3-1
お待たせしました。短いですが、とりあえずは生存報告的なノリで上げます。
色々ゴタゴタしてました。今後もゴタゴタします(下手したら一年ぐらい)。忘れたころに更新されてると思うので期待せず待って頂けると幸いです。
その打ち捨てられた地下街は、二十年という年月相応の経年劣化を感じさせながらも、その間に吸い込んだ栄華の残滓を色濃く漂わせていた。一切の光源がないためその空間は闇に閉ざされているし、地面には厚く埃が敷かれ柱や壁にはコンクリートが剥き出しになっている。街としての機能は完全に失われている。だが何かの拍子、例えば一定数の人間がここに押しかければすぐにでも閉じ切られたシャッターが上がってその向こうには煌びやかな装飾の店舗が商売を始めそうな、そんな「死んでいる」というよりも「眠っている」という表現の方がしっくりくる空気に満ちているのだ。
「ここは……?」
そんな街を暗所用のセンサーで走査しながら、ルミネは問いかける。サードデイの走査結果によると、ここはかつての日本領土における西の都、地下に形成されたものとしては国内最大規模の街だったもの、の複製だ。日本領土と言っても完全に地球のそれがそっくりそのまま再現されている訳ではない。いくら地球とこの星が酷似しているといっても流石に大地の形まで瓜二つ、というわけにはいかないのだ。
「複数の路線を内包した日本国最大規模の地下街、だったところさ。地下鉄道を結ぶ通路に百貨店の地階やら千以上の店が集まった、文字通り都市の血管だったらしいぜ。空中を開発する技術はあったのに、なんで地下にこだわったのかは知らねぇけどな」
リスキィはそう答えつつも、壁に手を当て何かを探していた。
リスキィ達は先にイガグリが報告した侵入者の先住民に対応するため、提示された地点近くまで徒歩で移動していた。バイクを使わないのは、ライトによって相手にこちらの動向が筒抜けになってしまうのを避けるためだ。リスキィは接触の若干甘くなった暗視スコープを時折小突きながら、指示された地点へと移動していた。途中何度か携帯端末を確認したが、侵入者は所在なく彷徨うように低速で移動している。先回りするのは比較的容易だった。
「みっけ」
バチンと小気味の良い音が響く。天井の電灯達が不平不満を並べるように唸りを上げ、点灯した。
「すごい……まだ電気が生きてるんだ……」
「あたぼうよ。ま、全区画は無理だがな。範囲を絞ればこうして電気は回せる」
ルミネの感嘆を暗視スコープを外してブレーカーが設置されているパネルに放り込みながら、リスキィは答えた。
ルミネが指示するよりも先にサードデイが暗視から明視へとモードを切り替え、周囲の情報を収集する。
そこはおそらく駅から中心部へ出る為の連絡通路なのだろう。地面に段差はなく、全て傾斜と滑り止めが張ってある。補強のためか、幅十メートルほどの通路の中心には円柱が通されている。何らかの広告が掲示されていたのだろうが、虫喰いと擦り切れで原形を留めていないため解読は出来なかった。壁にはシャッターが並んでいる。恐らくは店舗だろう。破られている物もあったが、そう言った店内は例外なく荒らされている。だとしたらまだ閉ざされているシャッターの奥には何か金目のものがあるんじゃないかと何でも屋としての欲望がむくむくと首をもたげたが、残念ながら首から下も引かれる後ろ髪も無いため、漁ることは叶わない。諦めるしかなかった。
内部の記憶媒体に入っていた地図データとの照合を終えたサードデイが、警告を発した。どうやら封鎖されている区画や、逆に存在しないはずの通路があるらしい。
「そりゃあ当然だ。地図通りにしてたらあっさり俺達の街まで侵入されちまう。だから通路を崩して塞いだり新しく開けたりしてるのさ」
ルミネの問いにリスキィはそう事もなげに答えた。
「いざ侵入されても、通路には爆薬やら延長五体対策の通信妨害装置やらをしこたま仕込んでるけどな。あいつらが逃げ切る時間ぐらいは稼げるぜ」
「さらりと凄いことを……」
確かに爆薬程度ならダストマンという職業柄、本来必要な量を水増しして入手することは容易だろうが、通信妨害装置となるとそうはいかない。必要な機材は地上に転がっているとはいえ、老朽化したそれを機能するように組み上げることは並大抵の技量では出来ない。彼らの潜在的な技術力の高さを窺わせた。
それだけではない。あの集落の衣食住はいくらなんでも自給自足では賄いきれないだろう。となると外部から補給する必要が出てくる。上界の一個人や、ましてや一人のダストマンの経済力ではあの水準の生活は成り立たない。
つまりはあの地下集落は何らかの物品の生産能力を備えていること、引いてはそれに価値を見出し取引を行っている層がいるということだ。
「さぁて、おしゃべりは終わりだ。そろそろお出ましだ」
携帯端末とサードデイそれぞれの警告音に、ルミネははっと我に帰る。
「イガグリ、作戦はいつも通りだ。三十分信号がなかったら死んだと思ってくれ。通信終了」
返答を待たずに携帯端末を上着の内ポケットに仕舞うリスキィは、焦燥感を駆り立てる警告とは対照的に、死が想定される事態とは思えないほどにリラックスしている。だからこそルミネは異星人という未知との遭遇に対して、あまり大したことはないんじゃないかと楽観的な気持ちを抱き始めていた。
そしてそれはすぐに崩れ去った。