エスケープ·ザ·スカイ
「……なっ……なんで……ルーナがここに…?」
翔は目を見開きながら、同じクラスのルーナにそう問うと、答えたのは意外にも一番右側に居た、上品そうな気品を漂わせながらも、目には深い慈悲が込められたような優しい目をしている女性だった。
「それはですね。ルーナもとい私達三姉妹は、代々この石碑を守ってきた家系だからなのです」
「……代々、石碑を守ってきた……?」
翔が、なかばおうむ返しのように聞き返すと、今度の質問に答えたのは、真ん中の目が可愛いらしい少女だった。
「そーだよー。私達はうんとねー。千年ぐらい前からこの石碑を迷ってきたんだよー」
「石碑を迷っては…いないの……それに、千年も守っていないの……たかだか五年ぐらい……なの…… 」
少女の答えを訂正したのは、ルーナだった。
自分の言葉を訂正された少女は、可愛く頬を膨らませて言った。
「だってー。シャイナまだ7才なんだもーん。わかんないよー」
翔は小さく吹いてからようやく、重大なことをさっき、一番右側の女性が言ってたことを思い出し、軽く咳払いしてから、シャイナの右隣にいる女性に尋ねた。
「あのーすいません。さっきあなたが言った、石碑を守っている……って、誰から守っているのですか?」
「あなたとは呼ばずに、名前でお呼び下さい。 私の名前はグラナ。そしてこちらの子が、シャイナ。」
グラナは微笑みを崩さず続けた。
「私達が石碑を守っている理由はね……。ロスト・クルセイダーから来る人達に、この石碑を読ませ てはいけないからなのです」
「なぜいけないんですか?」
再び尋ねる翔に、グラナは答えた。いや、答えようとした。
「この石碑にはね。幽体離脱……つまり、エスケープ・ザ・スカイを永続的に続けれる方法が記されているの……だからあの集団には…」
「なっ……!?」
咄嗟に叫んだのは翔だった。
「……えっ…ちょっと待って下さい…。幽体離脱は永続的には出来ないんですか!?」
驚いている翔にグラナは静かに答えた。
「ええ。出来ないわ。正確には、朝まで持たない。かしら……」
翔は震える声で反論した。
「そ、そんなのおかしくないですか……。だって……えっ…ちょっと待って下さい……もし朝が来たらどうなるんです……?」
シャイナとルーナは瞳を曇らせ たが、グラナははっきりと答えた。
「……本体に日の光を浴び、死にます……」
「そんな……」
翔には全てを理解出来なかった―――いや、したくなかった。もし日が昇ったら、それだけで死んでしまう……ただの日の光を浴びただけで……
翔は思考をそこでストップさせ、さっきの会話を思い出す。
確かに言っていた、幽体離脱を永続的に出来る方法があると…… ならば。
翔はグラナに一歩近づき、先ほどよりも大きい声で尋ねた。
「その…その方法はどんな方法なんですか!?」
グラナは数秒間黙っていたが、一呼吸してから翔の方を向き、優しく語った。 だが、その内容は驚くべきものであることを翔は身を持って知ることになる。