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男女逆転世界でキャンプをしよう!  作者: くもくも
3章 R-15とキャンパーさん
23/24

21話 三女と焚き火とキャンパーさん

 美しい夕日。

 木々の隙間からこぼれる光。


 そう、いま僕はキャンプ場に来ています。


 「さあ急ぎましょう亮にい。日が暮れる前に設営を済ませないと」

 今回のキャンプも、相棒は末っ子の雪ちゃんだ。


 「まあ落ち着こう。まだあと一時間は明るいよ。……テントはそのあたりに立てようか。どう思う?」

 今はすでに夕暮れどき。週末は日曜日が雨予報だったので、金曜日の学校が終わり次第でダッシュで集合し、遥に車で送ってもらって、家から一番近いキャンプ場にやってきたのだ。


 金曜日の夜はキャンプ場の予約も取りやすいし、人もわりと少ない。

 キャンプで体が疲れてしまっても、日曜日にゆっくり回復できる。

 金曜夜からのキャンプ開始は、前世の社会人生活でも行っていたテクニックだった。


 「いやあしかし、やっぱりキャンプ場はいいねえ。空気がうまい! 幸せ!」




 今回のキャンプまでに、いくつか道具も追加してきた。100均のアイテムが多いが、案外いい道具が多くて、かえって楽しいくらいだ。

 周りのキャンパーたちと比べれば、もちろん見栄えは貧相だが。


 「なんか、周りのキャンパーさんたちにすごく優越感がありますね」

 雪はむしろ逆の感想を持ったみたいだ。

 なぜだろう。こちらは寝袋すらなく、家庭用の薄い毛布で眠るほどの貧相な装備なのに。


 不思議がっている僕の顔を見て、雪はニヤリと笑った。

 「このキャンプ場で今、男連れなのは私だけですよ。チラチラこっち見てる人が多くて。へへ、亮にい、周りに見せつけてやりたいので、ちょっと亮にいの方からちゅーして下さいよ」

 性格の悪いチビすけめ。

 でもかわいいので許す。ちゅーもする。


 「よく考えてみると、明日お家に帰るまでは亮にいと二人っきりなんですね。なんかちょっと、嬉しいです」

 受付で買ってきた薪の紐を外しながら、雪は頬を赤らめている。

 こういうちょこちょこデレてくるところが、ほんと好きなんだよなあ。


 追加でちゅーもする。もちろん。



 時間がないので、料理はコンビニでアルミ鍋のうどんや焼き鳥などを買ってきた。

 今のところの装備では、焚き火で暖めるだけで食べられる、というのが大事だ。

 なにせ焚き火台は、有名ブランドの偽物を驚くほど安く購入したが、キャンプ用のガスコンロは猛烈に高額なので、焚き火以外の加熱調理の方法が僕たちにはない。


 薪を割るナイフなどもまだ揃っていないので、買ったばかりの太い薪にそのまま、着火材で強引に火を移す。


 あるものだけでなんとかする。これもキャンパーの大切なスキルだ。

 アルミ鍋のうどんを沸騰させるにも、そう時間はかからなかった。


 これはこれで、充分おいしい。

 焚き火で暖めれば、何でもうまい。

 美少女の雪が、横で幸せそうにしているのだからなおさらだ。


 「やっぱり薪割りの道具くらい買うべきでしたかね。……でも焚き火はやっぱり素晴らしいです。心が洗われます」

 地面に敷いたマットに並んで座りながら、焚き火をながめてぼんやり過ごす。


 「一応、焚き火の最中はエッチなことは禁止ね。火事や火傷に注意だよ」

 一応ね。宗教上の問題なので。


 燃える薪を100均のトングで動かしながら、冗談で言った僕の言葉に、雪の目は座っていた。

 「亮にい、焚き火の前ではそのような発想が出ること事態が、不敬、と言えますよ。まあちゅーくらいなら、許してあげますが。……あ! ちょっとなんでそこの薪を勝手に動かすんですか! なるべくノータッチでお願いしますよ」


 こいつ、焚き火の神に忠誠を誓ってるのか。宗派の微妙な違いを感じるな。

 僕の場合、薪はちょこちょこ触りたい派だ。邪道ではあるが、見て愛でるだけではなく、触りたい欲求が抑えられないので。


 焚き火の光に照らされて、雪の横顔はちょっと危ない人の表情に見える。

 焚き火ガチ勢の表情だ。


 「雪ちゃんちょっと怖いよ……。あ、僕ちょっとトイレ。火の番は任せたよ」

 雪は僕の方を振り返りもせず、指でクイッと、こちらに来いと命令してくる。


 顔を寄せた僕に雪は、ちゅーという言葉では生ぬるい、激しめの接吻をお見舞いしてきた。

 なんだろう。かわいいけど、なんか腹立つなこいつ。

 後でお仕置きが必要みたいだ。



 きちんと整備されたキャンプ場なので、お手洗いまでの道は明るかった。

 買い足したランタンは一つしかないので、僕が持っていくわけにもいかない。

 明かりが少ないキャンプ場だったら、少し危なかったかも。


 用を足し、手洗いを済ませてトイレを出た僕の前には、少し酔った感じの女性二人が立っていた。

 「わ、やっぱり男じゃん! ねえキミ、向こうで私たちとお話でもしない?」


 こいつら、キャンプ場でナンパとは。

 浮かれた酔っぱらい。

 キャンプに対して、不敬だぞ。

 血圧がぐんと上がったが、こういう輩は無視に限る。


 すたすたと立ち去ろうとすると、女性たちは僕の肩をつかんできた。

 「ねえ、無視はひどくない? あんた向こうのショボいテントのとこの人でしょ? わたしたちのところのほうが……」


 ぶっ○すぞ、と怒鳴りかけたが、横から遮る声がした。

 「す、すいません。その人は私の連れです。触らないでいただけますか」


 引っ込み思案の内弁慶のくせに、雪はぐいっと僕たちの間に割り込んでくれた。

 僕のピンチに気付き、駆けつけてくれたのだろう。


 が、いかんせん身長が低い。

 僕とナンパ女性キャンパーの目は合ったままだ。


 「な、なによこのチビ。今大事な話してんだから、あっちいって」

 なんだこのブス、ぶっ○すぞ。


 「おいブス、ぶっ○すぞ」

 やっぱりダメでした。抑えられません。

 禁止ワードを使わざるをえない。


 「お前ら神聖なキャンプ場に来ておいて、キャンプより男あさりの方が楽しいのかよ。今すぐ帰れよブス。今こっちはキャンプしてんだよ、キャンプを。お前みたいなカスの顔見に来たんじゃないんだよ。焚き火に突っ込んで○ね! ○○○○! ○○○○!」


 荒い言葉が止まらない。

 禁止ワードを連発する僕の剣幕に、さすがに女性たちは引き下がってくれた。

 ちょっと引いたような表情は心外だったが。


 女性たちが離れると、雪がこちらを振り返って、強く僕を抱き締めてきた。

 「こ、こわいですよ……。何やってるんですか。うろうろしないで、早く戻ってこないからあんなやつらに絡まれるんですよ」


 いや、トイレ行ってただけだが。

 

 でも、知らない人にはよわよわの雪にしては、よくやった。

 たぶんあいつらがトイレの前で僕を待ち伏せしているのが見えて、慌てて助けにきてくれたんだろう。


 本当に怖かったのか、少し震えている雪を撫でてあげながら、僕は苦笑いしてしまう。

 男女逆転しているから、こうやって女性が男を守ってあげなきゃ、みたいな形になってしまうけど、無理しなくてもいいのになあ。


 でもまあ、よく頑張りました。

 ご褒美は後ほど体でお支払いします。


 僕は雪の体を、くるっと自分たちのテントの方向へ向けてやる。

 「ま、ありがとうな。でも焚き火を放っておくのはキャンパー失格だよ。火事になったらどうする」


 手を繋いで薄暗い道を歩いていく。

 誰かの焚き火や誰かのランタンの明かりで、暗闇の恐怖は感じない。

 「亮にいが危ないときに、焚き火のことなんて気にしてられませんよ。……怖かったんですからね。ほんとに私、ああいう人は苦手なんですよ、知ってるでしょう?」


 「わかってるよ。ごめんな、心配させて。助けに来てくれて、嬉しかったよ」

 繋いだ手をにぎにぎしてやると、雪はこちらの顔を見もせず、ぐいぐい手を引いて早足で進み始めた。


 自分たちのテントへ戻ったとき、焚き火はすでに半ば鎮火してしまっていた。

 本当はそこからきちんと後始末が必要だったのだが、雪は僕をテントの中に突き飛ばし、自分も入ってくると、粗っぽくテントのファスナーを下ろした。


 「今日の亮にいは私のものです。私だけのもの。……他の女とお話しさせてしまいましたから、上書きします。ね? ちょっと早いですけど、構いませんね?」


 何が、とは言わないが、その後めちゃくちゃ○○○○した。



 朝、焚き火の不始末でのトラブルはなく、そのまま自然鎮火してはいた。

 一応、テントの隙間から夜にちょくちょくチェックはしていたけど。


 が、当然天罰は下る。

 僕の信奉するキャンプの神も、雪の宗派の焚き火の神も、当然、火の始末を怠る者を許しはしない。


 その日の昼までは降らない予報だったのに、朝起きたときには、結構激しい雨が振りはじめていた。


 またいつもの祟りであろう。


 雨に対抗できる装備など何一つ持っていない僕と雪は、テントの中で毛布にくるまったまま、顔を見合せ思わず笑ってしまった。


 「また雨ですか。もうこうなったら、時間ギリギリまでテントでイチャイチャしていきましょう。なんか私、雨のキャンプも大好きみたいですから」


 違う、これはキャンプではやっちゃいけないことなのに……。


 いけないことなのに、朝からさらに二回、サービスタイムは続いた。


 終わったあと、チェックアウトの時間が近づいてきたので、名残惜しそうにする雪とキスを繰り返していると、雪の携帯にメッセージが届いた音がした。

 「なんでしょう、こんないいときに。ん、雫ねえからです。……なんでしょうこれ。亮にい、これなんのことか分かりますか?」


 雪が見せてきた携帯の画面には、

 『10万字突破記念キャンプ、おめでとうございます!』

 と書かれていた。


 僕はため息をつき、首を横に振る。


 雫の意味深なメッセージは、最近よく雫が受信している謎の電波だろう。

 遅れて来た中二病みたいなものだろうから無視するとして、画面の時刻を確認した。


 あと5分くらいはゆっくりしていても大丈夫。


 僕は雪にすりよっていき、あざとく追加のキスを要求する。

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― 新着の感想 ―
[一言] 凄く面白かったです!
[一言] 10万字突破おめでとうございます!これからも頑張ってください!
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