八話 紋章を持つ者
「中々良い装備がありそうだな」
「だね、こんなに前と違うなんて思わなかったよ!」
アバロル達2人は商売区の中央部まで来ていた。
以前よりは寂れた街のようであったがこの中央部は小規模の街よりも賑わいがあると感じさせた。
それに、より良い店へと足を運べるのだ。2人は少なからず興奮していた。まだ見ぬ上質な武器や防具が見れるのだから強くなりたい男共には願っても無い事だろう。
辺りを見渡し、良さげな店を探す。
ーーまずは…武器が良いだろう
アバロルはそう思い、ネフィムに一声かけた。それにネフィムは頷き、歩き始める。
なぜ初めに武器を選んだのか、それは今持つ武器が脆いというのも有るが最大の理由は武器の付与魔法と呼ばれるアバロルが鎧に対して行ったコーティングとは似た魔法である。
コーティングよりもより強化が可能となるが、強化元となる物体の大きさや形は変えることが出来ない。
その為───
──その時だ
アバロルが思考している中、丁度2人の前方で一人の男が身長2m程の女に張り倒された。
「……」
その一瞬だけを見たアバロルだったがそれでも女の手際の良さと腕力からは強者だと判断するに充分な物だった。
それに女の体は其処らの男なら勝てないであろう程に鍛えられていた。だからだろう、スタイルも良い。
額に小さな角を持ち、顔も片目は傷で開かないようだが充分に綺麗だ。
2人は足を止め、周りに出来始めていた野次馬に紛れて様子を伺った。
「貴様、本気で言ってるのか?
…ならば我自ら貴様を殺らなければ成らなくなるぞ」
女は下に転がった男を薄い緋色をした眼で睨みつけながら話す。
「そんな事分かってるよ!!
おめぇに言われなくても分かっていた。でもな、あれを見りゃあ信じたくもなるだろうが!」
凄まじい覇気を纏う女に劣らず、力強い眼光で這い蹲りながらも睨み返す…
「…ああ。
確かにアレを見れば貴様の言い分もわかる。だが、まだ決めつけるには些か早い」
女は元から鋭い眼を更に細め、男の言葉に応える。
争う男女の肩にはアバロルの背と同じ竜の姿を象る紋章が烙印の似た物で描かれていた。
ーー魔神バロールの紋章か…今や俺の紋章であるがーー
アバロルはどうするべきかと悩んだ。いや、悩むというよりはどうこの争いを収めるかを考えた、と言った方が正しいだろう。面倒だと思いつつもだ。
アバロルはネフィムに部屋に先に戻れと言い放つと野次馬の中から飛び出した。
女は驚いた表情で俺を見る。
「ほう、本人が来るとはな……丁度良い、お前は何者だ?」
男女共に俺に視線を向ける。
その覇気が全身を襲い狂うが魔神の精神を取り込んだアバロルには無意味だった。
「俺が何者か……
俺が答えずとも気づいているのだろう?」
アバロルは自身の肉体に秘めたモノを解き放ち、語り掛ける。
這い蹲る男は驚愕し、女はニヤリと笑みを浮かべた。
「まさか…本当に……!?」
「ノーマ、どうやら今回は貴様の方が信憑性が高い。…試すとしよう」
男、ノーマと呼ばれた者は驚きのあまり言葉を漏らした。
その様子をちらりと見た女はノーマに何かを呟いた。
それを聞いたノーマは表情を引き締め、頷くと立ち上がる。
「お前の言う通りだ。
確かに薄々浮かんではいる。だが、それが当たりなのかはわからぬ。
だから試す事にした」
女はアバロルに向き直ると数歩踏みより、拳を胸に掲げた。
「我…【クレイア・アルディール】と戦え。
お前に下僕決闘を挑む」
「いいだろう。受けてやる…!」
クレイアと名乗る女の堂々とした強者のオーラは、アバロルの闘争本能を疼かせた。
ーー期待しているぞ、クレイアとやらよ。貴様が俺に抗える程度に強い事をな…
また新たな言葉が出てきました…
予想はつくと思いますが次回にて明らかとなります。