20話 妹とデートするキャンパーさん
「あっ、お兄ちゃん、今私なんかビビっときたよ。あれだね、久しぶりにわたしのメイン回がきたっぽい。」
最近ちょっと伸ばし始めた黒髪をかき分けながら、雫は急に変なことを言いだした。
最近なんだか、うちの妹がおかしいかもしれません。
先日数学で100点をとって以来、雫はちょっとお勉強をやりすぎているのかもしれない。
こっちは何も言っていないけど、100点をとるたびに、僕と新しいプレイができると思っているようで、たまに本当に100点のテストを持って帰ってくるほどの頑張りぶりだ。
もちろんその度に積極的なサービスは行っているが、ちょっとそういう無理がたたっているのかも。
「雫、ちょっと疲れてるんじゃない? 別に100点とらなくたって、雫のしたい感じのことなら、僕は頑張ってみるつもりだよ?」
かしこくかわいい妹兼恋人のためなら、僕は少々ハードなことでも耐えられるつもりだ。
「お兄ちゃん、気持ちはありがたいけど、そういうんじゃないから。ほら、葵ちゃんがお料理の道に進むっていうから、じゃあ私は将来とりあえず、しっかり稼げるように、今のうちに勉強頑張っておこうかなあって。お兄ちゃんに貧乏させるわけにはいかないからね」
まじか。ちょっときゅんとした。
……いい子ですわ。うちの子はほんとに。
「で、お兄ちゃん。今回の章では、みんなとR-15のレーティングの限界に挑んでる。そうでしょ? だったら私とは何しようか。あ、なんかいいロープがあるじゃん。じゃあちょっとこのロープで……」
おいやめろ雫。それはキャンプ用に買ったロープだぞ。
決して僕の腕を縛るためのものでは……。
や、やめろおお!
「ふう……結構はまるかも。で、お兄ちゃん、今回みんなとはお家であれこれやってるみたいだし、私とはちょっとデートでもしとく? ちょっとした風景の違いみたいなのも大事でしょ?」
「物分かりのいい妹がいて、僕は幸せものだね。それはともかく、一旦このロープ外してくれない? なんか絡まってて取れないんだけど……」
◇◇◇◇◇
というわけで、今回僕たちは学校帰りに、駅前の大きなホームセンター的なところに遊びにきていた。
たまたま葵に友人との用があったので、雫を放課後デートに誘ってみたところ、雫は部活をサボって僕に付き合ってくれたわけだ。
「しかしお兄ちゃん、これデートなんだよね? まさかデートでド○キなんて……深夜のヤンキーみたいだよ」
「ド○キホーテは素晴らしいよ? なんでも売ってる。キャンプ用品とかもね」
常にテンションの上がる例の曲が流れる店内で、僕たちはまず化粧品コーナーにきていた。
ド○ド○ド○!ド○キー!ド○キ!ホーテ!
……この曲を勤務中ずっと聞き続ける店員さんは、精神に何らかのダメージを負ってしまうのではなかろうか?
僕のような客からすると、異様に購買意欲をそそられるだけの歌だが。
「ほらお兄ちゃん、男の人もこういうので肌のケアくらいしたほうがいいんじゃない?」
雫がこちらに差し出してきたのは、ボディクリーム? のテスターのようだ。
ちょっと手の甲に塗ってみる。
……あー、これは。
「くっせえ。外国かぶれの匂いがする。くっせえ。」
男たるもの一切自らの肉体を省みぬものよ。
そういってノーメンテの体で生きてきた結果、前世では酒を飲みながら命を落とすことになったわけだけれども。
あと髪もかなりヤバい薄さだったけど。
「僕はほら、軟弱なものにアレルギーあるからさ、精神的に。化粧品なら雫が買いな。せっかくの機会だし、色々買い込んで帰ろう。たまには贅沢しないとね」
「その言葉を待ってました! ありがたき幸せ!」
雫はあれもこれもとテスターを使っていくが、若いうちはすっぴんぐらいがかわいいと思うんだけどね。
「お兄ちゃん、リップくらいなら学校でもバレないと思うんだけど、こっちと、これ、どっちがが好み? ちゅーしたくなるほうを選んでね」
「生の雫リップが一番すきなんだけどなあ。でも学校ならこっちの薄いピンクでしょ。そっちは絶対先生にバレるからね」
次に見ているのは香水のコーナー。
近づくだけで軟弱な気配と匂いがすごい。
ただ、この時代では男性もかなり香水を使うことが多いみたいだ。クラスの男子が言っていた。
昔も使っている人はそりゃあいたが、ちょっと気取りすぎな感じの印象はあったように思う。
「あ、お兄ちゃん、これ遥ちゃんがいっつも使ってるやつだよ。ほら、あの少し甘い匂いの。私この遥ちゃんの匂い好きなんだあ」
「えっ! これ香水の匂いだったの!? 遥のフェロモン的なやつかと思ってたのに! 女の子特有のやつだと思ってドキドキしてたのに!」
まじかよ悔しい……。かわいい女の子はみんなこういうかわいい匂いが体から自然に出てくるんだと思ってたのに……。
「お兄ちゃんダサっ。童貞の発想じゃん。うちのクラスの女子にもいたよ、男の子はレモンみたいな匂いがするって信じてた子。当然処女でしたけどね」
くそ、こういうの年下に言われるとほんと悔しいな……。
しかし最近は雫も、こうして僕をからかったり、馬鹿にしてみたりということが増えてきた。
ナマイキ! と思う男もいるかもしれないが、僕は今のように雫がふるまってくれる方が、実はちょっと嬉しいのだ。
決して、雫とのあれこれによってMに目覚めたからではない。
相手に軽口を叩けるのは、そのくらいじゃあ相手が自分のことを嫌いにならない、と信じられるからだと思うので。
特に最近になって、僕がきちんと、雫のことを大切に思っていて、心から愛している、という気持ちが、主に肉体的なあれこれによって、しっかり伝わっていることの証だろう。
真のいちゃラブとは、エロスの先にあるもの。僕は最近そう感じている。
「雫の匂いはなんか落ち着くんだけどね。やっぱり昔から馴染んだ匂いだからかな。なんかほんわかするんだよ」
ちなみに絶対言わないが、雫がこっそりアレした後の匂いは結構よくわかる。
男性のアレした匂いの方が分かりやすいとよく言うけれど、僕の場合はそういうことするエネルギーが残ってないことが多いからね。主にサキュバス軍団のせいで。
なんだか嬉しそうな顔の雫は、次に家電コーナーのあたりに進んだ。
なんと、奥の方の細い見えづらい通路の先に、18という数字が書かれた暖簾が見える。
さすがド○キホーテ。なんでも売ってる。ド○!ド○!ド○!
「雫、お兄ちゃんはちょっとあそこに入ってくるから。」
「だめだよ。それだけはだめ。あそこは女の聖域なの。お兄ちゃんは男だし、百歩譲ってもまだ17歳でしょ」
ピンクの暖簾。欲しいものがあろうとなかろうと、一応入りたくなっちゃうんだよなあ。なんとなく。
久しぶりに男女逆転の悪い部分が出てしまった。なんとも不便な時代になったものだよ。
近くにある18禁用途で有名なマッサージ器を見てため息をつく。
これはピンクの暖簾の外で売っていい、というのもおかしな話だ。せめてこいつでみんなをブイブイ、いやブーンブン言わせてやろうか。
雫が焦ったように僕の腕を強く引っ張った。
「わかったからお兄ちゃん、お願いだからそれじっくり見るのやめて! 欲求不満だと思われるよ! こういうのは、チラッと見てスマートに立ち去らないと!」
次にようやく来たのが、アウトドア用品のコーナー!
待ってました!
狭い店内の狭い棚に、ぎゅうぎゅうにキャンプ用品が押し込まれている。
最近ではド○キのオリジナルの道具も売られているのだ。これは要チェック。
「雫、僕はちょーっとこのへんを見ておくから、雫は好きなとこ見てきていいよ?」
僕の言葉に雫は、不満そうに口を尖らせ、でもぴったりと僕に体を寄せてきた。
「お兄ちゃん、一応これデートのつもりなんでしょ? 言いたくないけど、キャンプ道具と私、どっちが大事なのかな?」
うう、厳しいこと言うなあ……。
「そりゃ雫が大事だよ……。わかった、今日は諦めるよ……」
棚のキャンプ道具たちから、声が聞こえる気がする。
あれ? りょういちくん、もういっちゃうの? ぼくたちをもっとみてよ! できればかってよ!
「お兄ちゃん、そんな死にそうな顔しないで。一緒に見るのは嫌じゃないから。そうだ、私にもおすすめの道具とかない? お家でも使えそうなやつとか」
明らかに気を使ってくれてる感じが、表情からわかってしまう。
うちの妹は優しい子に育ったねえ。
「いや、大丈夫だよ。向こうのお菓子コーナー見に行こう。……あー、いや、ごめん1分だけ。いや3分だけ見せて」
雫はニヤニヤ笑いながら、10秒、20秒、とカウントしてくる。
かわいいやつ。……でも、ちょっとだけ待って。あとちょっとだけ。ちょーっとだけ。
「結局10分も見てましたねえお兄ちゃん。これはお仕置きかなあ?」
耳打ちしてくる雫の息遣いに、思わず背筋がぞくりと反応してしまう。
「ふふ、ごめんねいじわる言って。焦ってるお兄ちゃんも、すごくかわいかったよ」
最近の雫は、なんだかSっ気がすごいわ……。
僕も結構まんざらでもないんだけど、妹にいいようにされっぱなしというのは、ちょっと悔しいな。
「雫、ちょっと僕を舐めすぎたようだな。僕はそう簡単に妹に負けるような男ではないぞ? 向こうのコスプレグッズコーナーで勝負だ。今日の夜は絶対にゃんにゃん言わせてやるからな」
ド○キなら必ず、猫耳コスプレとか売ってるはず。今日はそれを雫に着せて、こっちが主導権を奪い返してやるぞ。
コスプレグッズは、これまた人目の届きにくい、奥の方に陳列されていた。
手前から、執事服、白いワイシャツ、詰襟の制服、タキシード、作業着、レザーのベスト……
「これ、もしかしてだけど、男が着る感じ?」
なんとも業の深いラインナップに震えが止まらない。
「そりゃ、こういうところで売ってるのはそうでしょ。何? もしかして私に何か着て欲しいの?」
悔しい。
猫耳とか、バニーちゃんとか、そういう格好をした雫が見たかったのに……
「ばかだねえお兄ちゃん。あ、猫耳あるじゃん。これなら安いし、買って帰ろうよ。実は葵ちゃんって猫耳フェチなんだってさ。知ってた?」
知らなかったし、あまり知りたくなかった。
結局その猫耳は、僕の全力のお願いにより、一回だけ雫が着けてくれて写真には残せたが、その後は夜のイベントでは僕以外が着けてくれることはなかった。
にゃんにゃん言うのも、この時代では僕のポジションだった。
葵もたいそう喜んでいた。
なお、猫耳を含めたド○キでの出費は9000円にも到った。
あの歌と音楽に、僕たちのお財布の紐を軽くする魔力が秘められているのは間違いない。
ド○ド○ド○!ド○キ!ド○キ!ホーテ!