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命とトラックはひとまず助かった。
問題はあの輸送鑑だ。
元来あの輸送鑑に人間は乗っていない。操縦からダストマンへの荷物の引き渡しまで全て延長五体、つまり機械が行う。同調し操作しているのは人間だが、延長五体がどれだけ傷ついてもその衝撃などは操縦者にフィードバックされることはない。
だが今回は状況が状況だ。上界の人間が何かの拍子に紛れ込んでいないとは限らない。もしそうならば、救助なりとどめなりを行うのが遭遇者としての勤めだろう。
決してどさくさに紛れてなにか失敬しようとかそういった不実なことを考えてはいない。決して。
「……物資だって救助を待ってるかもしれないんだよな……」
そうこれは物資救助なのだ。仮に回収されたとしても、墜落事故のいわく付き扱いされ最終的に廃棄されるのなら、それを気にしない人間が引き取って使う方が有意義というものだろう。物資もその方が冥利に尽きるはずだ。
そう法廷の場では確実に負けるであろう論理武装を完了させると、リスキィはトラックから降り、再びバイクに跨って輸送鑑まで無人の荒野を駆けた。
輸送鑑に再び近づくにつれ、外傷など細部の状態がはっきりと見えてくる。
まずエンジン。煙を上げていたぐらいなので、落下時点で既に昇天していることは予測がついていた。だが損傷は中心から端へと花を開くように広がっていた。外側から攻撃を加えられた場合は、攻撃が着弾したら内部に向けて衝撃が進むはずなので、跡は内側へしぼんだようになるはずなのだ。
エンジンそのものの不良なら安全装置が作動してエンジンは停止、その後は揚力を調整して安全に着陸しようとするはずだ。だが今回はその調整システムもうまく作動せず、今回の軟着陸という結果となった。
つまりエンジンが内部からの何らかの衝撃、おそらく大量の爆発物によって強引に停止させられたのだろう。
反面、それ以外の部位に目立った外傷はない。が、あのお粗末な着陸をみる限り、安全装置のほとんどは無力化されていた。
物理的にだけでなく、電子的にもこの輸送鑑は穴だらけだった。つまりこの輸送鑑は、あらかじめ墜ちるように仕組まれていたのだ。
「……におうわぁ」
政治的策略の臭いがプンプンしていた。
だからといって引き返したりはしない。むしろ強い好奇心がリスキィを支配していた。わざわざ下界に意図的に落としたのだ。そこまでする理由があったものが何なのか、この目で確かめてみたい。
輸送鑑に手が届く距離まで近づくと、リスキィは艦の陰にバイクを停め、周囲を徒歩で回る。艦左側中央部の搭乗口は開け放たれていた。タラップは降りていない。地上までは約十メートル。墜落してから誰かが脱出した、という線は薄い。
とにかく中を確かめるには、流線型のせいでやや傾斜がかっている十メートルの壁を上らなければならない。ロープを持ってくれば良かったと若干後悔しながらリスキィは軽く屈伸し体をほぐす。
狙いは搭乗口のやや下方、ちょうど傾斜が終わる辺り。
リスキィは体を再度折り畳み、地面にたたきつける様に跳躍した。爆発した筋肉が体を撃ち出し、目標地点に到達する。リスキィは右足を上げ、機体にブーツの裏をつける。力を垂直にかけないよう調整しながら、ブーツのグリップを生かして体を伸ばし、さらに距離を稼ぐ。
左手が搭乗口の縁をつかむ。体を持ち上げ、艦内へと滑り込んだ。