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56話 凡人皇太子、童貞美少女の策略にハマり恥ずかしい話を暴露する


 アレだけ煽ってきたロレッタがいの一番に敗北し、恥ずかしいエピソードを惜しげもなく披露したその理由にハルトが気付いたのは、二回目のゲームでハルトが敗北した瞬間のことだった。


「……!」


 悠々トップを奪い取り、優雅に紅茶をすするブルゴーニュ嬢。敗北を辛うじて躱しほっと胸を撫でおろすアルフィー。そしてニヤ、と意地の悪い笑みを向けてくるロレッタ。


 三者三様の対応を前にしながら、ハルトはだらだらの冷や汗を垂らしていた。罰ゲームの恥ずかしい話。ブルゴーニュ嬢の帰郷の道の余興。そんな些細なもので、どうしてここまで追い込まれているのか。


 ―――話を整理しよう。


 冒頭で述べた通り、この大富豪の最初の敗者はロレッタだった。


「フフッ。これに懲りたら、余り見境なく調子に乗るのはやめておくことね」


「あはは。残念だったね、ロレッタ。次は勝てると良いね」


 勝ち誇るブルゴーニュ嬢に続き、慰めつつも嬉しそうなアルフィー。そこににじむのは、勝者の優越感に加え、煽ってきた相手を打ちのめした、という爽快感もだろうか。


「おいおい、アレだけ煽っといてこれか?」


 ハルトもその例に漏れず、ロレッタを煽り返しては優越感に浸っていた。だが、肝心のロレッタはというと、さほど悔しそうでもなく、いまだどこか余裕のある面持ちでこう言った。


「あらら、負けてしまいました。悔しいところですが、私が提案したルールです。まず私から、恥ずかしいエピソードを述べさせていただきますね」


 ニッコリ微笑んでのその言葉に、ブルゴーニュ嬢は「随分余裕ね? つまらなかったら承知しないわよ」と挑発し、アルフィーは「まぁまぁ……。ロレッタも女の子なんだし、ほどほどのでいいからね」と諫め、ハルトは足を組んで、お手並み拝見だ、とニヤリ笑った。


 ロレッタの話は、初っ端から結構攻めたものだった。


「私、故郷で狩りをしていた時、家の近くの凍った川に落ちちゃったことがあったんですよ」


 過酷な導入だな、とハルトが口をへの字に曲げているのを横目に、ロレッタは続ける。


「で、その時私ひとりでの狩りで、近くだからって装備が結構簡単なものだったんですよ。だから誰かに助けを求めることも出来なかったんですね」


「そ、そう……」


 ブルゴーニュ嬢は困惑気味に相槌を打った。アルフィーは固唾をのんで話を聞いている。


「それで、ひとまず自力で川から脱出したんですけど、まー寒い寒い。っていうのは、濡れた服って体温をガンガン奪っていくので、基本的に服を全部乾いたのに変えないと、数時間で死に至ると言われてるんですね」


 でも、どうしようもないじゃないですか。とロレッタは言う。


「替えの服なんてないんですよ。そんな大した狩りの予定じゃなかったので、持ち物なんてそれこそ服だけです。で、肝心のその服がビショビショで」


「そ、それで、どうしたの……?」


 アルフィーの緊張の満ちた問いを受けて、ロレッタはあっけらかんと答えた。


「命には代えられないので、全裸で帰りました」


「ぶっ」


 ハルト、思わず吹き出してしまい、隣の席に座るロレッタを凝視した。ブルゴーニュ嬢もアルフィーも、信じられない顔で見つめている。


「いやー、アレは本当に恥ずかしかったですね……。っていうかただただ必死でした。時期的には今頃なので、フロストバード領とはいえまだ温かい時期なんですが、それでも氷点下行く行かないくらいの気温ですからね。全裸で屋敷に駆け込んで、家族とか使用人に保護されて、体を温かくしてもらって、そこでさすがの私も恥ずかしさに赤面しました」


 いやーあれは、思い出すだに恥ずかしい……。と〆るロレッタ。思った以上のエピソードを聞いて、むしろ中々やるなぁとロレッタへの評価が少し上がったハルトだ。


 が、一変。今である。つまりは、次のゲームで恥ずかしいエピソードを語る手番が回ってきた、ハルトの今の今だ。


「……」


 敗北者として、二番目に当たる今である。ハルトもバカではない。勝負に乗ってしまった以上、後悔しつつも、対策は打っていた。つまり、万が一敗北してしまった場合に、恥ずかしいがそれほどでもない、ギリギリセーフなエピソードというものは考えていた。


 考えていたのだが、どういう訳か、今それを話すことを躊躇する自分がいることに驚いたのだ。


「……その、だな……」


「どうしました? 早く話してくださいよ~」


 状況が入れ替わってニヤニヤと急かしてくるロレッタに、ハルトは難しい顔。それから何故このエピソード話したくない、話せないのか、と考えて、気付いた。


 あ、ロレッタのエピソードが強すぎたから、パンチの弱い話を出せないのか、と。


「―――――――……!」


 そして、やっとそこで、理解するのだ。ああ、そうだ、その通りだ、と。あのロレッタが、“ただ転ぶわけがない”と。


 むしろ、転んだのだ。最初に転んで見せて、『これが最低限の転び方ですよ』と模範を示したのだ。そして今、ハルトはその術中に見事にハマっている。


「……ロレッタ」


「何ですかハルト?」


 にんまり笑うロレッタに、ハルトは「お前の勝ちだ」とぼそり呟いた。それから深呼吸し、エピソードを語り出す。


「これは確か二年前、人生初のドラゴン退治の時の話だ」


「導入が格好いい!」


 アルフィーが目を輝かせるのをハルトは煤けた笑みで受け止めて、語りを続けた。


「当時俺は、とある女の子の病を癒すために、薬の原材料となるドラゴンの肝を求める冒険に出てたんだ。すげぇ危険地帯でな、右を見ればマンティコア、左を見ればヒポグリフと神話級の幻獣がわんさか出てくるような山だった」


「えっと……アレクトロ? これ、恥ずかしい話なのよね?」


「ああ、そうだ。まぁひとまず聞いててくれ、ブルゴーニュ嬢」


 訝しげに眉を顰めるブルゴーニュ嬢をハルトは宥めつつ、話を続ける。


「それでな、色々と過酷な旅路だったんだが、途中までは何とかなったんだ。心強い仲間も居たし、死ぬことはないだろう、と思ってた。だが途中、崖の滑落で俺は仲間とはぐれたんだ」


「あのー、ハルト。これ冒険譚のパートじゃないですよ? 恥ずかしい話のパートですよ?」


「いいから黙って聞け」


「ハルト何か私に対して当たり強くないですか?」


「そんなことない」


 少し雑なだけだ。


「それで、一気に俺は命の危機に直面するような状況下に置かれたわけだ。高まる緊張。周囲に感じる怪物たちの息遣い。―――そして限界に向かう尿意!」


「あっ」


 アルフィーが察した。ブルゴーニュ嬢は口元を隠しつつそっぽを向いて肩を震わせはじめ、ロレッタは大仰に口を押えて「Oh……」と言う。何だその反応。


「仲間がいる内は、見張りを交代制にして排泄も可能だったんだ。だが、一人になるや否や、そんな些事にかまけてたらいつ襲われて死んでもおかしくなかった。だから俺は尿意を我慢して走った! 何故なら俺は弱い。仲間と合流できなければ死ぬ!」


「そ、それで……?」とアルフィー。


「そして辛くも無事、頂上付近で俺は仲間と合流することが出来た。安心したよ。ほっと胸を撫でおろした。これでやっと心置きなく、まぁ、いわゆるお花摘みが出来る! そう思った瞬間だった」


「まさか……」とブルゴーニュ嬢。ハルトは頷いた。


「そう。追い求めてたドラゴンが現れたんだ」


「あちゃー」とロレッタ。あちゃーじゃない。


「いやぁ、すげぇよドラゴンってのはさ。その存在そのものの恐ろしさっつーか、いっそのこと神々しいとすら思ったね。何せそれが人生初めてのドラゴンだ。蛇ににらまれた蛙じゃないが、その瞬間何もできなかった」


 一拍おいて、ハルトは言った。


「……尿意の我慢すらも」


「はい。ハルトヴィン殿下による恥ずかしいエピソードでした~。皆様、盛大な拍手をお願いします」


「ロレッタ。慎みなさい」


「いや、むしろここで〆てくれて助かる。〆られなかったら具体的な描写が始まるところだった」


「そこまでいったらボクも恥ずかしすぎて聞いてられないよ……」


 語り終えてハルトは静かに両手で顔を覆った。ポン、と右肩を叩かれたので見ると、ご満悦です、と言わんばかりの笑みを浮かべたロレッタが「いやー大変貴重な話でしたね~」とニマニマしている。


「な……なんて言うか、災難だったね……」


「アルフィー、慰めありがとよ……。だが、あんまり対岸の火事と思わない方がいいぞ。ブルゴーニュ嬢もな」


「「?」」


 ブリタニア王家筋二人は、揃って首を傾げた。それにハルトは息を吐いて、ロレッタの仕掛けた罠について教えてやる。


「ロレッタの全裸疾走に、俺のドラゴン失禁事件と来てるんだ。次負けたら、どんなレベルの恥ずかしい話を要求されるか……」


「―――――ッ」


「え、あ、そっか。うわ。……え、がんばろ」


 ブルゴーニュ嬢は総毛立ちながら顔を蒼白にし、アルフィーは目をパチクリしつつも固く決心したのが分かった。さてロレッタは、と見れば、すでに鼻歌を歌うなど上機嫌を隠そうともせずに、カードの分配を始めている。


「さ、次と行きましょう皆さん」


 配り終えたロレッタは、素早く自分のカードを手に取り、手札の整理を始めた。ハルトも我先にと手札を取り、その内容と睨めっこだ。


「ふ、ふん! 大した事ないわ。だ、だって、かっ、かかかか、勝てばいいんでしょう? 勝てば!」


「気丈にふるまうフラン様可愛い……」


「フラン、声に動揺が出てるよ」


「二人ともうるさいわよ!」


 ブルゴーニュ嬢に一蹴されて嬉しそうなロレッタに、苦笑するアルフィー。ともあれ、四人それぞれの手にカードが渡った。それから大富豪のブルゴーニュ嬢にハルトはジョーカーとクローバーの2を渡し、お返しに5を二枚渡される。


 あ、これで革命できるじゃん。


「さて、カード交換も行われたことですし……大貧民のハルトから時計回りで行きましょうか」


 ロレッタの言葉にそれぞれ頷く。つまりは、ハルト、ロレッタ、ブルゴーニュ嬢、アルフィーの順番だ。どうしたものかな、と首をひねりつつ、ハルトは次の勝負で、少なくとも敗北だけは避ける意気込みで挑む。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] その山何百年か前は古龍の縄張りだったりしてません…?
[一言] 更新求む!
[気になる点] ハルト、ハーレムの女の子にはなんて言われてるんだ……? [一言] ロレッタ賢い!策士! アルフィーの恥ずかしい話って客観的に見るとそうでもないようなやつしかなさそう(ド偏見)
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