エスケープ·ザ·スカイ2
今から遡ること15時間前。
翔は悠と一緒に恒誓中学校の図書館に居た。二人は今年で14歳になり、名札も青色から赤色になっていた。
図書館の文庫には、約20000冊もの本があり、大抵の生徒達は昼休みにここを利用していた。翔も例外ではなく、幽体離脱をするに至っては、この中にある資料の中から行きたい場所を選び、悠と一緒に作戦を立て夜中の12時頃にエスケープする。 それが毎日の日課だった。
翔と悠の付き合いは、7年前の小学校の時からだった。活発で明るい翔は、すぐに周りに友達が集まり、人気者になっていた。一方悠は、どちらかというと引っ込み思案であまり自分の意見を言わない子供だったので、なかなか友達が出来なかった。
翔と悠が出会ったのは、夏休み前の7月初旬だった。
その日はとても暑く、昼休みは毎日ドッジボールをしている翔でさえ、図書館で本を読んでいたほどだった。
小学校の図書館は小さく、本の量も中学に比べると圧倒的に少なかったため、昼休みは本の取り合いになっていたが、幸い翔の趣味は他の子供達とは違っていたので、取り合いには至らなかった。翔が読んでいたのは、ギリシャ神話に出てくる迷宮についての本だった。
翔が一生懸命読んでいると、「となり、座っても良い?」と声が聞こえてきたので、翔は慌てて自分の席を前に戻し、苦笑いを作った。しかし、その声の人物はさほど気にする様子もなく、席に座ってから夢中で本を読んでいた。
翔は次第にその少年に興味を持ち、少年が読んでいる本をちらりと見た。
すると。
少年が読んでいたのは、自分と全く同じ本だった。
翔は妙な高揚感にとらわれ、膝の上に乗っけていた両手に力が籠り、いつの間にかグーと握っていた。
しかし翔は、そんなことは気にせず早口で少年に問いかけた。
「ねぇ君が読んでる本って僕と一緒だよね!それで君の名前は?」
本を読んでいたら、いきなりそう問われたので、少年は目を大きく見開きながら翔の方を見ていると、翔が軽く笑ったので、少年も口元に微かな笑みを浮かべ。
「僕の名前は…悠。……黒崎 悠って名前だよ。それとこの本は」
「悠!カッコいい名前だなー」
言葉を途中で遮られた悠は、再度驚き、口をポカーンと開けていたが、尚も翔が真剣な目で自分をみつめていたので、思わずクスクスと笑ってしまった。
それから二人は意気投合し、夏休みが始まる前頃には、一緒に遊ぶ仲になっていた。
そして、自分達(翔)が幽体離脱を出来る人間だと気付いたのは、ちょうど小学3年生の春休み明けだった。
二人は始業式を終えたあと、偶然にも同じクラスになったためあれこれ話していた。
これから山に探検に行って、遊ぼう。と翔が持ち出し、悠は、良いね!と言って相槌をうっていた。それから探検に行くのなら何が必要かを二人が模索していたとき、悠が奇妙な事を言った。
「…それなら、今日僕が幽体離脱をして、夜の内に??山の軽い探索をして来ようか?」
「………へっ?」
翔が驚いたので悠は簡単に説明した。
「幽体離脱っていうのは、出来る人間と出来ない人間がいるんだ。僕はママからやり方を聞いたんだけど、ママは一つだけ僕に注意してた。それは、幽体離脱は夜の間しか絶対に使ってはいけないってこと。何でかは解らないけど……」
悠は説明し終えると両手を膝の上に置きながら、翔の出方をうかがった。しかし、翔が親指と人差し指を顎にあてながら、う~んとしか反応しないので、悠は両手を大きく振って、再度驚愕することを言い放った。
「翔も悩んでないで一緒に幽体離脱しようよ!」
「!?」
翔はまたもや驚かされ、悠の方を両目で見つめていたが、悠はニコニコと笑っているので翔も笑った。
「…良し!なら僕も幽体離脱をしよう!!」
その日の帰り道、翔は悠に幽体離脱の仕方を聞いて、夜に試した。そうしたら呆気なく出来て、翔自身ビックリした。それに、幽体離脱の能力は想像以上に凄く、翔はもう一度驚かざるを得なかった。
幽体離脱の特徴は、以下の5つである。
個体の物体はすり抜けられない。
液体及び気体はすり抜けられる。
呼吸をしなくても良い。
温度などによる干渉は受けない。
受けた傷は、生身の身体にも影響を及ぼす。
翔は初め、飛ぶことに苦戦していたが、4月の終わり頃には、悠と一緒に飛べるほどにまで上達していた。
そんな二人はいつしか大きな夢を抱いていた。
翔が抱いていた夢は、この世にある数多のダンジョンを攻略し、世界に名を記すこと。
悠が抱いていた夢は、例え日中でも幽体離脱をして世界の人々を助けること。
二人の夢は違っていたが、二人の希望は全く一緒だったので、それを一直線に目指し、毎日毎日二人は幽体離脱をしていた。
東の最果てにある《古城》フレイラス
北の最果てにある《氷の絶壁》アイス・ヘル・グランド
西の最果てにある《夕闇の屋敷》ラムド
南の最果てにある《南国の砦》トーレス
これらのダンジョンは、現実世界で攻略されていなかったダンジョンで、放棄されていたのだが、未知の冒険者が攻略してくれたおかげで、そこは観光スポットにもなっていた。
未知の冒険者というのは、翔と悠の二人だった。
翔はすぐに直行して《守護神》ガーディアンをなぎ倒していくタイプで、悠は、お得意の知性を発揮しダンジョンに繰り広げられるトラップ回避を務めていた。
いつしか二人は、世界に2千個はあると言われているダンジョンを、半分は攻略していた。
時には危険な時もあり、危うく命を落としかけたことも少なからずあった。その中でも最も危なかったのは、《赤海の孤島》バルテノドンでのことだった。
いつものように、翔が飛び出しガーディアンを蹴散らそうとしたのだが、その部屋にはいくつものトラップが用意されていて、(勿論悠が見抜いていたはずなのだが、その部屋は侵入者が乱入した場合にのみ、トラップの数が飛躍的に増える仕掛けになっていたのだ。)翔は寸前のところでかわしながらもガーディアンにダメージを与えていた。しかし、ガーディアンは予想を超える強さを持っていて、翔はそいつに捕まってしまった。悠は翔を救い出すため、その孤島の中のトラップを全て解読して、バルテノドンの真実を知り、何とか翔を救い出した。




