奏夕と言霊帳
また、いる。
高校に入り一番最初に仲良くなった友人の辰人とくだらない事を話しながら廊下を歩いていると、曲がり角からひらりと翻る着物の袖のようなものが目に入る。
小さいころからよく見たものだ。ストーカーのように俺の後をついてきて離れないもの。
人間ではないのだろう。幽霊や妖の類かもしれない。なぜこれだけが見えるのかはわからないが。
小学校低学年までは薄気味悪くて仕方がなかったが、とくには害がないとわかってからはうっとうしくて仕方がない。
ジロリと睨めば奴はすぐに退散するが、もしかしたら家の中にまでいて見張っているのではないだろうな、と思うとうかつに変なことはできない。
「ああああくっそ!」
頭を抱えて髪の毛をわしゃわしゃと引っ掻き回す。
「うわっ、どうしたんだよ、いきなり」
「あ、ごめん」
辰人が隣にいるのを忘れて思わず叫んでしまった。考え込むと周りの事を忘れる癖、どうにかしなければ。
「なんでもない、ちょっと嫌なこと思い出しただけだ」
そう言って笑う俺を、辰人はいぶかしげな眼で見る。
う・・・ちょっと苦しい言い訳だったからな。視線が痛い。
しばらく俺の事を見てから、辰人は、
「余計なおせっかいかもしれないけどさ。お前、もしかして着物の裾っぽいもの見えてたりする?」
「は?」
なぜ辰人がそのことを知っているのだろう。今まで誰に言っても指差して見せても見える人間はいなかったのに。
「俺さ、人間じゃない類の物が見えるんだよ。あ、厨二乙とか言わないでくれよ?本当だから」
「厨二乙~」
「言わないでって言ってるじゃんか!」
「ごめん、つい」
「おい。・・・まあ、いっか。で、質問の答えは?」
「あー、まあ、見えてるっちゃ見えてるんだけど・・・別になんもしてこねえし放っておいてるんだよな」
「いや普通放っておくか!?」
「めんどくさいし」
「・・・えええ。放っておかないほうがいいぞ、そういうの。いつ何してくるかわからねえぞ?」
「えー、めんどくせえし・・・」
「いやおまえどんだけ能天気だよ」
「めんどくせーからいい」
「もはやあきれるしかないんだが」
「いーじゃんか。それよりさー・・・」
やけに布の事を警戒しているようだが、十年以上何もしてこなかったのだ。
今更何か起きたりしないだろう。というかあったら困る。
そう思って話題を転換し、布の事はうやむやになった。