1 結婚式 ~愛する人は義姉の夫~
1年前からシリーズで書いてきた、桜井香奈、亮介、齋藤真理の恋物語もこの作品でラストとなります。
今回は、シリーズ通しての中心人物である香奈のお話です。
とうとうこの日が来た。
先輩が、義姉になる日。
細かいことを言えば籍を入れた日からなんだろうけど、あたしの気持ちの上では、今日。
義姉さんが泣きながら親への手紙を読み上げてる。…本当なら、感動でもらい泣きでもするところなんだろうけど、あたしには無理だ。泣いて見せた方がいいんだけど、あたしにはそんな器用なことはできないし。
あたしが結婚するなんて、あり得ないもの。
兄貴じゃない男と結婚なんて…。
そんなことを考えてたら、涙がこぼれた。
「兄貴、 義姉さん、おめでとう」
形は大事だ。あたしはちゃんと2人の結婚を祝福しなきゃいけない。
「ありがとう、香奈。あんたのお陰よ」
「そんなこと、あるよね。お土産、期待してますから」
「次は香奈だな」
「そういう意地悪言う人からは、ご祝儀の2割くらい取り上げたって罰当たらないよね」
「おいおい、そんなに持ってかれたら俺、干上がるんだけど」
「じゃあ、余計なことは言わないことね」
義姉さん──真理先輩は、あたしの高校時代の部活の先輩だ。兄貴と惹かれ合ってるのは知ってたから、2人が大学生の時、仲を取り持ってやった。兄貴を諦めるには、好きな人とうまくいってもらうのが一番だと思ってたから。
あたしの初恋。決して実らない恋。実の兄への想い。どうせ実らないんだから、せめて兄貴には幸せになってほしい、すっぱりと諦めさせてほしいって思いながら。
結局諦めきれなくて死ぬほど後悔したけど、全然知らない人を連れてこられたら、それはそれで落ち込んだだろうし、やっぱりあれが正解だったんだと思う。
あれから8年、26歳になった兄貴と義姉さんは、とうとう結婚した。
当面は共働きでいくらしいけど、いずれ赤ちゃんもできるだろうし、その後どうなるかはわからない。
あたしも兄貴達と同じ大学を出て、市役所に勤めた。1人で生きていくには、経済力は絶対いるから。
大勢の人に祝福されて披露宴は幕を閉じ、あたしはバレー部時代の友人達と二次会に出た。義姉さんは実質的に女子バレー部の中心だったから、当時のバレー部の連中が沢山集まってる。
卒業してからみんなで会う機会なんてほとんどなかったから、ちょうどいいと言えばちょうどいい。
「香奈ってば、先輩の手紙ん時泣いてたよね。
もらい泣き? もしかして、もうすぐだったり?」
見られてたんだ、あれ。まあ、都合がいいと言えばいいけど。
「あの2人、ずっと傍で見てたからね。思うところもあるよ」
「おやおや? はぐらかしたわね?」
「はぐらかしてない。いい話なんかないよ。彼氏いない歴イコール年齢だから」
「なに、香奈ってば、まだ理想は高く~ってやってるわけ?」
「いいじゃない。あたし、まだ24なんだけど」
「そんなこと言ってると、あっという間にアラサーよ」
部活仲間達と中身のない話でわいわいやって、“男に興味のない桜井香奈”を演じる。
24,5にもなると、やっぱりみんなそれなりに恋愛経験があって、あたしみたいに誰とも付き合ったことがないなんてのは、2~3人しかいない。
まあ、逆に言えば2~3人はいるから、悪目立ちもしない。
むしろ既にバツイチな先輩もいたりして、原因究明の名の下に弄られていた。
桜井香奈には、男の影がない。恐らくは免疫もないだろう。それが、あたしに対する周囲の見方だ。そうなるように演じてきた。
職場でも、男とは距離を取っている。飲み会とかでも、決して踏み込ませない。男が隣に座っても社交辞令程度の会話しかしない。
そういう女だと、みんな知っている。
落ちる時はあっさりだろうとか噂されてるのも知っている。
準備は万全に。それが僅かな希望だとしても。チャンスがあったら逃さないために。
この世には、願いを叶えてくれる神も悪魔もいないから、幸せになるには、自分の努力が必要だ。
2話は明日夜10時更新です。