一話 後継者
『後継者よ…』
暗い闇底のような場所で俺は彷徨う。
すると突然響く声。
低音で図太い声だが、何故か心地いい響きだ…
一体。誰だ、俺に話しかけているのは…
『我が邪眼を持ちし者よ』
暗い…何も見えない
何なんだ。俺に邪眼なんてあるわけがない。
俺は、唯の人間なんだ…
『我が魔力を持ちし者よ』
体が、動かない
この世界に。この地球に魔力、魔法なんて存在しねぇ…なのに何で俺がそんなもんもっているんだよ…
『その力を持ってして、かの憎き神を滅ぼせ』
…なんだって?
気が狂ってやがる。
突然後継者だのなんだのと訳のわからんことばかりだけでなく、神を倒せだ?
まず神なんているかもわからんし、例えいたとしても一般人に頼むようなことじゃねえよ…!
でも、まあ────
「…」
いや、わかっている。
今、この状況が一体何を表しているのかが。
彼はそう思っていた。
まったく知らない場所に居るというのにも関わらず何故、冷静になれるのかも。
「…ああ」
どうして俺の手が異形の物へと変化し、壁に立てかけられている鏡に映し出された身体が以前とは比べられない程変化しているのかもわかる、と思考していた。
彼はどうしてここに居るのかさえもわかってしまう。
知らないはずなのに。
「…何故だ」
(魔神は俺を選んだ、後継者に…)
そしてこの地で生きる為の知識と肉体を与えた。
魔神自身の体を彼と合体させる事によって。
その記憶と知識が頭の中に存在するのだ。
「……わからぬ」
しかし、一つわからない事がある。水面に映る自分の顔を見ながらも考えるがわからない。
唯一彼の埋め込まれた知識でもわからない事があった。
「…何故、俺は奴隷としてここに居るのだ?」
そう、彼は魔神となったのにも関わらず闘技場で同じ奴隷や怪物と戦う戦闘奴隷となっている事がわからないのだ。
「…まあいい」
これは試練だ。
俺に課せられた試練…
つまりは魔神となる為の試練なのだ。
彼はそう呟いた後、こう考えた。
──ならば簡単だ。
このくだらない殺し合いを勝ち進んでやろうではないか…!
「アバロル、時間だ」
雇われの兵士の声が聞こえ、檻の扉が上がる。目の前に闘技場が見えると同時に対戦相手となる怪物の姿も伺えた。
「…行くか」
ーーさて、体が満足に動くか試させてもらおうか。
そして俺が生誕して初めての勝利を飾らせてもらおうーー
自信に満ちた表情に以前の彼の面影は存在しない。
思考すら魔神と似てしまったのだ。
ーーさあ、魔神バロールの後継者。
鎌刃 輝一郎改め
このアバロルが今異界の地にて降臨した!存分に暴れてくれる!ーー
男はそうして一人、闘技場へと赴く。
だが、彼は気づかない。今の彼は以前と大きく異なる思考になっているという事を。
こんにちは、バクフウです。
素人が書いた未熟な作品ですがよろしくお願いします!