第三話 共同生活
「さて、話は変わりますが。これからどうやって生きていくつもりですか?」
マリは心底心配した様子で聞いてきた。
その顔にはもう涙は流れていない。
気持ちの切り替えが早いこれはマリの長所だと思う。
それが精神的な強さ故なのか、ただ単にアホの子だからなのかは分からないが...。
「さぁ?よく分からないけど、こういうのって大体何とかなるもんじゃないの?」
正はマリが見習いとはいえ神様である事もありかなり楽観的に答えた。
するとマリは少し呆れたような顔つきで
「さっきも思いましたが正さん。何故あなたはそんな呑気というかマイペースなんですか?
一応この世界は戦時中なんですけど。」
マリから厳しい言葉を受けた正は
「何したって死ぬときは死ぬし、人生成るようになるってのが俺の信条だからな。まさか異世界に転移する様な事になるとは思わなかったが。」
と少し嫌味ったらしく返答した。
これにはさすがの見習い神様も強くは言い返せず。
「それは、まぁ、私が悪い面も多かれ少なかれありますけど!」
怒っているのか謝っているのかよく分からない感じになってしまった。
「まぁでもマリの力で俺になんかチート的な能力くれたりするんだろ?」
と正が笑顔でマリの肩をトントンと叩くとマリは不思議そうな顔で
「そんなことできませんよ?」
と言い放った。
驚いた正は瞳孔の開ききった目でマリを見つめながらボソッと
「嘘だよな?」
と問いかけた。
それにマリは真面目な顔で
「マジです」
とだけ答えた。
てっきりマリに何らかの特殊能力を貰えると思っていた正は冷静さを失い、マリの両肩を掴み前後にグラグラと揺らしながら。
「ふざけんなよ、そんじゃ元居た世界と大して変わらねぇじゃねぇか。何も特殊能力なしで異世界転移とか無しだろ。」
と怒りを露わにした。
「いやぁ、だって」と前置きした上でマリは
「神様は基本傍観するのが仕事ですし、この世界の神様は別の人なのでここでは私の神の力は使えませんよ。」
これを聞いた正は、脳内で軽く状況を整理してマリに確認した。
「つまりお前は俺に特殊能力を与えることも出来なければ、神の力も使うこともできないと?」
「ええ、そうです。ついでに言うと神の力を使えない私はこの世界ではただの一般人です。」
終わった。
こんな異世界転生聞いたことがない。
茫然自失している俺の前に、もう気持ちが切り替わったらしいマリが
やわらかい両手で俺の手を包み込みながら一言。
「一緒にこの異世界を生き抜きましょう。」
可愛い笑顔で言われたその言葉は正の異世界生活の始まりを告げる鐘の音だった。