60 学院迷宮最下層
「良いですか?僕の考えが正しければ、この学院地下迷宮は、太古に作られていた迷宮を模して造られた物ではないのです」
俺達が今いるのは、学院地下迷宮の最下層、地下50階のボス部屋の隣の小部屋だ。
只今、マシウス先生による学院地下迷宮についての講義を拝聴している最中だ。
俺達が地下迷宮を走破したのは、既に何ヶ月も前の事だ。
その後は地下迷宮には大した用事も無かったので潜る事は無かったのだが、突然「学院地下迷宮について、至急に確かめたい事が有るんです」とマシウスに招集をかけられた。
「つまり、現存している迷宮は自然に出来た物か、太古に造られた物が未だにその機能を失っていないだけだと言えるのです。それに比べて、この学院地下迷宮は・・・・」
この数百年の間、多くの研究者が挑み、悩み、諦めた。『迷宮とは?』その永遠の謎とも言える命題に挑む1人の天才少年の話は
とても難しかった。
最初から諦めていたメリオラは、壁に寄りかかる様に居眠りをしていた。
何とか話しについて行こうとナタリアは、頭から煙が上げていた。
アリシアは「ホウ」「成程」「それで?」と適当に相槌を打ちながら、剣の手入れをしていた。
「良いですか!つまりここで大事なのは、魔物を生み出すほどの魔素を維持する為の力を何処から・・・・」
マシウスの説明は徐々に熱を帯び今まさに佳境に入ったといった感があった。
ナタリアがチラチラと俺へと視線を送ってくる。その目には「止めて」と書いてあった。
仕方が無いな。
「あー、マシウス?」
「なんですかここからが良い所なんですが?」
前言撤回。どうやらまだ佳境に入っていなかったようだ。
「見たら、なんとなく分かると思うが、そろそろ限界だ」
特にメリオラがだな。寝顔でヨダレを垂らす、という年頃の女としては致命的なところまで来ている。
「・・・。ハァー。その様ですね」
冷静に周囲の状況の把握が出来たマシウスは、溜息混じりに諦めた。
「悪いな。このメンツじゃあ難しい話には向かないよ。要点だけ頼む」
そもそも、話を理解しようにも、基礎となる単語すら理解出来ていない。
悪いが、分かる言葉でお願いします。
「結論だけ言えば、学院地下迷宮には地下50階より先が有る。という事です」
「「「はあ?」」」
理解不能な発言に俺達(メリオラは除く)の声が重なる。
『地下50階の迷宮を有する』という謳い文句の学院を根幹から覆す発言だ。
「疑問を感じたのは、学院祭のときです。一般の方を招き入れた際には、迷宮の難易度は更に低下していました。そのれで気付いたんですが、この迷宮は難易度の調整が出来るんです」
「別に珍しくはあるまい?ランドリアには、出現する魔物を日替わりで変える迷宮が在ると聞いたが?」
剣の手入れの手を止めたアリシアがマシウスの言葉に疑問を述べた。
「『グラムの迷宮』ですね。確かにそういった迷宮は在ります。しかし、それは迷宮自体が起こしている事で、人の手で操作している訳ではありません。難易度の調整が出来るほどの管理状態にある迷宮はそう多くは在りません」
迷宮は太古の昔から存在していると言われてきた。
かつてはそのメカニズムを解読し、複製することも可能だったと言われている。
権力者が自らの力の大きさを誇示する為に迷宮を造り、互いに自慢し合ったとも言われている。
しかし、今現在その技術は失われ、全貌の解読にすら手が届いていない。
そんな中で、人の手により管理出来る迷宮は、特異な迷宮として知られているが、多くの研究者が何十年という時間を掛けても解読の糸口すら掴めていなかった。
「僕らは偶然にも学院祭の折に、歪みの発生した地下40階を体験しました」
確かに経験はしたが、面白そうだと言って禁止事項を破ったアレを偶然というのか?
「そもそも、完全な管理状態にあるのなら、歪みが発生する事など無い筈。つまりこの学院迷宮は完全な管理状態ではないのです。その事からこの学院迷宮が管理できる様に造られた物ではなく、本物の迷宮を管理出来る様に手を加えた物だと推測できます」
マシウスは「どうだ!」と言わんばかりの自慢顔だが
「・・・よく分からん」
「えーと?」
残念ながら賛同者を得る事は出来なかったようだ。
「・・・」
悲しそうな顔をしたマシウスが俺を見る。
こっちを見るな。
「まぁ、この迷宮がなんかおかしいって事だろ?で、それが何で地下50階より先が有るって事になるんだ?」
そう、本題はこの迷宮には50階より先が有るって事だろう。
「難しい話は置いておきますが、歪みの出た地下40階は通常の地下50階より難易度は高かった様に思えました。強い魔物や大量の魔物を出す為には迷宮のキャパシティーに余裕がなければ不可能です」
「つまり、この学院迷宮には通常の50階以上の階層を生み出せる余力が有る。と?」
「簡単に言えばそう言う事になります。そして今日は、それを確かめに行きたいのです」
マシウスの考えは
地下50階より先に行く為の鍵は50階のボス部屋に有る。
別階層ではボスを倒した場合には下の階層へ続く部屋への出入り口が開く。
だが、50階ではボスを倒すと脱出用のポータルが現れ皆そこへ入ってしまう。
ボスを倒した状態で部屋の探索を行った事は無い。
そこに何らかのヒントが有るかも知れない。
と言うものだった。
もし、迷宮に50階より先があるのならそれは、とても興味深い。
満場一致(=反対意見無し)で俺たちは50階ボス部屋へと向かった。
50階のボスは『グレイターデーモン』。
強靭な肉体に、強固な魔法障壁。物理攻撃にも魔法攻撃にも強い耐性を持つ強敵だ。
だが、残念ながら俺達の敵ではなかった。
アリシアの持つ剣『エクスグリア』はロギナス王よりクーデターの鎮圧に協力した褒美として下賜されたものだ。
ロギナス王家の宝物庫に長い間保管されていた宝剣だ。
この剣の下賜に際し貴族からは反対の意も上がったが「宝物庫に置いとくだけの剣とか無くても良くね?」と、取り合わなかったらしい。
エクスグリアには4つの特殊能力がある。
例えば『自動修復』鞘に入れておくといつの間にか刃こぼれ、歪みが直っているという物。この能力のおかげで、造られてから千年と言われるこの剣はいつでも新品の如き輝きを放つ。
そんな特殊能力の1つが『シールドブレイカー』障壁や結界を破壊する能力だ。破壊できる強度に上限が有るのでどんな障壁でも破壊出来る訳ではないが、グレイターデーモンの魔法障壁を破壊する事は出来た。
『星光の十字架』
魔法障壁を失えば、光属性に弱い闇の生物。ナタリアの魔法で簡単に片がついた。
以前と同じ、アリシアとナタリアの2人で簡単に片付いたラスボス(だと思われていた相手)。
呆気無いほど簡単な終わりに拍子抜けしたのも以前と同じだ。
部屋の中央に現れた光り輝くポータル。
それを無視して部屋の壁を調べていく4人。
やがてそれは見つかった。
部屋の奥の壁の一部が幻影魔法によって作り出されていた物だという事にマシウスが気付いた。
「これですね。これで僕の仮説は実証されます!」
興奮気味に言うマシウスは、今にでも壁の向こうへ行こうとしていた。
「まぁ、待てって。先に行くのは良いがアレをどうする?」
「アレ?」
「ああ、アレか」
「メリオラですか」
隣の部屋でいまだに眠っているメリオラ。
「「置いて行こう(行きましょう)」」
アリシアとマシウスがハモる。
いやいや、そういうわけには行かないだろ。
「何で起こしてくれなかったのさー」と膨れ面のメリオラを連れ、再度ボスを撃破する。
現れたポータルをまたも無視して奥の壁へと向かう。
やはりそこは、見た目上は壁がだが、すり抜けることが出来そうだった。
「向こうには何が有るか分からないので準備はしっかりとお願いします」
マシウスの注意に気を引き締め直し、壁へと向かい進む。
幻影の壁を抜けた先にあったのは、ただの小部屋だった。
ただし小部屋の中央には青白いポータルが在った。
「どこかにつながっているのか?」
「行ってみれば分かるでしょ」
互いに見合った俺たちは、頷き合うとポータルへと踏み入った。
△ △ △ △ △ △ △ △
深い闇の中で、転移用のポータルの起動を感じた彼女は静かに立ち上がった。
その為に創られ、その時を待た。
やっと訪れたその瞬間にも、彼女の顔に感情は無い。
「使命を果たす時が来たようです」
ただそう呟き、彼女は初めて訪れた客人を迎えるべく、部屋を後にした。
久々のマシウス君の出番なので
ちょっとセリフが多めでした
メリオラ嬢の寝不足に他意は有りません
ただそういった人だという事です
ちなみに、メリオラ嬢も王様から
ご褒美は頂いております
感想、ご指摘等ありましたら
宜しくお願いします




