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三話 仲間

闘技場の内部に戻ると兵士が居た。



「着いてこい、貴様の部屋に案内してやる。宿舎の番号は2だ」




と、一言呟いた。














大人しく兵士の後を追うと宿舎2という建物の中に入り、少し歩いた所にある廊下に無数に並ぶ扉の内、手前の扉の前で止まった。扉には3と数字が描かれている。



兵士が何か言葉を掛けると扉が開いた。中に入れと言わんばかりに睨みつけられる為に仕方なく中に入る。



扉を閉じると兵士は去って行った。






「…君が僕の相方か」




アバロルの背後から中性的な声が聞こえる。どうやら彼だけではなく、もう一人同居人が居るようだ。



「そのようだな、

申し遅れた。俺はアバロルだ」




「丁寧にどうも、僕はネフィム。

よろしく」




「ああ…」




この部屋の先客はエルフ、ドワーフといった亜人では無く、人間だ。

鍛え上げられた体は細身だが並の人間では辿り着けないだろう。






「しかし…

君は亜人に分類するのかい?」


ネフィムは恐る恐るアバロルに問うた。





「…さあな」

アバロルにはこの世界の亜人や怪物などの判別方法がわからない。魔神の常識がただの人間に通ずるとも思わない。

だからこそ答えられなかった。



アバロルの体は人型では有るが人間の要素はあまり無いだろう。




身長は2m強ほどあり、頭部は額から一つ角が生え、左と右に一つずつ額の角の倍の大きさのねじれた角が生えている。

髪はライオンの鬣の様であり、毛先は鋭い。

口は大きく、歯は肉食獣のような歯並びをしている。

目は鬼の如き鋭さを持ち、網膜は赤い。皮膚は鎧を思わせる光沢と精密な線を持っている。

更に左目は邪眼となっており、普段は右目と変わらないが力を一度使おうとすると目に紋章が生まれ、輝きを放つ。

胴体は膨れ上がった筋肉が有名な彫刻家が掘り上げたかのように並び、美しさすら感じさせる。

全身の筋肉組織が発達したその体は美しさも金揃えているが、それ以上に俺自身の姿を恐ろしく強大に感じさせた。

背中には牡羊の角を生やす雄々しき竜の姿の紋章が有り、そこから全身に燃え盛る火炎に似た線が浮き出ている。







その姿からは明らかモンスター寄りな事はわかる。







「だが、人間の主が何故ここにいる?基本的に人間の奴隷はいない筈だが……」

この地、つまりは人の国では人間の奴隷はいないとされている。

その分、別の種族が奴隷にされている。



「簡単だよ、自分で志願したんだ」




「なるほど…理解した」


ーー金を稼ぐ必要がある訳だな。

それも直ぐに。



拳闘士は勝てば金が貰える。

だから選んだのだろう。更に人族だからいい成績を残せば元の身分で解放されるという利点付きだ。



しかし、まあ奴隷であり亜人であるアバロルなどは生活状況が良い場所を選べるぐらいだ。








「でも君のような強い者と手を組めるのは助かるよ。

其処らのど畜生と比べものにならないくらい礼儀が良いしさ!」


ネフィムは笑みを浮かべて話す。



しかし、その笑みの裏側にどんな記憶が眠っているのかはアバロルにはわからない。






「そうか、それは良かった。

この場の唯一の仲間と呼べる存在と仲が悪いとなると話にならないからな」




「うん、だよね!

それじゃあ、どんな戦闘スタイルなのか話し合おうよ、そうすれば連携もしやすいでしょ?」





「ああ、了解だ。

俺は基本的に魔術・魔法兼体術を使う。時には予備の剣を使う場合も有るが基本はコレだ」




「ふむ。

僕のスタイルは槍なんだよね…

あんまり上手くないけど弓を使う事は出来るよ」





ーーなるほどな…




「…何方も得意な物は接近戦か…」






「え?

君は魔法じゃないの?

あんなに凄かったのに!」

ネフィムは驚きの表情を浮かべた。




「ああ、

魔術はまだ下級までしか使えない。

それにレパートリーも数が少ないから強化魔法と体術の組み合わせが俺の中では強い」




「へ〜、そうなのか…

でも弓は実戦だと30本中19本しか当たらなかったし、君に当てたくないし…」



ネフィムはどうしようとアバロルを見た。



ふ、簡単だ。

アバロルはそう小さく呟くと

「矢が来ようと躱せばいい。

例え躱すのが無理だとするならば弾き返してくれる。だから俺が前衛に行こう」

と言った。


「いや、でもね…」




「主には拳闘士になってまでする事が有るのだろう?

それに人である主が盾役として前に出て死ぬよりも亜人?であり、身体がデカい俺が盾役となってやる方が効率的だ」



ーー少し威張り過ぎたか?


だが、アバロルには意見を押し通すにはこれしか思い浮かばなかった。





「…君は何故、出会ってばかりの僕にそこまでするんだい?

それに人間である以上、恨まれても可笑しくない筈だろうしね」

ネフィムは俺を見つめた。




「単に人間と思うのは簡単だが、生物は個で違うものだ。

それを人族だからと恨むのは違う。


何より俺たちは(たぶん)仲間だ。

背中を合わせ、(仕方なく)共に戦う戦友だ。

何故、友(唯一の仕事仲間みたいな奴)の為に動くのが不思議なのだ?」



ーー俺たちは拳闘士である以上、

唯一の信用出来る奴なのだからな。





「…ありがとう。

君の友に慣れるなんて光栄だよ。

僕たちはもう仲間だったんだ、

助け合わなきゃいけないんだ…!」



「当たり前だ。

無理はするな、手助けしてやる」





「君には…いや、アバロルには感謝しきれないね。僕の事も頼りにしてくれよ、絶対に力になる!」




「ああ…」






ふぅ、どうやら丸く収まったか。と心の中で呟くとネフィムに視線を向ける。




「では明日から連携の事について話し合うとして、今日はもう休むぞ」





「そうだね。

じゃあお休み、アバロル」





「ああ、お休み」







さて、明日からは頭を使っていかなければな…



















でも、仲間を持つのも悪くない。



本人の知らぬ内にアバロルの頬は緩んでいた。

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