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男女逆転世界でキャンプをしよう!  作者: くもくも
3章 R-15とキャンパーさん
20/24

18話 長女の看病とキャンパーさん

 遥が高熱を出したのは、里美さんの単身赴任が始まって2週間くらいたった日のことだった。


 お昼から何だか熱っぽい感じがしたらしく、病院に行くと、なんと体温は38度!

 ちなみにこの物語が急にシリアス路線になるような重病ではない。

 お医者さんからは、ただの風邪と言われたとのこと。


 翌朝、他のみんなが心配そうに登校していくなか、僕は自慢のキャンプ用飯ごうでお粥を作っていた。

 なにせ進学するつもりが無い僕には、高校の内申点など全く必要ない。

 愛する遥のためならば、と自分に言い訳して、電話一本ですぐにおサボりを決め込んだのである。


 部屋に入ると、遥はまだぼんやりした表情のまま、顔をこちらに向けてきた。

 寝癖のついたショートカットが実にかわいらしい。

 「うう、亮一くん、ダメだよ。ボクのことはいいから早く学校に行かなきゃ……」

 「いいから。遥と久しぶりに二人っきりになれるチャンスだからね。今日くらい学校はお休みでいいよ」


 飲み物やら何やらが散らばった机を軽く片付け、お粥とお箸を並べていく。

 「里美さんがいなくなってから、遥はちょっと頑張りすぎてたんだよ。今日はゆっくり休まなきゃ」


 かくいう僕も、最近はバイトも週一回に留め、家事にイチャイチャにと大活躍だ。

 特に朝ごはんに関しては、あまり味がいいとか悪いとか言われないので、ここしばらくは僕の独壇場である。

 早起きはキャンパーのスキルの一つでもあるからね。


 普段はお弁当箱として使っている飯ごうの蓋を開けると、ふわりとお粥のいい匂いが漂った。

 さすが。我ながら上出来。

 「食欲ないかもしれないけど、少しは食べてみてね。あ、せっかくだしあーんしてあげるよ」


 それまでダルそうだったくせに、急にガバッと起き上がった遥に、僕はせっせと親鳥のごとく栄養を与え続ける。

 なんだこいつ、めっちゃ食うやん。


 「うへへ、ご馳走様でした。……あれ、なんかボク、熱下がってきたのかも。ちょっと測ってみよっと」

 遥は体温計を寝間着の下から入れていくので、一瞬脇腹やおへそが丸見えになる。

 ……これはエロい。


 ピピピと音がして体温計を取り出すと、なんとその体温、36度。

 平熱そのものであった。


 「あ、あれ? もう治っちゃったか。へへ、こんな感じで亮一くんに看病してもらえるなら、もう少し続いても良かったんだけどなあ」

 「バカなこと言わないの。さ、横になってきちんと休んで」

 僕は遥を抱きしめるようにして、ベッドへゆっくりと押し倒した。


 ベッドにコロンと転がった遥の目は……明らかに発情モードの目をしている。

 「ね、ねえ亮一くん? ボク、もう元気になったんだけど「ダメだよ。油断しないでちゃんと休まなきゃ。また熱がぶり返すよ」


 そうは言いつつも、夜の間にかいていた汗の匂いなのか、甘い感じの、凄まじくいい匂いがして、はっきり言えば股関に悪い。

 僕としても理性を保つのにいっぱいいっぱいだ。


 「ち、違うよう。シャワー浴びたいって言おうとしただけ。ほら、今ボク汗臭いでしょ? 恥ずかしくて……あ、ねえ、濡れたタオルもらえないかな? せめて体を拭きたくて……」


 恥ずかしそうにモジモジした遥を見て、僕の理性は完全にぷっつんした。





 いやあ、若さって素晴らしいですね。

 何をしていた、とは言いませんけど。




 「うう、だからシャワー浴びたいって言ったじゃん……。風邪、絶対うつったと思うよ」

 ノリノリだったくせに。余計にかいた汗と乱れた髪が非常にエロい。

 「とりあえず、濡れたタオル持ってくるよ。せっかくだし、僕に体拭かせて欲しいな」


 かわいい彼女の看病と言えばこれですよね。

 体の隅々まで。あんなところこんなところまで。しっかりフキフキさせていただきますよ。


 最初、首の周りや腕なんかを濡れタオルで拭いてあげながら、ちょこちょこキスを繰り返し、二人でニヤニヤと目を合わせていた。

 そして背中を拭き、そして前の方も……。





 いやあ、改めて若さって素晴らしいですね。

 何の話とは言いませんけど。




 「亮一くん、せっかく体拭いてもらったのに、ボクまた汗かいちゃったよう」

 「申し訳ない。ただの風邪で、しかも熱が下がったと聞いたら、どうにも辛抱たまらなくて。ぶり返したら完全に僕のせいだね」


 言いながら二人でひっついていると、どうにも自分の若さが収まらない。

 かわいすぎるのが悪い。いい匂いしすぎ。スタイル良すぎ。お尻の触り心地が最高すぎ。


 また、目があう。

 ……病み上がりのくせに、期待しすぎ。





 いや、ほんとにごめんなさい。

 きちんと看病するつもりだったんですよ?

 何をしていたとは言いませんけど。




 「うへへ、久しぶりに二人っきりは、嬉しいなあ。もうボク、また熱ぶり返してもいいや。風邪うつしてたらごめん。でも、もう諦めてね!」

 なにこの天使さん。

 僕でよければいくらでもうつしなさい! カモン!



 いつの間にか、かなり時間が過ぎていたので、手早く昼食を作る。

 遥はもはや普段より元気なくらいツヤツヤしていて、結局もうリビングに出てきており、簡単な昼食を並べていく僕をニマニマと見つめていた。

 元気だねえ……。あなた、ご先祖様にサキュバス的な人がいませんでしたか?


 昼食もわざわざ隣の席でひっついたまま食べていく。いかにもお行儀が悪いが、こんなの誰だってこうするだろう。

 至高のイチャイチャタイム。こんなの我慢できるものか。


 食事が終わるやいなや、お皿も片付けず、遥は僕を抱きしめ、椅子からずりずりと引き下ろし、僕を床にそのまま押し倒した。

 「ああ、もうボク、だめだあ! で、デザートだから! これは食後のデザートだから!」





 いやあ、食後のデザートって本当に素晴らしいですね。

 




 「亮一くん、大好きだよ。ボク、もうほんと、なんか我慢が効かないんだよう。」





 いやあ、若さって本当に……




 「好き。亮一くん。大好き。……ふふ、亮一くんも元気だねえ。……じゃ、いいよね?」





 この回数は最高記録かも。

 いやあ、本当に……




 玄関から、急にガチャンと音がした。

 

 「ただいま帰りました。遥ねえ、自分のお部屋ですか? 熱は下がりましたかー?」


 雪だ!!

 やばい、うそだろ、もうそんな時間!?


 遥は、何をしていたとは言わないが、そのままの状態で固まってしまっている。

 いやいやいや! 早くこの足外して! 腕も!


 「ああああストーップ!! 雪ちゃん、そこでストップだあ! 今、リビングにはまだ風邪が治ってない遥がいる! すぐ部屋に戻して、一回換気するから、一旦自分の部屋に行ってくれ! 受験生の雪ちゃんに風邪をうつすわけにはいかない!」

 僕が叫ぶと、遥もようやく立ち上がった。


 「そうだよ雪! ボクは大丈夫だから! ちょっとだけ! ちょっとだけお部屋に戻って!」

 あ、このおバカ……。


 しばらくの沈黙のあと、雪はもちろんそのままリビングに突入してきた。


 大惨事となっている僕たちの姿を見て、雪はため息をついた。

 「……お猿さんが二匹いますね。……あなたたち、平日の真っ昼間から、アホですか?」


 僕たちは無言で正座になる。


 「ほんと、なんですかこの部屋のこの匂い。……お猿さんよりひどいですよ。亮にい、すぐ換気してください。遥ねえ、早く自分の部屋に戻りなさい。さあ、ハウス!」


 僕たちは離ればなれになり、しずしずと雪の命令に従った。


 人間は本当に愚かだ。いや、僕たちはその人間ですらない。

 お猿。けだもの。どうぶつ。


 うなだれた僕を見下したまま、雪は制服姿のまま仁王立ちしている。

 「今日は亮にい、おうちで暇をもて余していただろうと思って、わざわざキャンプ雑誌の最新刊、借りてきてたんですけどねえ。……残念です。お猿に文字は読めませんよね。……ほんと、残念です」


 「うう、違うんだよ雪ちゃん! 僕は人間に戻りたい! 人間に戻りたいよ!」

 「黙りなさいこのさかりのついたどうぶつめ! なにが看病ですか! ただの色ボケずる休みじゃないですか! このどすけべ! ビッ○! ○○○○! 遥ねえのお熱がまたぶり返したらあなたのせいですからね!」


 ひ、ひどい、ひどすぎる……。

 自分だってこの前テントで、さんざんおんなじことをしてきたじゃないか……。


 リビングの扉の外からは、遥がこちらを心配そうに見ている。

 「うう、ごめんよ亮一くん。ねえ雪、ボクが悪いんだ。亮一くんのことは怒らないであげて」

 「大きいお猿がうるさいですよ! ハウス!」



 そうして我が家のリビングには、扉に張り紙が追加されることになった。


 『りびんぐでのふじゅんいせいこうゆうきんし』


 モラルを失ったけだものたちが、家族の共有スペースを汚すことを防止するためのルールだ。



 ちなみに張り紙を設置した雪は、その一週間後に早速、自らこっそりルールを破った。

 正直、うらやましかったとのこと。


 もちろん遥は張り紙など全く気にもかけず、4日後くらいにはルールを破っていた。



 意外にも僕に風邪がうつることはなかったが、今になって考えると、そもそも遥が風邪をひいたというのは真実だったのだろうか?


 思い返してみれば、僕は遥の体温を高いと感じる瞬間はなかったし、遥が咳やら鼻水やらを出していることはなかった。


 病院に行ったとの自己申告に対し、遥が薬を飲んでいる姿すら見ていない。

 

 これははじめから、看病のために残った若い男のエネルギーを吸い尽くさんとする、狡猾なサキュバスの罠だったのかも知れない。


 真実は闇に包まれているが、まあ、こんな罠なら僕は、何度でも自分から喜んで飛び込んでいくだろう。

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[一言] ちょうだいちょうだい、こういう話もっとちょうだい
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