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ディスコミュニケーション

作者: 山中

たまには一次も書きたかったので自己満で殴り書きました

誤字とか合っても許してね

「……美味いか」

「それはもう」

 豪華な城、光の行き届かない部屋。豪勢な料理。

 目の前に座る男は相も変わらず表情が読めない。

 人間の見た目を持ちながら、角を生やした綺麗な顔の男。

 彼はわたしの幼なじみだ。

 絶大な力を持ち、人民果ては魔物からも畏怖される魔王。

 その魔王にわたしはどうも執着されている。



 わたしがこの世界に転生して早二十余年。

 異世界トラックに轢かれ、死んだはずのわたしはどうしてかまた人間として生を受けることになった。

 あれは治るか五分五分だった病に打ち克ち、髪も揃ってきた矢先のことだった。やっと気兼ねなく外に出られる! そんなわたしの思いは交差点で信号を待っていたときに打ち砕かれた。

 病という死亡フラグを乗り越えたからといって、そのあと死ななくなるわけではない。死は平等だ。この宇宙で平等なものがあるとすればそれはただ一つ、終焉だけ。いやいやそれでも納得できるか! 大病をしていくらか悟ったわたしでも、そう叫ばずにはいられなかった。


 たぶん、その無念が次の生へと至らせたのだろう。

 そして次の生はとある物語の世界で。

 SNSのタイムライン上で受動喫煙をしていたジャンル。その細部まではわからなくとも、大まかな世界観くらいは知っている。魔法や魔王が存在する異世界ファンタジー。

 その世界にわたしは転生した。重要人物である魔王の幼なじみとして。




 魔王との出会いは、まだ彼が魔王ではなくどこにでもいるような少年だった頃だ。

 いや、どこにでもいるというのは少し語弊があるか。彼は人や動物の考えていることがわかる、読心能力を生まれながらにして持っていた。

 読心とは厄介なもので、純粋無垢な幼少期から建前を建前であると気付いてしまうのはスレてしまう要因になる。好奇心旺盛な子供に対して、危険なものに近づかせないために、怖がらせる嘘は有効だ。かくいうわたしも、前世でサンタクロースやかまいたちの存在を信じ切っていたのだから。でもそれはやさしい嘘というもの。

 まあ、他にも大人の汚い事情や薄っぺらい関係性などを彼は知ってしまっていたのだろうが、心の読めないわたしにそこまではわからない。

 それはともかく。スレてすっかり疑心暗鬼になった彼は、独りを好んだ。

 そのあたりの情報は知っていた。いつかSNSのフォロワーさんが件の魔王について語っていたときがあったからだ。

 でも、いわゆる推しではなかった。好きなキャラのひとりではあるがそれだけ。魔王について語ったのは気まぐれなのだろう。もし魔王が彼女の推しだったならば、もう少し弱みになりような情報も握れていたというのに、まあ現実はそう上手くはいかない。魔王の持つ読心能力を知れたことは万々歳だったが。


 それでも何故か、わたしに対してはその能力が効かないらしい。これが転生特典?

 読心能力の対象に取れないことは、わたしにとってはアドバンテージだ。転生しました、前世の記憶がバッチリです、この世界のことを少しだけ知ってます。なんて、読まれようものならなにをされたかわかったものではない。そういう意味ではありがたいが。

 けれど同時にディスアドも生みました、おかげで現在進行形で困っています、ありがとうございました。

 などという嘆きは置いておいて、唯一心を読めない存在であるわたしを、彼はなにかと隣に置きたがり、それはもう存分に構われてきた。

 独りを好んでいるはずなのに、わたしを連れ回すし、この世界でのわたしの両親に気に入られてあれやこれやと外堀を埋めてくるし(心が読めるということは人心掌握も容易いということだ)、わたしが少し年上の好みのお兄さんに惹かれようものなら、そのお兄さんに恋人ができるよう立ち回ったりして本当に大変だった。

 おまけに心が読めるおかげで奴の性の目覚めは人一倍早かったらしく、貞操の危機を幾度も乗り越えたりしながらも二十年。


 開拓に邪魔だからとニコニコ笑顔を浮かべてやってきた商人に村の大人たちは騙され金や食糧といった財産の悉くを搾り取られ、挙げ句の果てに村を焼かれるなど、彼が魔王に至る諸々のエピソードを超えて、気付けばわたしは魔王の城で暮らしていた。

 村で生き残ったのはわたしと魔王だけだ。帰る家もなければ新しい生活をする当てもない。成人年齢を超えた大人としてはしっかり働くことも考えたのだが、行動から察せられて、事前に阻止された。わたしの幼なじみはなんというやつだろう。そんなに傍に置いておきたいのか。



 重厚な肉の旨みを堪能しながら、そっと眼前の男の顔へ目を向ける。

 今日も顔が整っていてなによりだ。……じゃなくて。

 彼がわたしを傍に置きたがるのは、きっとわたしの心が読めないからだ。

 怖いだろう、心の読めない相手というものは。疑心の強い魔王にとって、わたしは天敵とも言える。だからわたしに、好きになってもらおうとした。そうすれば裏切られたり、殺されたりしないという保証が一応はできるから。

 だからこそわたしは彼を恐れている。彼は魔王だ。気に入らないやつを簡単に消せる力は持っている。もし疑われたりなんかしてみろ、殺されるに決まってる。

 こちらは二度目の生、前世の終わり方があっけなかった以上、そう簡単に終わらせるわけにはいかないのだ。

 彼のアメジストの瞳と視線が合わさる。男のくせに睫毛が長いので、毟ってやりたくなる(もちろんそんなことはできないが!)。


 わたしはこの世界で起こる出来事を少ししか知らない。物語がどう動くのか、そしてその結末も(ついでに言えば前世で死んだ時点での物語は未完だった)。

 とするならば、わたし自身のハッピーエンドを定義しなければならない。ハッピー……とまでは行かなくとも、老後まで生きること。それがわたしの定義する最良の終わり方。

 いつまでも殺されるかわからない生活を続けていたくない。


「ここの生活はどうだ?」

「働かなくていいので楽です。働くべきなんでしょうけど」

「フ。いつまでもここにいればいい。堕落もそう悪いものではない」


 ――他人の心が読めたら良いのになあ!


 心の中でそんな叫びを上げる。そもそもこの男、堕落といったものを好んではいないと思うのだが一体何故? やはり心を読むしかないのか。

 そうすれば彼の意図や想いもわかるし、それに沿った行動も取れる。

 いやしかし肉美味しいな。


 もぐもぐと口を動かすわたしを、魔王はじっと見つめている。

 心が読めたらいいのに。魔王も同じ想いを抱えていることを、この時点のわたしは知らない。ついでに思った以上に愛されていることも。


 そんなことも知らず、わたしは今日も明日も明後日も、魔王の機嫌を窺いながらの胃痛生活を送るのだ。

 

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