときもお手手つなぎはなかったあ。ずるーい」

 里美さんまで。やめて、ほんとにやめて。

 

 みんなの姿を見て、雪がからかうように笑った。こいつ、身内にはいつも強気なのだ。

 「亮にいは昔、私と結婚の約束をしてますからね。みんなと私では立場が違います」

 あっ、それ言っちゃう? 幼稚園か小学校くらいのときの話ですよ?


 「葵ねえと私、女同士では子供がつくれませんからね。他の男よりはマシなので、亮にいと結婚してあげることにしていたんですよ。もちろん昔から、葵ねえを一番に愛してますけど。」

 雪のシスコンヤバい。尊いけどちょっと怖い。


 「は? 雪ちゃんいま何って言ってたのかな? 初耳なんだけど。ねえ雫お姉さんに詳しく聞かせて?」

 雫のブラコンもヤバい。普通に怖い。


 「やっぱり雪はかわいいねえ。これじゃ亮一にはあげられないよー」

 葵がキャッキャウフフと雪を抱きしめたとき、雪が明らかにエロい感じに、その大きな胸に顔を擦り付けたのを見た。

 こやつ、シスコンとかいうレベルじゃねえ。


 さぞかしふわふわであろう至高のおっぱいに挟まれたまま、雪はこちらを見てにやりと笑った。 「葵ねえは私のです」


 なんというふてぶてしさ。しかし尊い光景なので全力で許す。 


 「さて、歓迎パーティーの準備だよお。これ以上亮一くんに活躍させないように、みんなも頑張ってお手伝いしてね」

 里美さんの言葉でみんながニコニコと動き出した。なんていい家族。


 前世の僕もこんな家庭を築きたいとは思っていた。しかし現実は厳しい。

 短かった結婚生活。その後の侘しい独り身の生活。

 誰にも愛されることのない日々……。


 ああ、暖かい家庭が欲しい。

 そうだ、この世界では絶対に、暖かい理想の家庭を築いてみせるぞ。


 そしてキャンプに行きやすい環境作りも絶対条件だ。男女逆転世界だろうが何だろうが、譲れない一線だからな。


 ほんわかした里美さん一家の光景に僕が決意を固めていると、雫が不思議そうにこちらを見上げてくる。

 でもすっと頭を撫でてあげればほら大丈夫。我が妹ながら、ちょろすぎである。


 すまないね妹よ。お兄ちゃん、ちょっと急に変わりすぎてるよね。


 とにかく里美さんの三人娘との出会いはこんな感じだった。

 ボーイッシュなイケメン長女の遥。次女は見た目だけギャルの良い子な葵。内弁慶だが見た目は天使の三女が雪。これが川口一家の三姉妹である。


 これに妹の雫を加えた四人が当面の僕の攻略対象だ。

 せっかくこの若い体で、おっさんの前世の記憶が手にはいったのだから、若い美女たちのエキスをせっせと集めるとしよう。


 向こうはこちらを正直エロい目で見ているだろうが、まさか逆にこちらの方がさらにエロい目で見ているとは思うまい。

 年頃の男女が一つ屋根の下。当然何も起こらないはずがなく……。いや、いずれは何か起こってくれ……。

 

 仲良くなり、あわよくばイチャイチャ。さらにあわよくばちょちょっとあれこれを……と欲は広がる一方だが、同時に、この世界でもキャンプを始める準備を整えていかなければならない。


 しかし、まずは以前に雫と二人で暮らしていた家も正式に処分するなり考えなくては。税金だけ取られるのも正直つらい。


 高校も葵と同じところに編入試験を受ける予定だから、今のうちに多少は勉強しておかないと。

 居候する以上、この川口家への貢献も必要だろう。


 しかしまずはキャンプを……ああ、実に悩ましいことがたくさんだ。


 おっさんの体では久しく感じられていなかった、この未来への高揚感。

 正確にはちょっと違うが、ああ、若返るってすばらしい。

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