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望むはただ平穏なる日々  作者: 素人Lv1
ジグタル連合王国 編
83/90

80 遅れてきた主役

「ウチ、降臨!」

 突然現れた白衣を纏った少女が妙なポーズで声高らかに叫ぶ。


「……」

「……」

「……」


 辺り一帯を寒々しい空気が満たしていく。


「ん?」

 そんな空気を察し白衣の少女、ルーリドゥールは首を傾げる。


 原因を探るべく周囲を見渡し、背後に立つ仲間たちの見下ろす視線に事態を把握する。


「何で自分等ポージングしてへんの?ウチが浮いてしまってるやん」

 どうやら原因はノリの悪い仲間達に有った様だ。


 腰に手を当て、溜息を1つ吐くと

「登場シーンは派手に決めなアカンやろ。そんなん必殺技の名前を叫ぶのと同レベルやで?常識やろ」

 そんな世界的な常識を改めて説明してくれる。


「もう一回、最初からやり直したるわ。こんなサービス滅多にないんやで」

 感謝しろとでも言いたげに胸を張る。

 そのまま、クルリと向き直し、先程と同じ着地姿勢に戻る。


 そして、

「ほな行くで?」

「行かねぇよ!」

 背後から蹴り飛ばされる。


 顔面から、ズザーと滑ったルーリドゥールは

「グッジョブ!オチへんかったらどないしようかと思ったわ」

 満面の笑顔で起き上がるとサムズアップしてみせた。


「さぁ、そろそろ始めましょう」

 諸々を無かった事にするかの如く女性のエルフ、アルシェイラスが仕切り直す。


「え?やらないの!?オイラ格好いいポーズ出来るよ?」

 ルーリドゥールを見習い様々なポーズを試していた少年、セルジュが残念そうにうなだれる。



「ここは任せて良いか?」

「ん?どうしたん?」

「知り合いが来ているみたいだ。味方にも、敵にもな。ちょっと行ってくるよ」

「ええ、ここは大丈夫よ。気を付けてね」

「あぁ、お前等も…」

 「お前等も気を付けろよ」と言い掛けて、改めて目の前の面子を見て思い留まる。


「お前等は、くれぐれも自重しろよ」

 目の前の面子は5万や10万の軍勢でどうにか出来る相手ではないと確信を持って断言出来る。


 やり過ぎないと良いな~。

 そんな事を思いながら彼は走り出した。





「何アレ?」

「あれは…」

 2つの竜巻、それに気が付いたメリオラとアリシアは立ち止まる。

 その竜巻がグリトラ軍の本陣のある辺りから立ち昇っている。


「助けに行かなくて良いの?アレ、本陣直撃してるんじゃない?」

「別に構わないだろ。奴等がどうなるかなど知った事ではない。むしろ死んでくれた方が都合が良いぐらいだ」

 メリオラの質問にライエルは吐き捨てるように答える。


 ライエルにとっては戦争というものは、自身の破壊衝動を満足させる為のものに過ぎない。

 勝ち負けに興味は無かった。今回も趣味を兼ねた暇潰しの為の参加だった。


「だが、逃げたほうが良いのではないか?」

「なに?」

「今のは魔法によるものだろ?グリトラの本陣付近で起きたのだから、グリトラ軍のものでは無いだろう。今回のジグタル側にあれほどの魔法の使い手は居なかった筈だ。ならあれは誰の仕業だ?」

「何を言っている?」

 アリシアの言葉の真意が読み切れずにライエルは眉をひそめる。


「心当たりは無いのか?ジグタル軍以外で、このタイミングでグリトラ軍にあれほどの攻撃する存在に。私には心当たりが居るぞ」

「おぉ、ボクにも約1名居るね」

「成程、そういう事か」

 アリシアの言葉にメリオラとライエルが納得したように頷く。


「なら、早いところお前達を切り刻んで撒き餌にでもするか。それなら奴も釣れるだろう」

 ライエルの顔に暗い笑みが浮かぶ。


「やれるものならやってみろ」

 アリシアの言葉にライエルが剣を振り上げる。


 その剣が怪しく光を放つ。

 光を浴び、アリシアとメリオラの動きが止まる。


「奴にも聞こえるように大きな声で泣いてくれよ」


 ライエルの剣がアリシアに振り下ろされようとした、その刹那。

 2人の間に何者かが割り込んできた。

 剣を受け止め、そのまま体ごと大きくライエルを弾き飛ばす。


 その見慣れているが、暫く見ていなかった背中にアリシアが声を掛ける。

「随分遅い登場だな。寝坊か?」

「ハハ、遅めの登場が主役の決まりかと思ってさ」


 いつもと変わらない声でいつもと変わらない軽口を叩く。

 普段と変わらないその男が居た。


「ヒロ!」

「よぅ、メリオラ。心配かけたか?」

 駆け寄るメリオラに軽く手を上げ声を掛ける。


「ホントだよ。ボクがどれだけ心配したか分かってるの?」

「悪い。心配かけた。アリシアもスマン」

 まるで悪びれる風でもなくヒロは言う。


「いや、私は心配などしていないぞ。お前が無事だというのは分かっていたからな」

「あ!な、ならボクも心配なんかしてなっかたよ。信じてたよ」

 アリシアの言葉に、ハッとした様にメリオラが意見を変える。


「嘘をつけ『大丈夫かな?大丈夫だよね?』なんてウロウロしてばかりだったくせに」

「なっ!?それを言うならアリーだって、心配で夜眠れずに寝返りばっかりゴロゴロしてたくせに」

「なっ!お前、何で!?」

「ボクが気付かないとでも?ミエミエだったよ」


「お前等が2人とも心配で夜も眠れなかった事は分かった」

「「あっ!?」」


「取り合えず、話は後にしよう。待たせてるみたいだしな」

 ヒロの言葉に2人も振り返り、そこに立つライエルを見る。


「良いのか?今生の別れだぞ、心行くまで話しておけよ」

「別に良いさ。後でゆっくり話すから。今生の別れになるのはお前だけだからな」

 ライエルの言葉に答えながらヒロが前へと進み出る。


「待て、私がやる」

 それをアリシアが手で制する。


「大丈夫か?」

「ああ、任せてくれ。無心だろ?」

 静かに闘志を燃やすアリシアにヒロが道を譲る。


「今更、君が出てきてどうする?また無様を晒すだけだぞ」

「お前こそ、ネタの分かっている手品がいつまでも通用すると思っているのか?」


「以前と同じだと思うなよ」

「それは私も同じ事だ」

 互いに自慢の愛剣を突き付ける。


「さて、どう見ますか解説のヒロさん?」

「誰が解説だ。まぁ、単純に技量だけで言えばアリシアの方が間違いなく上だ。あとはアレをどうするかだ」

 少し離れた場所で見守るヒロとメリオラ。


 武芸大会の後、アリシアはヒロからライエルの技についての対処法を聞いていた。

 頭で考えるのでなく、体が動くままに剣を振るのだという事だった。

 剣皇エルスリード曰く「無心となり臨む。剣の道の基本にして真髄」積み重ねた修練のみが可能にする業なのだと。


(今日までの全てを賭けて)

 アリシアは静かに集中していた。

 世界から音が消え、風景も消えていく。

 相手が誰なのか、何の為に戦うのか。それさえも頭の中から消えていく。

 目の前の男の動き、ただそれだけに注視する。

 

 相手の動きに吸い込まれるように足が前に進む。

 斬線を躱す様に体が沈みこむ。低い姿勢から相手の同を薙ぎ払う。

 音無き静かな世界の中で、刃が肉に食い込む感触と骨を断つ手応えだけはしっかりと感じながら、振りぬいた。


 ライエルは驚いていた。

 彼は魔剣ゾルファンディスの能力を『相手の動きを封じる』事だと思っていた。

 武芸会にてヒロが動けたのは、遠隔操作だったが故だと思い込んでいた。

 自分がゾルファンディスを持ち、その能力を発動すれば、相手はただ切られるだけだという思いが有った。

 それが故に、アリシアが動いたという事に驚き、焦り、動揺した。

 そして、為す術なく斬られた。


「…馬鹿な!何故!?」

 傷口から溢れ出る血を眺めながらライエルは呟く。

 自分が負ける筈が無い。自分が斬られる筈が無い。そんな想いが今の現実を拒否していた。


「お前の敗因は、負けから何も学べなかった事だ」

 アリシアが茫然自失のライエルを見下ろし語る。


「私はお前に負けた。お前はヒロに負けた。私は次は勝つ為に、その方法を探り、教わり、習い、学んだ。お前はそれが出来なかった。その差だ」

 アリシアは、自分には教えてくれる人が居た事、手本として習う相手が居た事。ライエルにはそれが居なかった事。それが最も大きな差なのだと感じていた。


「何かに頼るだけでは強くは成れん。だが、頼れる者が居なくても強くは成れん」

 血溜まりに伏したライエルを見下ろし、自戒の念を持って呟くと背を向け振り返る事無く歩き出す。

 自身の強さの源となる仲間の下へ。




「そうそう、さっきの竜巻はヒロがやったの?」

「ん?あぁ、俺だけじゃないけどな」

「ヒロだけじゃない?」

「あぁ、アーシェ、アルシェイラス・アルフォレス。覚えてるか?」

「……あのハイエルフか」

「そう、あのハイエルフだ」


 ライエルが倒されたのを見ると周囲に居たグリトラ軍はクモの子を散らすように逃げていった。

 敵討ちをしようとする者が居ない辺りがライエルのグリトラ内部での評価を物語っていた。


「【索敵サーチ】【照準ロック】【追尾トレース】行け!『雷光の矢(サンダーアロー)』」

 グリトラ軍本陣に向かう道すがら、包囲され窮地に陥っているジグタル軍の援護を行う。

 魔力量に物を言わせた大量な雷の矢が狙い違える事無くグリトラ兵を無力化していく。


「何故あのハイエルフが居る?と言うか、お前は今までどこに居た?」

「ん?今朝まではグレイトアーク、大森林に居たよ」

「「大森林!?」」

 ヒロの言葉にアリシアとメリオラが驚きの声を上げる。


「何で大森林?て言うかどうやって?大峡谷に居たよね?」

「まぁ、色々あったんだよ。お、あの辺もか『雷光の矢(サンダーアロー)』。分かるだろ?」

「「分かるか!」」

 再び驚きの声を上げる2人。


 だが、周囲の驚きは2人の比では無かった。

「おい、なんかアイツ1人で戦術級の魔法撃ってないか?」

「と言うか、戦闘が会話の片手間だぞ」

「あの2人も普通に雑談してないか?」

「俺知ってるぜ。王女が留学先から連れ帰ったらしいぜ、あの男」

「「「え?王女が!?」」」

「て事は、まさか陛下公認?」

「「「そりゃ一大事だ!」」」

 様々な憶測が更なる憶測を呼び、行き過ぎた噂も生まれていく。

 その噂がヒロの耳に届くのは暫く先の話だった。



「それで、この10日間に何が有った?」

「だから色々…」

「その『色々』が何か?と聞いているんだ」

 歯切れの悪い回答にアリシアが詰め寄る。


「あ~、え~と、『女神様に会った』とか」

「「ハァ!?」」

 予想外の回答に2人が見事なシンクロ具合で首を傾げる。


 別に冗談という訳ではなかった。

感想、ご指摘等ありましたら

宜しくお願いします

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