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魔女っ娘前夜

ストーリー進行上人死にがでたりします。暴力的な表現あり

大きく立派な校舎に、真っ赤な夕日がおちる。

時間はまだ早いのでいつもなら人がまばらにいるのだが、今は長期休暇なので、生徒も師もほとんど校舎内にはいない。

その校舎の一棟、学生寮の中にある「お茶室」

電気もつけず茶けた畳の上に私とお師様は腰を下ろした。



愛よ、とお師様は短く始める。


「この3年間、お前はよく頑張った。努力に努力を重ね、才能の不足を補うことに一生懸命励んでくれた」

「しかし、だ。その努力をしてもお前の魔力量は実践でやっていけるものまで育つことがなかった」

「成長期を過ぎた今、このままでは魔女っ娘としてやっていくことは難しい・・・いや、『できない』と儂は言わざるを得ない」

「・・・はい、十分承知してございます」

「・・・」


私は制服の端を握りしめ、目の前のお師様にそれと悟らせぬよう口の中をかみしめた。

座学はなんとかなっても実技がボロボロの私に、それこそつきっきりで教えてくださったお師様

そこまでしてくれて私が悲しいそぶりを見せてしまっては、この人に対して失礼だ。

なんとなくあついものがこみあげてくるのを、気づかなかったふりをしてやり過ごす。


お師様はつづける


「もちろん、儂の力不足でもある。これまでのことこれからのこと、勝手だとは思うがまず謝らせてほしい」

「そ、そんなお師様!おやめください!」


お師様が深々と頭を下げたのを、私が必死にあげさせようとする。こちらは感謝こそすれど、恨む気持ちなど微塵もないのだ。

自分も土下座をせんばかりに腰をかがめてやめてくれと促すが、お師様は全く動かなかった


「謝らねばなるまい・・・いや、謝ることすら身勝手だ。儂が至らないばかりに、このようなことになるだけでなく・・・っ」


お師様はそこで言葉を詰まらせた。下げたままの頭を上げようとせず、地面についた拳がすこし震えている。

なにか言いづらいことがあるのだ、と直感で悟った。

落第、退学、はては、魔女としての力すら奪われ、私は泡となって消えてしまうのかもしれない。

堪えていた涙が、止めることもままならずにぼたぼたとこぼれた。


「お、お師様、顔をお上げください、私はいかなる罰則でも何でも受けます。もう十分、お師様や学校のみんなに助けてもらいました。これ以上ご迷惑をかけるわけにもいきません・・・、いやもういっそ、自主的に退学を」

「違う、そうではない。数少ない魔法適合者をこれ以上減らすわけにもいかないのだ」


お師様がふいに顔を上げたために泣き顔を見られたが、私以上にお師様の表情は悲壮だった。


きりりと吊り上った太い眉、真一文字に結ばれた口、鋭い目つき。私の記憶にあるお師様は、壮年に差し掛かる歳でもなお若々しく、威厳ある方だった。

それが今は、白髪の目立つ頭髪を乱し、顔に刻まれた深い皺とこけた頬を歪めて助けを求めるような表情をした、痛ましい老人のような雰囲気だ。

涙こそ流していないが、お師様の気持ちを知るには十分すぎるほどの表情だった


「お前に苦しい思いをさせる。もう十分苦しい思いをしてきたお前に」

「・・?」

「上会の決定だ。お前には、特別な魔法を覚えてもらわねばならん」

「そ、それはいったい・・・」

「・・・究極の魔法、受ければ受けるほどに強くなる、おぞましい魔法だ・・・!」







―――


魔法の説明をしている間、少女は真顔で私の拳のあたりをじっと見ていた。


私が彼女に教えようとしているのは、生きているだけで使える魔法。事実上、魔法アレルギーでもなければ適正がほぼない人間でも使える夢のような魔法。

だが都合のいいことばかりでなく、その魔法は使用者に大変な苦痛をともなう。

むしろ苦痛こそが力を引き出し、それが大きければ大きいほど、苦しければ苦しいほどにその力は増す。


「使うためには、自らを苦しめねばならないのだ。命の危険に向かっていき、肉を切らせて骨を断つようなことをその都度やらねばならない」


そのための訓練ももちろんある、と付け加える。

今更訓練程度手伝ってやったところで、この少女の未来が明るくなるとは思えない。だがほかの連中がこの少女に訓練と称した実験をすることだけは阻止したかった。魔法自体の有用性、そして何より適正がほとんどいらないこの魔法は、慢性的な人手不足の魔法界では忌避されながらも細々と伝えられてきた。今回のような場合、上会が彼女を貴重な「被検体」としてみていることは明らかである。


「現役を退いたのちは、学園の薬草学にひとつポストを設ける確約が下りた。座学の成績は問題ないとのお墨付きでな。・・・だが儂がしてやれるのは、ここまでだ。上会は是しか認めないというが、最終的に儂はお前の判断を尊重したい」


少女の方に向き直る。いっそ、お師様はなんてひどい人だといってくれないかと内心思っていることをひた隠しに、少女の瞳を見つめる。

さきほどまではこの世の終わりか、悲劇もかくやというほど大粒の涙を流していたのに、もうすっかり出しつくしてしまったらしい。

斜陽が少女の顔を赤く染める。



「ありがとうございます」

少女は先ほどの自分のように、頭を深く下げる。だがすぐに体を起こして、心底嬉しそうな表情でもう一度ありがとうございますといった。


「不服などありません。魔女っ娘として精一杯頑張らせてもらいます」






笑顔でそう告げた少女、愛が「自愛の魔女」と呼ばれるようになるのは、これよりまだだいぶ後のことである。

加筆修正するかもしれません・・・

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