閑話 眠らない夜
「由々しき事態ね」
自室の机に向かっていたリューネは事態の深刻さに若干焦っていた。
「まさか、こんなに早く動き出すなんて」
自分の読みでは暫くは今のまま停滞を見せる筈だった。
読みが甘かったとは思っていない。これまでの状況の推移を考えれば、誰も彼もが互いを牽制し合い本格的に動く様には思えなかった。
「やはり目を離すべきじゃなかったのよね」
事態が大きく動いたのは、自分の目が離れたわずか数日の間にだ。
ほんの数日の事だった。これまでも監視が数日間離れる事は有った。
その時は、特に何の動きも無かった。
だから、今回も問題無いだろう。と甘い見積もりをしたのが間違いだった。
「レニール山で何があったの?」
この数日間に幾度も頭をよぎった疑問が口から漏れた。
「まさか、開放的な大自然の中で、迸る若い情熱が…?」
これもまた、何度も思い至った事態だ。
「でも、そんな事は今までだって何度もあったのに?」
そう、これまで何度も彼等は大自然の中で一線を越えることなく過ごしてきた。
「ハッ!でも今回は彼等だけじゃない!他にも若いケダモノが…」
初めて思い至った事柄に彼女の妄想はエスカレートしていく。
「彼は紳士でも、他の男はケダモノ。迸る熱いパトスに身を任せ…」
ひとしきり妄想し終えた彼女は、
「早く手を打たないと手遅れになってしまうわね」
今現在はまだ一線を越えていない事をキチンと理解していた。
意を決した彼女は、クローゼットの奥から大事に仕舞っておいた『勝負下着』を取り出した。
その勝負下着を身に纏い、その姿を姿見で何度も確認する。
この日の為に体型の維持に余念はない。彼と同じ屋根の下に居るのだ、常在戦場だ。
スタイルには、それなりに自信が有った。抜群のと迄はいかないだろうが十分魅力的だとは自負している。
だが、念には念を入れ3枚ほど追加しておく。調査の結果、彼は大きい方が好みなのだと分かっている。
入念な最終確認の末に自身にGoサインを出し、仕上げに悩みに悩んだ末に購入した、フェロモン入り(という振れ込み)の香水を振り掛ける。
寝間着は敢えて地味な物にする。
薄いスケスケな物も有るが、それではあからさま過ぎる。
大事なのは脱がされた時のギャップだ。
高鳴る胸の鼓動を聞きながら部屋を出て、彼の部屋へと向かう。
コンコン
ノックしてからドアが開かれるまでの時間がとても長く感じられた。
ガッチャ
「どうしました?」
現れた彼は不思議そうな顔をしていた。
「ヒロさん、夜遅くにごめんなさいね。ちょっと寝むれなくて、少しお話しでもませんか?」
勿論お話をしに来た訳ではないが、そんなことを口にする事は出来ない。
きっと優しい彼は、快く部屋に迎え入れてくれるだろう。
そして本当に眠れない夜を過ごすのだ。
こうして彼女の戦いは始まり。
「あっ、リューネさん」
「あら?貴女も眠れないの?」
部屋の中で手を振るナタリアと、寝台の上で寝転がって本を読んでいるエリザベスの姿に
わずか数秒で終わった。
石化していた彼女は何とかギリギリのところで回復し、
(大丈夫、まだチャンスは来る。きっと来る。だから大丈夫。大丈夫)
何とか自分自身に大丈夫だと言い聞かせ、4人での夜会を楽しむことにした。
その精神力、切り替えの早さは賞讃に当たるだろう。
期待と興奮と緊張と落胆の乱高下で疲弊した彼女は、あっと言う間に睡魔に負けてしまうのだが。
目が覚めたら隣で彼が寝ている。最後の形としては狙い通りの事態に気が付くのは、もう暫く後だろう。
「ああん、そこはダメですよ♪」
幸せそうでは有るので特に問題は無いのだろう。
最近出番の少なかったリューネさんのお話でした
アダルト方面は彼女に先陣を切ってもらうつもりが
イロイロ残念な結果になっていますが
彼女は、諦めません。勝つまでは(←何にでしょう?)




