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第二話 救い

とりあえず運転席では話しづらいので場所を移動する事にした。

荷台には精密機器を積んでいたはずなのだが


「積み荷がない...だと...」


荷台の後部にあるリアドアを左右に観音開きにすると。

すっからかんの荷台が露わになった。


「あ~転移の時に変換しきれなかったみたいですね

 なんか物凄い複雑な構造物が入ってたんで

 省いて転移しちゃったんだと思います。」


マリは申し訳なさそうに苦笑いしながら説明した。

続けて


「まぁ、多分あんな物こっちでは使えませんけどね」


と開き直って見せた。


「複雑な構造物...?」


マリの言葉に少し引っかかった正は彼女の言葉を復唱していた。

するとマリは


「えぇ、このトラックの荷台に積んであった複雑な構造物

 あの~薄くて軽くて綺麗な奴です。」


荷台に積んであって、薄くて軽くて綺麗な奴...

正は荷台に積んであった荷物の種類とマリの言葉を照らし合わせ

1つの答えに行きついた。


「【ノートパソコン】か?」


正が答えを口にするとマリは


「そう!それノートパソコン」


と右手の人差し指で『ビシッ』と正を指差した。

最初に会った時からなんとなく思ってはいたが

もしかしてこの見習い神様...アホの子じゃないだろうか。

正がそう思っているとマリはまたも右手の人差し指で『ビシッ』と正を指差しながら。


「あ~、今失礼なこと考えたでしょ。

 私曲がりなりにも神様なんだからね。

 そういうのなんとなく分かるんだから!」


とこれまたアホの子丸出しで言ってきた。

そんな姿を見て正は、この子は正真正銘、真性のアホの子だと悟った。

マリはひとしきり喚き散らした後トラックのリアバンパーに足をかけ荷台へ乗り込んだ。

先にトラックの荷台に乗り込んだマリは振り向きながら柔らかな笑顔で


「はい、どうぞ」


と右手を差し伸べてきた。

普通は逆だろと思いつつ正がその手を握るとゆっくり荷台へ引っ張り上げられた。


「あんがと」

「どういたしまして」


そんないい感じの空気を断ち切るかのようにマリは

胸の前あたりで両手を『パンッ』と音を鳴らし合わせ


「さて、本題に戻りましょうか。」


と言い出した。

そこから小一時間ほどここに飛ばされた理由や原理について教えてもらった。

難しい言葉や知らない単語が大量に出てきたが要約すると。

どうやら俺はマリに救われたらしい。

29歳にもなって童貞、独身、安い給料での長時間労働

極めつけに逆走車と高速出口で正面衝突。

そんな哀れ過ぎる俺を見かねて、基本は傍観するのが役目の神様【マリ】が

俺を助けてくれたらしい。

最初は逆走車を避ける為にトラックの前にワープの入り口、逆走車の後ろに出口を設けるつもりだったらしいのだが

神様見習いのマリに事故までの一瞬でそんな事が出来るはずもなく、出口の指定を誤った結果この異世界に来てしまったという訳。

一連の説明を終えるとマリは深々と頭を下げ


「ほんっっとに、ごめんなさい。私の力不足でこんな事になってしまって...。

 いくら私を恨んでも足りないと思います、私はそれだけの事をしてしまったのですから...。」


さっきまでのアホの子はどこへやら。

そこには儚げで今にも壊れてしまいそうな泣き顔の女の子がいた。

大粒の涙は荷台に敷いてある木製の板に大きな円形のシミをつくっていった。

これには女性経験の浅い正はお手上げで


「顔を上げてください。結果はどうあれマリさんが俺を助けようとしてくれたのは事実です。

 恐らくあのまま行っていれば俺は死んでいたでしょう。それを救ってくれた恩人に感謝こそすれ

 恨む事なんて出来ません。」


その言葉が耳に届いたのかマリは泣き腫らした顔を上げ


「でも、もうあの世界には戻れないんですよ?」


と残酷な現実を突きつけてきた。

しかし正は


「別にいいんです、戻れなくても。どうせ待ってくれてる彼女も家族もいませんから。

 それに、俺は正直あの世界に飽き飽きしてたんです。

 代わり映えの無い日々。届け先には理不尽にキレられ、どれだけ働いても給料は一定以上増えず、

 家に帰るのは週に一度、帰ったところで誰も居ない。

 ただ自分の言った『ただいま』が反響するだけ。」


そう、正は元居た世界に愛想を尽かしていた。


「そんな時あなたがここに飛ばしてくれた。

 意図しなったとはいえ、あなたは俺を元居た世界から解き放ってくれた。

 俺にとってはこれ以上ない救いなんです。」


一呼吸おいてから正はマリの瞳をまっすぐ見つめながら言った


「本当にありがとう」と。


正の話を聴いて再び泣き出していたマリは涙を流しながらも精一杯の笑顔で


「どういたしまして」


と答えた。

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