休日の出来事
ダチとつるんでやってきたのは結構な人気スポットの海だ。だけど今はほとんど人はいない。シーズンじゃないから。
男ばかり10人の大所帯で車3台でやってきたのはサーフィンをする為だった。
波はそこそこある。
のるにはうってつけの条件だった。
「さっ、やろうぜ。」
「ああ、そうだな。着替えができた奴らからでいいか?」
「さーんせーい!っついうか、負けねーよ。」
「ザーンなんでした。ほら、下に水着着てるんだわな〜。」「きったねーぞ!最初からそのつもりだったんだろ!」
「まぁな。まっ、そんな事はどうでもいいけど早い者勝ちな。」
「きったねーぞ!負けられっか!」
俺はその場でさっさと水着に着替え、サーフボードを手に海に向かった。先には何人かも海に入っている。いっちばんいい波にのるのは自分だとボードに乗って沖に向かった。風は程よくふいている。波もそこそこだ。コレならのれるとふんだのでボードの上に立った。気持ちの良い風がふいている。
うまく波に乗れた俺は気持ちがよかった。
その時なんだが、なんか見た気がした。
海の中に…。何を?
ボードの上に寝そべり海をのぞく。
不気味にニヤリと笑う老婆の顔が見えた。
見た瞬間にその顔はドロドロに溶けて消えていった。一体何だったんだ?分からない。
でもさ、不気味じゃね?
そもそもがここ人が来ないから泳いでいい場所なんか?あたりを見回したが看板らしきものは見当たらなかった。と言うか、倒れて草むらにうもれてて俺らのとこからは見つけることはできなかった。
そしたらさ、仲間の一人が見つけたんだよ。遊泳禁止の立て札を。
何人かは波にのっててワイワイ騒いでいる。
見つけた奴はみんなに叫んだ!
「ここ、ヤバイよ!みんな…戻ってこいよ!」
「なんだよ。せっかく面白くなってきたとこだったのにさ。」
「ちょい待てよ、ヤバイよここ。ネットで調べたら昔ここで溺れ死んだ人間がいたらしいよ。しかも一人じゃないらしい。だからこの看板が立ててあったんだよ。誰かが倒したらしいけどさ、ちゃんと戻しとけって…なぁ?」
「どうする?帰るか?」
「しかないだろ?それとももっと人がいるところにでも行くか?」
「え〜、面倒くせ〜。帰ろうぜ!服着替えちまったしさ。また濡れた水着着るの面倒だし気持ちわりーしさ。」
「しゃあない、帰るか。出してたもの片付けて帰ろうぜ。」
ちゃっちゃと片付けて車に乗り込んだ。
飲み物もまだたくさんあったから運転手以外はみんなアルコールに手をつけていた。
「お前らだけずり〜。運転できるの一人だけになっちまったじゃんか。交代できんじゃん。」ブツブツと文句を言いながらも車を走らせる。
途中トンネルがあったので順番に入る。
真っ暗な中薄暗いランプのみ。
車の中はどんちゃん騒ぎになっていた。もううるさいったらありゃしない。
その時だ。先頭を走っていた車が急に止まった。トンネルの丁度ど真ん中辺りか?
「どうした?何があったか?」
「あ、あれ…。」
先頭車の運転手が指差した方に誰かが立っている様に見えた。薄暗くて分かりにくいのだが。
車のライトをあてたらそこに立っていたのは年老いた老婆だった。腰も曲がっているようだ。だが不気味だと思ったのには理由がある。その老婆、全身がずぶ濡れだったのだ。そう、まるでさっきまで水の中にいた様な感じだった。俺はその時ふと思い出していた。
さっきの遊泳禁止のエリアで出た謎の不気味な顔が…似ている気がした。
車から数人がおり、仲間同士でくっちゃべっている。
「何だ?あのババア。全身ずぶ濡れでやんの。何で濡れたままなんだよ。」
「あ、あのさ、さっき俺がみた水の中に映ってた顔とおんなじなんだよ。ヤバイって。」
「ハァ??んな話聞いてねーし。っつうかマジ?それ幽霊じゃねぇ?ホンモン?」
「そんなこといいから逃げようよ。ヤバイって。」
そんなこんなで話をしていたらどこからか風が吹いてきた。トンネルのちょうど中心だから風なんか入ってこないはず。その場に緊張が走る。
少し目を話した隙に老婆は近づいてきていた。
一人が叫ぶと連鎖的に叫び始め、悲鳴が響いた。
慌てて車に乗り込む俺らは老婆から逃げる様にバックでトンネル内を抜け出そうとする。だけどどれだけバックしても出口につかない。
泣きそうになってる奴もいる。
俺も泣きたいよ。でも笑われるかもとグッと堪えた。
三台が一斉にトンネルを抜けたのは時間にして1時間ほどだ。
フロントガラスには至る所に手跡がついていた。
それは三台ともおんなじだ。
バックをしている間振り向いて前を向くことができなかったそれぞれの運転手は震える手をもう一方の手で押さえて何とか過ぎ去ることができた。
あたりは暗くなっていた。その為一台ずつゆうターンしてその場を離れた。
そのトンネル、今もなお同じ現象が続いているのだろうか?
俺たちが行かなくなって5年経つ。