82 神仙その名は
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「女神に会った?どういう事だ?」
ヒロの発言にアリシアが聞いてくる。
「いや、何となくそんな感じの夢を見たような気がするって話だけどな」
「なんだ、夢の話か」
「まぁ、そうなんだけどな。何となく、こうモヤモヤした感じ?」
いまいちヒロの答えは歯切れが悪い。
「なんか大事な事が有った気もするんだよな~」
何故かどんな夢だったのかは思い出せなかった。
「まぁ、重要な事ならその内思い出すだろ」
「そうそう、あんまり深く考えない方が良いよ」
考え込むヒロを慰めるようにアリシアとメリオラが声をかける。
「メリオラはもうちょっと考えてから動いた方が良いけどな」
ヒロは2人の気遣いを感じながらも軽口で返した。
「まぁ、その話は良いとして、何故大森林に?いつの間に移動した?」
「ん?あぁ、山道から滑落した後の話だけどな、偶々下が川でな……」
ヒロはその後の話を始めていった。
△ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △
約10日前の事。
ヒロと魔族タルタトスが落ちたのは峡谷を流れる川だった。
大峡谷を流れる長大な川は水深、水量共に十分なものだった。
その水深の深さがヒロの命を救った。
そしてそれは、落ちてくる彼を柔らかく受け止めた水の精霊の助力によるところが大きかった。
川を流されていくヒロを救ったのは、この川のヌシを釣らんとしていた、とある人物だった。
「おや、随分と大物が泳いでいるね」
川を流れていくそれ見つけると、その漂流物を目掛けて釣り針を飛ばす。
見事に一発で針を引っ掛ける事に成功する。
「あー、やっぱり兄ちゃんだったか」
岸まで手繰り寄せ、引っくり返して顔を確認する。
想像通りの人物だった事に1人頷く。
「魔力の感じからそうじゃないかと思ってたんだよね」
そう呟くと、心肺停止状態の胸に掌を近づける。
「ヨッ!」
軽い掛け声と共に、その小さな掌が胸に叩き込まれる。
「ゴフ、ガハッガハ!」
絶妙な力加減で叩き込まれた衝撃が一撃でヒロを蘇生させた。
「やあ、気分はどうかな?」
「セ、セルジュ?な、なんで??」
目の前に居る幼い顔立ちの知り合いがヒロの思考に混乱を巻き起こす。
「え?お前?なんで?」
「まぁまぁ、落ち着こうか。ここは大峡谷。オイラが釣りをしていたら、兄ちゃんが上流からドンブラコードンブラコーと流れて来たのさ。直前に大きな魔力のぶつかり合いを感じたから、何かと戦っていて川に落ちたんじゃないかな?あの感じだと相手は魔族じゃないかな?」
「……あぁ、そうだった」
セルジュの言葉にヒロが大体のところを思い出す。
「あ!他の皆は?あの魔族は?」
「ん?あぁ、魔族ならちょっと向こうに魔力を感じるね。それ以外は特に感じないかな。と言うか、それは兄ちゃんの得意分野じゃない?」
焦るヒロにセルジュが冷静に答える。
「あ、あぁ、そうだな」
セルジュの指摘にヒロは【索敵】を発動させる。
「フゥー。無事みたいだな」
【索敵】に有る皆の反応と、自身との高低差から崩落に巻き込まれていない事を知る。
「落ち着いた?」
「ん?あぁ、なんとかな。そう言えば、お前が助けてくれたんだよな。ありがとう」
「ヌッハハハハ!人助けはオイラのライフワークの様なものだから気にする事は無い。ただ、どうしても感謝したいと言うのなら、お礼の品を受け取らない事も無い。そう言えばお腹が空いたね?ちなみに、オイラは野菜より肉の方が好きだよ」
遠回しに、だが直球で食べ物を催促してくる。
「…干し肉なら多少は有るけど?」
「オイラは肉汁の滴るステーキが食べたいけど、我侭は言わないよ。ちょーだい♪」
満面の笑顔で両手を差し出すセルジュ。
ヒロがアイテムボックスから取り出した干し肉を渡すと、かぶりつくように食べ始める。
「ステーキはまた今度な」
「ウン!楽しみにしてるよ。そう言えば、ちゃんと調理すればバジリスクの肉も食べられるんだって」
「……考えておく」
遭遇した事も無いバジリスクを遠回しに要求されたヒロの顔に笑顔は無かった。
「セルジュはここで何を?」
「ん?ヌシ釣りだよ。何でも、ここに住み着いてるヌシは人を丸飲みにするくらい大きいんだって。オイラは秘境ハンターだからね。まだ誰も見たことの無いものを求めて冒険をするのさ」
干し肉を両手に持ち、満面の笑顔で語るセルジュ。
「でも、そのヌシとやらは大きさが分かってるんだろ?なら既に誰かが見つけたって事だろ?」
「兄ちゃんは夢が無いなー。浪漫だよ、ロマン。そんなんじゃ立派な秘境ハンターになれないよ?」
「良いよ、別に目指してないから」
「目指してないの!?」
目を丸くして驚きの声を上げるセルジュにヒロは、何となくその驚きが本気の様な気がした。
「さて、腹ごなしも済んだし、そろそろかな?」
「ああ、直ぐそこまで来てるな」
大きな魔力の塊が直ぐそこまで来ていることは、【索敵】を使うまでも無く分かっている。
「兄ちゃんは座ってなよ。オイラがやるからさ」
「あ?いや、でもな…」
「本調子じゃないんだろ?オイラに任せておきなよ」
そう言うとセルジュはヒロの両肩を押して座らせる。
「分かったよ。でも、危なくなったら手を出すからな?」
「ん、危なくなったらね」
どんな工夫が有るのか、ヒロはどう力を入れても押し返す事が出来ずに諦める。
目の前に居る、満面の笑みを浮かべるセルジュには、何故か不可能という言葉が当て嵌まらないような気がした。
「お?そんな所に居やがったか人間!」
現れた魔族タルタトスは、ヒロの姿を見つけると獰猛な笑みを浮かべた。
「逃げずに待ってるとは殊勝じゃねぇか。お望み通りブッ殺してやるよ!」
そのまま突進してくる。
そんなタルタトスの前にセルジュが立つ。
「なんだ?ガキが!邪魔すんじゃねぇ!!」
セルジュに向かって振り下ろされる巨大な拳。
当たれば一撃で、その命を奪うであろう事が容易に想像出来た。
だが
「なっ!?」
次の瞬間に目に映ったのは、上下逆さまに地面に激突しているタルタトスの姿だった。
「どうやって投げた?」
一連の動きを理解できずにヒロは呟く。
正確に言えば見えなかったわけでは無い。
セルジュが拳を避けながら腕を取り、軸足を払った。
後は、タルタトスが自身の勢いで引っくり返った。
動きの全てが見えていた。
だか、いつ動いた?いつ腕を取った?いつ足を払った?
その答えの全てが、『気が付いたら』だった。
明確な実力差が有るならともかく、実力が拮抗した相手ならば、動き出す瞬間、変化の瞬間を見逃すという事は、戦いの場においては致命的になる。
そして、ヒロの経験上では動き出しを見切れない相手というのは、明らかに格上である事を意味していた。
「このクソガキが!テメェからブッ潰してやる!!」
ヒロの思考を遮るようにタルタトスが怒鳴り声を上げ襲い掛かる。
しかし、唸りを上げて襲うタルタトスの拳は尽く外れる。
そう、ヒロの目にはセルジュが避けているのではなく、タルタトスが外している様にしか見えていなかった。
それほどに、セルジュは動いていないように見えていた。
(クソ、見切れねぇ)
ヒロの関心も勝敗の行方より、自身がセルジュの動きを見切れるかどうかに移っていた。
そして、それも直ぐに諦めに至った。
セルジュの動きが速過ぎるという訳ではない。
むしろ動き自体は遅く感じるほどだ。
だが、動きの切り換わりがまるで見えない。
右に動いていた筈なのに、気が付くと先程より左に居る。そんな事が何度も有った。
(動きに無駄が無い。滑らか過ぎてむしろ遅く見える。身体操作、重心操作、技巧の極みか)
かつて剣皇すらもが理想と語った技巧の極みの体現者が目の前に居た。
「クソが!何で当たらねぇ!!」
苛立ち更に荒くなるタルタトスの拳をセルジュは危な気なく捌いていく。
「ホイ♪」
軽い掛け声と供にタルタトスの拳を手刀で引っ掛け逸らす。
「トウ♪」
バランスを崩したタルタトスの側面に回り込み、膝裏を蹴り抜く。
「ソリャ♪」
後方に倒れるタルタトスの額を押さえ地面に叩きつける。
その後頭部が半ばまで地面に埋まる。
「ん~。硬いねぇ。これが本当の石頭だ」
どうやら下は土ではなく岩だった様だ。
「テメェ、このクソガキ!」
問題無く立ち上がるタルタトス。
「お~まだまだ元気だ。体の硬さと筋力とタフネスさは大したものだね。でもソレだけじゃあダメだね」
「あ?俺様が弱いとでも言いたいのか?テメェの攻撃なんざ、これぽっちも効いてねえよ!」
セルジュの言葉にタルタトスが怒鳴り返す。
「弱いとは言ってないよ。ただ、強くはないね」
「んだと、コラ!」
タルタトスの内部で魔力が膨れ上がっていく。
どうやら怒りを魔力に変換していく能力でも持っているようだ。
「オイラも怒ってるんだよ?キミが辺り構わず殺気を撒き散らすから、お魚サン達が逃げちゃったじゃん。折角ヌシの居場所を突き止めたのに、どうしてくれるのさ?」
「お、お前、怒る所そこ!?この期に及んで釣りの方が優先度上とか…」
ある意味では魔族を舐めきった態度のセルジュにヒロも絶句する。
「なに言ってんだ!舐めて、んな!?」
タルタトスの言葉を聞かずに、音もなく前に進み出たセルジュ。
タルタトスが気が付いた時には既に肉薄していた。
そこで初めてセルジュの姿が霞む。
「ガハッ!」
無言で突き出されたセルジュの右拳が手首までタルタトスの腹部に突き刺さっている。
「本当にキミは硬いね。そこだけは大したものだよ」
拳を引き抜くと感心したように言う。
「テメェの攻撃なんざ効かねぇって言ってんだろうが!」
「知ってる。どの程度の厚さか試しただけだよ」
タルタトスの言葉にそう返したセルジュは、そのまま右拳をタルタトスの胸に添える。
次の瞬間、再びセルジュの姿が霞み、その足元が陥没する。
それだけで他には何の変化も無い。
川のせせらぎ以外は無音の中で、静かにセルジュが踵を返し歩み去る。
その背後でタルタトスが轟音を上げ倒れる。
「お前、何をした?」
「ん?」
ヒロの質問の意味が分からずセルジュは首を傾げる。
「どうやってアイツを倒した?」
「あぁ、それね。ただ徹しただけだよ?」
「徹した?」
「流石に硬たかったからね。硬い相手は内部から。基本だよ?」
事も無げに言ってのけるセルジュにヒロの目が丸くなる。
「浸透勁とかいうやつか?」
「ん~、どうだろうね?オイラは徹するとしか言わないし、技というほどの物でも無いしね」
「いやいや、浸透剄といったら打撃系の武芸の奥義の1つだろ?」
確かに単なる技というレベルではないので正しいと言えば正しい。
「地面が陥没するほどのエネルギーを内部、奴の核に直接叩き込んだのか?それなら、まぁ納得と言えば納得だが、お前何者だ?」
もう唯の釣り好きのジグタル王家の縁故者では説明がつかない。
「オイラはセルジュ。それ以上でも、それ以下でも、それ以外でも無いよ。ただ、オイラの事を『神仙』なんて呼ぶ人も居るけどね」
つまらなそうに答える。
「神仙?『神仙セルジュ』!?」
神仙セルジュと言えば、人類最強の一角とも言われる人物だ。
『その打撃、大型の魔物を容易く打ち倒す事、神業の如く。その体術、虚実が入り混じり幻妖なる事、仙術の如く』そう称される。
また、数十年が経ってもその容姿に変化が無い事から『不老の仙人』という噂もあるそうだ。
「いや、まぁ、イロイロ納得か」
そういった噂を思いだし、ヒロは納得する。
だが、どうしても聞かなければいけない事が有った。
「お前何歳だ?神仙セルジュと言えば何十年も前から、その名を轟かせているぞ?」
そう、神仙セルジュと言えば、彼の祖父エルスリードが若かりし頃より目標の一人としていたと言う人物だ。
「ん?そうだな~、そろそろ150歳ぐらいかな?」
「150!?お前エルフか?」
「んにゃ、違うよ」
「なら、魔族か?」
「違うよ。言うなら竜人?竜族と人族のハーフだよ。母親が竜で、父親が人さ。竜族の擬人術は完璧らしいからね。生殖可能だったらしいよ」
こうして漸くヒロは完全に納得がいった。
寿命が数千年とも言われる竜もいる。擬人化するのはそういった高位の竜だ。
そういった擬人化した竜とのハーフなら100歳を超えてもまだ容姿が子供なのは納得がいく。
セルジュがジグタルの王城に住まわされていた事にもだ。
きっと対グリトラの切り札だったのだろう。
だが、フラフラと出て行ったり、突然帰ってきたり自由奔放に過ごしていたのだろう。
おかげで助かったと言えばそうなのだが。
そう思いながらヒロはそろそろ仲間達と合流しようと立ち上がった。
「ねぇねぇ?アイツを餌にしたら大物が釣れるかな?」
タルタトスを指差しセルジュが言う。
「……止めとけ。魚が魔物化しても困る」
根拠は無い。だが魔族を魚の餌にするとか発想が異次元過ぎる。
「そっか~。あ!?良いもん見~っけ」
そう言って走っていくセルジュの向かう先には、一振りの刀と一丁の銃が有った。
「俺の!?」
それは落水した際に落としてしまったヒロの装備品だった。
どうやら川底に沈んでいた物を水の精霊達が上手く誘導して来てくれた様だ。
(アリガトな)
心中でお礼を言うとセルジュから受け取り、刃毀れ等が無いかを確認しアイテムボックスにしまう。
「兄ちゃんは面白いもの持ってるな」
そんなヒロを見ていたセルジュが突然口を開く。
「それ、普通の収納袋じゃないよね?普通の収納袋は中が最初から異空間になっているんだけど、その袋は途中で異空間が開いたって感じがしたよ」
「凄いな。お前、異空間の開閉まで分かるのか?」
「えっへん!」
わざとらしい効果音を言いながら胸を張るセルジュ。
その勘の鋭さというか感覚の鋭さにヒロも脱帽する。
「ん?更に空間が揺らいだね」
「え?どういう事だ?」
「ん~、転移?とはちょっと違うなぁ?何かこぅ~、何だろ?」
釈然としない表情で首を傾げる。
「あぁ~、もしかしてアレか?」
ヒロには思い当たる節が有ったらしく、再びアイテムボックスを開く。
そうして取り出したのは、マッドサイエンティスト風の危険生物お手製の収納袋だった。
中に手を入れると、何かが入っている事が分かった。
ソレを掴むと引っ張り出す。
「なっ!?」
「おぉ!」
「ご無沙汰しております」
驚きと感嘆の声を上げる2人を尻目に、ズルリと出てきたそれは何事も無かったように立ち上がり挨拶をする。
「マスターよりご伝言を承っております。再生致しますか?」
「え?なに?え??」
無表情に告げられヒロは混乱する。
「再生致しますか?」
自動人形ルシアリーヌは無表情に繰返した。
感想、ご指摘等ありましたら
宜しくお願いします




