66 武芸大会 中編
「いつかこんな日が来るとは思っていたよ。キミと本気で戦わなきゃいけない日がね」
ビッシ!と俺の顔を指差し、芝居がかったセリフを吐く馬鹿。
「人の顔を指差すな、指を」
「残念だよ。キミとは良いライバル関係だったのに」
「残念なのはお前の頭だ」
いつ俺とお前がライバルになった?
「もう良いだろ?とっとと始めようぜ」
時間の無駄だし、テンションがMAXまで上がったお前の相手をするのは疲れるんだよ。
「そうだね。もう言葉は要らないね。後は…拳で語ろうか!」
「語らね~よ!」
ホントにお前の頭の中はどうなってんだ?
学院祭2日目、武芸大会は第2回戦と第3回戦(準々決勝)が行われる。
1回戦を勝ち抜いた16人。
アリシアとメリオラの2人も、この16人の中に入っていた。
そしてその第2回戦も終わり、更に半分になった8人による準々決勝が始まっていた。
当然と言うべきなのか俺も、そしてアリシアとメリオラも勝ち進んでいる。
そして同じBブロックにいた俺とメリオラは、第三回戦の対戦相手として向かい合う事となった。
『さぁ、続きましてはBブロックの第3回戦、ヒロ選手VSメリオラ選手です』
実況のアリスが対戦者の説明が入る。
『まずは、向かって左のヒロ選手。ここまでは全く危なげの無い戦いぶりを見せております。いえ、むしろ見せていないと言うべきでしょうか?ここまで1回戦、2回戦共に『気が付いたら終わっている』という、面白みも何も無い試合を披露しております』
悪かったな面白く無い試合で。
『一方、向かって右のメリオラ選手は、2年連続でのベスト8進出を決め、初のベスト4、更には優勝を目指し絶賛爆進中です。彼女もここまで全く危なげ無い試合を見せております。この準々決勝では一体どんな試合が展開されるのか? 解説のエルスリード様にお伺いしてみましょう』
アリスが隣に座る解説者の祖父に話を振った。
『ふむ、そうじゃな。まずは、この試合は今までの試合とは若干毛色が違う。と言えるじゃろうな』
『どういう事でしょうか?』
『初対面の者同士の試合が大半のこの大会で、この2人は互いの手の内を良く知っておる』
『確かに。この2人は同じパーティのメンバーですからね』
『互いの手の内を知る者同士の戦いでは、勝利へのイメージが出来ておるかどうかが重要になる。相手の長所を消すか、弱点を突くか、この日の為の隠し技があるか。あるいは、手の内が知られている事を逆に利用する戦法を取るか。方法は様々じゃろうが、勝つ為の明確なイメージが有る者が有利と言える』
『なるほど。初対面では成り行き任せになりがちですが、手の内を知っているのなら準備が出来る。それならしっかり準備をして有った方が有利という事ですね』
(ああ、耳が痛い。全く何の準備もしていない。そもそもそんな事を考えた事も無い。これは失敗したかな?)
俺がそんな事を考えながら、ふとメリオラに視線をやると
「・・・」
メリオラの目が泳いでいた。
「お前、もしかして何も考えてなかったのか?」
俺は内心の動揺を隠しメリオラに声を掛けた。
「そ、そんなわけ無いじゃん。108の勝ちパターンを用意してあるよ」
目線が宙を泳いだままのメリオラから動揺まる出しの回答が戻ってきた。
(まぁ、コイツが頭を使うとろくな事にならないからな)
『さぁ、それではお互いどんな秘策を用意しているのか?楽しみしておきしましょう』
アリスの無責任な発言にお互い目を逸らしたまま開始の合図を待つ俺とメリオラ。
短い沈黙の後、2人の中間に立った審判から試合開始の合図が告げられる。
「始め!」
開始の合図と同時に両者が弾かれた様に前に出る。
「な!?」
メリオラの顔に驚きが浮かぶ。
開始と同時にメリオラが突っ込んでくるのは予想通り。
普段であれば、俺はその場で迎え撃つのだが、今回はこちらからも踏み込んでいく。
予想よりも早い段階での接触にメリオラの姿勢は不十分、逆に狙っていた俺は十分な体勢が出来ている。
肩からぶつかる様な体当たり、「鉄山靠」とか叫んだ方が良かったか?
十分に虚をつけた筈だったが、メリオラが野生の勘を発揮したのか、寸前で体を反らした為、当たりは不十分だった。
しかし、メリオラの姿勢を崩す事には成功した。
追撃するべく模擬剣を振るおうとした瞬間、足元から炎が噴き上がってきた。
即座にその場を飛び退き距離を取る。
「まぁ、そんなに簡単にはいかないか」
簡単な炎術であれば無詠唱ノータイムで発動できるメリオラ。
不利な姿勢でも炎術による防御、攻撃が出来る為に、本人の雑な性格とは逆に戦闘スタイルには隙が少ない。
(意外と厄介なんだよなあの炎術が)
今の炎も攻撃と言うよりは牽制か目隠し程度の物だったが、反射的に身を引いてしまった為メリオラが体勢を立て直す時間を与えてしまった。
「危なかった。意外と考えてたんだね」
「オイ『意外と』て何だ!お前と一緒にすんな。お前が理解してないだけで俺は本来頭脳派なんだよ」
作戦自体は直前に考えたものだが、頭脳派だというのは本心だ。
「ム、失礼な。ボクだってちゃんと考えてるよ」
そう言って眉をひそめたメリオラは、暫く何か考えた後にニヤリと笑た。
「じゃあ、今度はボクの頭脳プレイを見せてあげるよ」
「知ってるか?『下手な考え休むに似たり』て言葉を」
「うるさい!絶対にギャフンと言わせるんだから」
そう言うとメリオラは俺の周囲を旋回し始めた。
どうやら足から武舞台に魔力を流しているようだ。
徐々に旋回半径が狭まり、4周ほどした頃に剣の間合いの僅か外まで寄ってきていた。
(どうするかな、踏み込めば届くけど)
そんな事を考えていると、突然メリオラが飛び退き、最初の位置まで距離を取った。
「ん?何のつもりだ?」
俺の質問に答えるように、メリオラの旋回軌跡を追って炎が吹き上がる。
「ああ、そういう事か」
去年の姉との対戦の再現、いや改善したのか。
去年との違いは、炎の壁を厚くして簡単には脱出出来ない様にした事。
そして、立ち位置を変えて脱出してきた俺を奇襲するつもりか?
既に先程の場所からグルリと半周回り、俺が距離を取ろうと脱出してくるのを待っている。
俺が去年の姉と同じ対処をすればメリオラの勝ちになるだろうが、『去年とは違う』そう宣言した様なものなのだから、去年と同じ対処を俺がする筈が無い。
「考えてるようで考えて無いな」
大事な事を1つ見落としている。
魔力を込めた剣を振るう。
『飛閃』
魔力の塊が目標に向かって飛翔する。
本来は鉄をも断つ斬撃なのだが、大怪我されても困るので魔力は刃状にしていない。
「ギャン!」
狙い違わず命中したようだ。
制御が解けたようで炎の壁が消える。
「クソー。何でだ?」
飛閃の直撃を受け仰向けに倒れるメリオラは天を仰ぎながら呻いている。
「それは、お前が考え無しだからだろ」
「ちゃんと考えたもん」
跳ね起きたメリオラが抗議の声を上げる。
「ああ、考えてはいたな。炎を厚くしたり、立ち位置を移動したり。で、対戦相手については?」
「ん?なにが?」
「だから、対戦相手が俺だって事をちゃんと考えたのか?」
「勿論考えたよ」
「嘘つけ、俺の索敵スキルの事は?」
「あ!!」
「『あ!』じゃねぇ。視界が利かなくたって居場所ぐらい分かるんだよ」
【索敵】を使った俺は炎の向こうでもメリオラの位置を正確に把握していた。
「卑怯だぞ!」
全くだ。こんな1対1の試合で使うスキルじゃないぜ。
「お前は馬鹿だからな、無駄に考えんなよ馬鹿なんだから」
「馬鹿馬鹿言うな!」
「お前の良さはそんなことじゃないだろ?馬鹿は馬鹿らしく馬鹿みたいに突っ込んで来れば良いんだよ」
「ム、……そうだよね。ボクはボクらしくやれば良いんだよね」
メリオラはそう言うと実況席を見上げた。
そこで見せる祖父の笑顔がどういう意味なのかは分からないし、今はどうでも良い。
再びやる気を取り戻し、満面の笑顔を浮かべるメリオラと決着をつけるべく剣を構える。
半身の姿勢で拳を目線の高さ上げて構える。細かなステップで体を揺らす。
吹き上がる炎を一歩下がり避ける。
その炎を突き破り靴底が迫る。メリオラの跳び蹴りだ。
頭を振ってその蹴りを避ける。
通り過ぎていくメリオラを叩き落すべく剣を振る。
だが、空中で器用に身を捻り避けられる。
そのまま身軽に着地すると、再び肉薄してくる。
剣の間合いより内側へ。徒手で武器を持った相手に勝つ代表的な方法の1つだ。
接近され手数で押されれば剣が邪魔になり対処しきれない。
結局のところ、有利な間合いで戦えるかどうか。そこが勝負の分かれ目だ。
(そろそろケリを着けるか)
接近してくるメリオラ、それを追い払う俺。
そんなパターン化した攻防を何度か繰り返した。
現状ではメリオラに決定打となる攻撃は無い。
決定打となり得る大技は隙がでかい。そんな隙を見逃す気は無い。
彼女もそれは分かっている。
だから自分の有利となる、接近してからの連打を選択しているのだが、それでは威力が足りない。
当初は焦ったメリオラが大技を狙ったところをカウンターで仕留めるつもりでいたが、中々その機会が来ない。
もしかしたらこの状況を楽しんでいるのかもしれない。
(悪いが長々と付き合う気は無いんだよ)
負けても構わないのだが、メリオラに負けた場合、暫くは事有る毎に上から目線で接してきてイライラさせられそうだ。
メリオラは、体を揺らしながらリズムを取っている。
そしていつものように一直線に踏み込んでくるだろう。
動き出しの気配を読みながら、動こうとする直前に
メリオラに向かって剣を放った。
攻撃の為では無く剣を渡す為に。
自分に向かって鋭く飛来すれば避けるか弾くかしただろうが、フワリと飛んできた為に、その剣をメリオラは反射的に受け取った。
「え?」
「行くぞ」
「え??」
突然の事態に思考が止まっているメリオラに回復の時間を与えずに接近する。
これもまた反射的になのだろう、迎撃するべく手に持った剣を振り回す。
勿論、メリオラは剣に関しては素人だ。力任せに振っただけだ。
軽く避けると、勢い余って体が泳いでいるメリオラの手を掴み引き込む。既に体の泳いでいた彼女は簡単にバランスを崩した。
そのまま足を払うと、背中から武舞台に落ちた。
「グハ!」
何とか受身は取れたようだが、少なからぬダメージに身動きが取れないようだ。
メリオラが手放した剣が俺の手に戻る。
その剣の切先を喉元に突きつけ、審判に視線を送る。
その視線の意味に気が付いたのか、審判が試合終了を告げる。
「勝負あり。勝者ヒロ」
「むー。なんか納得いかない」
控え室に戻ったメリオラの開口一番は不満だった。
「良い感じだったのに、最後のはズルくない?」
「いや、お前が馬鹿すぎる」
メリオラの愚痴を一言で切って捨てるのは、この後に試合に向け準備運動をしているアリシアだ。
「緊迫した試合で不得手な武器を使うなど考えられん。お前が馬鹿だという以外に言いようが無い」
「グハ!」
バッサリと斬られたメリオラは崩れ落ちる。
「まぁ、お前の事をよく理解していたヒロの作戦勝ちだろうな」
アリシアの評価に
「ヒロがボクの事をよく理解している」
何故かメリオラが頬を赤く染める。
「ん?」
突然モジモジし始めたメリオラを不審に思った時、控え室の扉がノックされた。
コンコン!
『レイアスさん。第三試合始まりました準備はいいですか?』
案内係がアリシアに試合会場への移動を促しに来た。
「では、私は試合に行く」
「うん。相手は招待選手だよね?気を付けてね」
「その招待選手に勝って3回戦に上がったお前が言うと嫌味かと思うぞ」
今のところ招待選手に勝ったのはメリオラただ1人だ。
「優勝の祝賀会の用意をしておけ。敗退者の仕事だぞ」
「分かった。ヒロの祝賀会だね」
「私のではないのか?」
「ボクに勝ったんだからヒロの優勝でしょ」
そう言うと二人は笑いながら控え室を後にした。
「嘘だろ?」
ヒロが試合会場に駆けつけた時、試合の決着は既に付いているように見えた。
満身創痍で膝を突き肩で息をするアリシア。
ダラリと垂れ下がった左腕は折れているのかもしれない。
そんな彼女を見下ろす男、ライエル・ネスファーが言う。
「もう降参しますか?無駄だと思いますよ?」
それは降参を促す言葉ではなく、降参させない為の挑発だった。
気力で立ち上がるアリシアをライエルは酷薄な笑みを浮かべて見つめている。
「まだ楽しめそうだ」
メリオラの言葉通りアリシアが優勝する事は無かった。
次回、武芸大会終了(予定)
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