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33話 童顔王子、凡人皇太子と兄を引き合わせる

♠♤♠♤♠♤♠♤♠♤♠♤♠♤♠♤♠♤♠♤




 アルフィーは一人、森の中で剣を振るっていた。


「やぁっ」


 今やっているのは、ゴルゴンの石化能力に対するカウンターの練習だった。まだまだ未熟なアルフィーは、こういった魔獣による魔術への対応がへたくそなので、訓練する必要があったのだ。


 今日五十体を数えた討伐済み魔獣の中で、ゴルゴンは今戦っているのを倒せば二十体目になる。首が体の半分も占める、歪な一つ目の牛。奴は視界を問答無用で石に変える石化魔術を使ってくる。


 以前フランが迷い込んだ時は息をひそめるしかなかったという、この森に最も多く生息する魔獣だ。視界干渉型の魔術は対処が難しいため、まだまだ未熟なアルフィーは自主的な特訓に勤しんでいるのだった。


「やっぱり魔術って強いなぁ。神に敵対して得た力だから、羨ましいとは思わないけど」


 神への賛美歌を歌いながら、石化されてしまった足を剣でなぞる。そうすることで石化が解除されるので、巨大な角で突進してきたゴルゴンの勢いを剣で受け止め、反転と共に頸動脈を掻き切った。アルフィーは宙で一回転しながらゴルゴンの背後に着地し、言う。


「本当に、魔獣に知性がなくて助かったよ。頭が良かったら、ボクなんかひとたまりもないからね」


 今日はこんなものかな。と周囲の屍の山を眺めてから、アルフィーは結界破りの詠唱を剣に込める。これが一番つらいのだ。ごっそり体力が持っていかれる感覚に耐えつつ、アルフィーは剣を振り上げ、降ろす。


 そうすることで、結界が破れ出入り口が現れる。よろよろと、アルフィーはそこをくぐった。途端、ゆっくりと出入り口は閉じていき、そして消える。


 魔獣の息遣いに満ちた森の気配が霧散していく。残るのは、疲労困憊のアルフィーといつも通り静かな訓練場だけだ。


 荒い息を吐き、壁にもたれながら、ゴルゴンの石化への対策方法を考える。魔術。人間の魔法とは違う、神と敵対した魔族や魔獣たちのみが使う、原理不明な異能。


 アレを反撃に使えたら、とアルフィーはずっと考えている。視界に入ったものすべてを石に変える、という能力は非常に不可解だが、視界を遮れば見られなかった部分は石にならない以上、攻撃に方向性がある。問題は、それをどう受け、どう返すか。


 そこまで考えて、ふとロレッタの意見がききたくなる。最近になって出来た親友。彼女の自由奔放な考え方は、しかしそれ故にいつも本質を捉えていた。


 だが、最近はほとんど会えていない。フランの社交界的なそれこれと話には聞いているが、納得したわけじゃない。


「……寂しいなぁ」


 少し拗ねるような気持になる。そういえばフランは、最近ハルト君ともお茶会で少し話したという。羨ましい。そしてそれらを苦労話のように話すのだから、妬ましい。


「ボクだけ仲間外れじゃないか。ひどいや」


 頬を膨らませて、アルフィーはボヤいた。それから、一つ溜息を。


「ボクにも何かできないかなぁ」


 フランとは婚約者だが、こういうときは意図してアルフィーを遠ざける。そして全てが終わった後に愚痴を撒き散らすのを、アルフィーが優しく受け止めるのが通例だ。つまり、手伝いや手出しをさせてくれない。それが何とも歯がゆいのだ。


 アルフィーだって、力になりたい気持ちはあるというのに。


 そんなことを考えていると、ふいに影が現れた。目をやると、近衛の連絡係だ。基本的にアルフィーは傍付きを嫌う性質なので、せめて隠れた者だけでもと父に説き伏せられて納得した者たち。


「アルフィー殿下。第一王子、エセルバート様よりお手紙を預かってまいりました」


「……兄さんから、ね。分かった、ちょうだい」


 差し出される手紙を受け取って封蝋を解くと、『久々に会って話さないか?』という内容だった。アルフィーは眉をひそめてから「兄さんはいつ会いたいって?」と尋ねる。


「本日、訓練が終わり次第来てほしい、とのことでした。如何なされますか」


「行くよ。来いって言われたからには、断る理由もないしね」


 とはいえ、さしたる内容がある訳ではないだろう。兄弟で頻繁に会う訳でもないからか、兄はこうして定期的に会う機会を求める。そこで近況などを話すが、基本的には兄が倒すくらいだ。


 何せアルフィーは、基本的に誇るようなことも喜ばしいこともなかったから。


 だが、これは前回までの話だ。


「今回は珍しく渋られないのですね」


 近衛に言われ、アルフィー少し得意げになる。


「まぁね、今回は話すことがいっぱいあるから」




♠♤♠♤♠♤♠♤♠♤♠♤♠♤♠♤♠♤♠♤




 兄であるエセルバートは、何か特別な用事がない限り、放課後は常に生徒会室に居る。


 生徒会とは、この学園においては教師以上の強権を持った自治機関だ。もっとも権威ある生徒と、その生徒たちが選んだ優秀な生徒によって構成される。


 今代においては兄であり、そして兄が選んだ生徒たち、という事になる。フランと似たような立場だがちょっと怖いヴァネッサや、軍部の一番偉い人の息子でアルフィーに妙に優しいヘクターなどが有名だ。正直あんまり近寄りたい場所ではない。


 だが、それが分からない兄ではないから、アルフィーが行くときは大抵人払いをしておいてくれる。その点だけは信用していた。あれだけちゃらんぽらんな人でも、誰かの嫌がるようなことを進んで行ったりはしない。


 そう。兄はちゃらんぽらんなのだ。そうでなければアルフィーだって安心して次期の王として安心してブリタニアを任せられる。だがそうだったから、アルフィーは遺憾ながら王を目指して邁進しなければならないでいた。


 だから、その意味で、兄とアルフィーの関係は複雑なのだった。人として、兄としての兄は嫌いじゃない。だが、王としては認められない。だから誘いは断らないが、思わず眉をひそめてしまう自分が居る。


 そんなことを考えながら、生徒会室のある廊下を歩いていると、ここ最近出会った人物が、物陰に隠れてじっとモノを考えていた。アルフィーはパッと顔色を明るくして、話しかける。


「ハルト君! こんなところでどうしたの?」


「うぉっ、アルフィーか。お前いつも突然現れるよな」


「ふふ、ハルト君の居るところにボク在りってね」


「どういう気持ちでそれ言ってんだ」


 ちょっとふざけたことを言うと、ハルト君は反応よく返してくれるから楽しい。そんな風にアルフィーは頬を緩めながら、「ちょっと兄さんに呼ばれてね。ハルト君は?」と問い返す。


「俺は……いや待て、アルフィー今お前、兄に呼ばれたって言ったか?」


「え、うん。言ったよ」


「じゃあ悪いんだが、俺を紹介してもらえないか?」


 アルフィーはその提案に、目をパチクリとさせる。それから少し考えて、確認を。


「ハルト君の本当の名前を明かす形で会いたいの? それとも、あくまで『ハルト・アレクトロ』として?」


「後者だ。すでに抱えてる問題の解決のために、他の問題の火種抱えるのはご免だからな」


 その答えを受けて、アルフィーは唸ってしまう。ハルト君も難しそうな顔になって「エセルバート殿下は耳に覚えのない伯爵家とは会いたがらないか?」と聞いてきた。


「それも、ある、かなぁ。どうだろう。兄さんは気まぐれな人だから、その辺りの判断が難しいんだよね。侯爵家でも興味ないときは全く相手にしないし」


 そうなのだ。兄は根本的に、人間に興味がない。唯一の例外が家族と生徒会の面々だが、他には基本的に有象無象だと本気で思い込んでいる。だからアルフィーが紹介したところで、何処まで反応してもらえるかは分からないのだ。


 念のためアルフィーが「元の名前なら無視することは絶対にできないだろうけど」、と付け加えると、ハルト君は視線を明後日の方向へやった。


「まぁ、それはそうだろうが」


 何とも複雑そう、というか多少納得のいかなそうな感情を滲ませて、ハルト君は頭を掻いた。フランも言っていた事だが、本当に皇族らしくないと思う。以前父、ブリタニア王に連れられアレクサンドル大帝国に赴いたとき、自らの出自を誇らない皇族は居なかった。


 それが当然だと思う。しかも、皇帝陛下は無論、その息子娘たちの全員が目覚ましい記録を有しているのだ。誇りであるし、それに釣り合う己だとも思っているのだろう。


 だからこそ、ハルト君の態度はひどく不可解なものだった。皇太子で、十二人の婚約者の誰もがやんごとなき血の傑物で、あらゆる人が知る現代で一番の若き英雄である彼が、皇族の誰よりも自らを過小評価している。


 “こんな見るからに何の才能のない人が、多くの分野で天才の領域に足を踏み入れていることが、異常でない訳がないのに”。


 そこまで考え、アルフィーは首を振った。そんな失礼なことを考えてしまってはダメだ、と自戒する。アルフィーがそう判断しただけで、この感想に何の根拠もないのだから。


「だけどその、何だ。ひとまず、紹介するだけでもしてくれると助かる。その後はどう転ぶも俺次第というか、アルフィーが苦労するようには運ばないから、何とか頼めないか?」


 言われ、アルフィーは僅かに考えて首肯した。


「いいよ。というか、ボクを巻き込んでくれたって構わないくらいだよ!」


「いやそれは悪い」


 ハルト君は、渋い顔で拒否の構えだ。アルフィーはしゅんとしてしまうが、それでも頼られたことは嬉しいので、ひとまず頷いて返した。


「じゃあ、ついておいでよ。ボクの後ろについてくれば、兄さんもそこまで嫌な顔はしないだろうから」


 言って歩き出す。「恩に着るぜ。今度何か困ったら俺に言ってくれ。力になる」とハルト君はにっかり笑った。仏頂面ばかりが印象的だったから、こんな顔も出来るんだなぁなんてことを思う。


「じゃあ、ひとまず兄さんに紹介したい人が居るって伝えるから、ちょっと待っててね」


「おう。……何か含みがあるように聞こえるのは気のせいだよな?」


 生徒会室の扉を開けると、奥でソファに深く腰かけながらぼんやり窓の外を眺める姿が見えた。アルフィーは少し息を吐いて、「偶にはお仕事しないとダメだよ、また他の人に仕事を投げてるんでしょ」と声をかける。


「……ん、ああ。アルフィーじゃないか。よく来たね、ひとまずそこに座り給えよ」


 どこか虚ろな声で、彼は答えた。アルフィーと同じ金髪を、オールバックに流した凛々しい顔つき。この顔を見るたびに、女々しい自分とは違う、という劣等感を抱く。何事もそつなくこなす天才。ブリタニア第一王子、エセルバート・エリウ・ブリタニア。


「言う割に、こっちを見もしないんだから嫌になるよ」


 文句を聞こえるように零しつつ、アルフィーは近くの横長のソファに腰かけた。それから、沈黙が広がる。兄は何故かそれ以上何を言うでもなく、窓を見つめていた。まるで、見ているべき何かがあるような目つきで。


 アルフィーは息を吐く。呼びつけたくせに自分からは何も話さないとなれば、アルフィーが話すしかないだろう。率直に、聞きたいことを質問した。


「久しぶり。何だか元気ないね。どうしたの?」


「何、元気がないというのではなく、ちょっと慣れないものでね。ま、この話はさておこう。今年度前に少しあったくらいか。アルフィーはその後変わりないかい?」


 我が兄のことながら、少し感心してしまう。何せ、会話を始めながらこちらに見向きもしない。その態度はお手本のような王族のそれだ。超然としていて、常人には推し量ることが難しい。


 そんな感想を抱くのは、アルフィーが常人にすぎないからか。


「ううん、最近色々騒ぎがあって楽しかったよ。新しく友達も出来たしね」


「数少ない稀有な友人たちも帝学院に行ってしまったアルフィーに、新しい友達が、か。それはそれは、とても喜ばしいことだね。その友情が長続きすることを祈っているよ」


 皮肉なのか純粋に喜んでいるのか分からない返答に、アルフィーはむっとして口を閉ざす。この、遥か高みから見下ろしてくるような会話が、アルフィーは嫌いだった。昔はこうではなかったのに、と息を吐く。


 何でも簡単にこなしてしまう兄からすれば、アルフィーの努力などどうでもいいことなのだろう。その上魔眼などという珍しい資質を持っているのだから、天は二物を与えすぎではないか、と訝しんでしまう。


 そんな様子でいまだに一瞥もくれない兄に、アルフィーは珍しく嫌みを言った。


「その様子だと、『運命の魔眼』は今日も好調みたいだね。どんな運命の形が見えているかは知らないけど」


「ああ、春学期以来ずっとこの調子さ。もう魔眼が発動する疼痛にも慣れてしまった。……アルフィー、人が抱える運命の話を前にしたのを、覚えているかい」


 問われて、「あれだけ繰り返されれば、忘れるほうが難しいよ」と返す。


「凡人ならば爪の先、天才ならば拳大、英雄ならば人の大きさほど、だよね」


「よく覚えているね。人はその人生に相応しい運命を体に宿している。だからこそ、私はずっと恐れているんだよ。“これ”が誰のものなのか、そしてどのように作用して世に影響をもたらすのか、とね」


 兄の言葉は何を指しているのか分からず、アルフィーは辟易するばかりだ。とはいえ、兄弟二人で中身のない話をしていても仕方がない。「あのさ」とアルフィーはハルト君のことを切り出す。


「兄さんに、ちょっと紹介したい人が居るんだ。今話した友達の一人なんだけど、兄さんに用事があるって話で」


「……ほう、そこまで仲がいいとは思っていなかったな。いいよ、通してくれ。是非会ってみたい」


 そこで初めて兄は上体を起こし、アルフィーを見た。本当に分からない人だなぁと思いながら、ハルト君を呼ぶ。


 扉から姿を現したのは、先ほどのコソコソとした彼ではなく、胸を張って泰然とした彼だった。この変わり身の早さは、純粋に感心してしまう。


「ハルト・アレクトロです。以後お見知りおきを」


 臣下の礼を払うハルト君に兄は「ああ、こちらからも是非よろしく」と挨拶を。しかしその途中で、ぴた、と止まって「ん、んん、ん……?」と微妙な顔つきになる。


 それから、一言。


「君、もしかして死者だったりしないか?」


「……はい?」


 兄エセルバートの質問があまりに意味不明で、ハルト君困惑である。


 アルフィーはギョッとして、「に、兄さん、流石に失礼すぎるよそれ。どういうことか分かるように説明して」と身内の恥を挽回すべく話を促す。


「アルフィー、黙っていてくれ。これは重大な問題だぞ。正直言って意味が分からない」


 こっちの台詞だよ、とアルフィーは兄の理不尽な言い分にむくれる。どういうことなのだろう。兄にさえ意味が分からないならこっちに分かる訳があるまいに。


 と、そこで兄は何かに勘づいたのか、窓に外にバッと目を向け、僅かに凝視し、それから激しく動揺した様子で「も、もももも、もしかして、あれ、……君かい?」と尋ねる。ハルト君も訳が分からないらしく、瞠目して細かくフルフルと首を振っている。


「……なるほど、まぁいいだろう。うん。そうしよう。そういうことにしよう。私には手が負えない」


 じゃあ誰の手に負えるのだろう、この兄の奇行は。


「それで、君は何の用で私を訪ねたのかな?」


 気を取り直したのか、兄にしてはかなり愛想よくハルト君を歓迎した。兄の微妙に強張ったニコニコ顔に、少なくとも敵意や反感はないと察したのだろう。ハルト君は「その」と話を切り出す。


「特に用事、という事はないのですが、せっかく第二王子とこうして友人関係になることが出来たので、是非多才だと噂の第一王子殿下に顔を覚えていただきたいな、と」


「なるほど、なるほど。じゃあ君生徒会に入るかい?」


「えっ」


「ちょっと待って兄さん。いや、別に悪い提案ではないと思うんだけど、兄さんってそういう人だっけ? 他人に興味ない人じゃなかったっけ?」


 家族であるアルフィー以上に親しげに接していく兄に、アルフィーはちょっとついていけない気持ちで尋ねた。ハルト君もそこまでは想定していない、という顔で凍り付いている。


「ダメかい?」


 なのに兄はすっとぼけて打診を続けていた。アルフィーは何だか疲れて、大きくため息を吐き「そもそも、ヴァネッサとかヘクターが反対するでしょ」と言う。


「ん、それもそうだね。なら、大義名分を用意すればいい。君は制服を見る限り魔法特進クラスのようだね。ならヘクターに気に居られるような立ち回りがいいだろう。となると」


 少し兄は考え始める。その間に小声でハルト君が「……アルフィー、ヘクターって?」と尋ねてきたので、「ヘクター・ヴァノン。兄さんと仲良しの、軍部の元帥の息子だよ。生徒会の一員でもある」と答える。


 そこで、兄が口を開いた。


「そうだ。そろそろ魔法特進クラスで、ヘクターが主導して迷宮攻めをやる頃だろう? そのとき、誰よりも大きな戦果を持って帰ってきてくれれば、ヘクターは君を気に入るはずさ。彼は強い人間が好きだからね。方法は一任するよ。どうせ出来るだろう?」


 ハルト君、なにそれ、という表情でアルフィーに助けを求めてきた。アルフィーもハルト君ならばできるとは思うが、あまりハルト君を困らせるのは良くない。限りなく小さな囁き声で「ごめんね、ボクも手伝うから」と伝えた後、兄にも聞こえる声で言った。


「ごめんハルト君。兄さんはこういう人なんだ。それに、この生徒会ではそのくらいをやってのけないと多分歓迎もされないと思う」


「……分かった。なら、ちょっとやってみます。ただその、あんまり期待しないでください」


 不承不承といった顔でハルト君が頷くと、兄はニッコリ笑って「分かった、では期待して待っているよ」と言う。ハルト君は苦笑いと共に項垂れ「生徒会入りまで求めてないのにこの流れ……」とアルフィーにしか聞こえないような小さな声でこぼしていた。可哀想。


 それからハルト君は「どうするよこれ……」と頭を抱えて生徒会室を出ていった。残されたのは兄とアルフィーだ。兄は窓の方をしきりに見つめて、じっと何かを考えている。かと思えば質問を投げかけてきた。


 その声色は、ハルト君に向けるものと比べて、はるかに冷静だ。


「アルフィー。彼はどこでどんな風に知り合ったのかな?」


「え、うーん。話すつもりだったけど、いざ話すとなるとどこから話していいか迷っちゃうな」


「ああ、いいんだいいんだ。そういう詳しい話が聞きたいんじゃない。私が気になるのは、どんな状況下で知り合ったのか、という事さ」


 言われ、アルフィーは思い出す。直接顔見知りになったのは、訓練場だ。あそこで、軽く手合わせをしてあしらわれた。


「ちょっと試合して負けちゃったんだ。一目でボクの戦い方見抜いて完封してき」「は!?」


 間髪入れない反応に、アルフィーは目を見開いて兄を見た。だが兄はそれどころではない。目を剥いて僅かに椅子から腰を浮かせ、目に見えて狼狽している。


「……アルフィーが、負けたのか?」


「え、うん。でも別にそんな珍しいことじゃないよね? 試合でボクが負けるのなんて、兄さん、昔はしょっちゅう見てたじゃないか」


「あ、ああ、いや、うん。それはそうなんだが……」


 言いながらまたもや窓の外を見て、「ああ、動いてる。これはもう確定じゃないか」と呟く。アルフィーは眉根をひそめて、「さっきから意味の分からないこと言ってるけど、兄さんには何が見えるのさ」と並んで窓の外を見た。


 見えるのは夕日ばかりだ。山の向こうから赤く赤く、世界を染め上げている。


「世界さ」


 兄は、遠くを見つめながら言った。


「人が抱えるには、大きすぎる運命だ。化け物だね、彼は」


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