6 大旦那様(じじい)襲来+数名
「お義父さまが来ます」発言から5日
ついに、この日がやってきました。
なぜか朝から俺の周りをウロウロする父。
正直、鬱陶しい。
仕事に行け、仕事に。
俺は専属メイド(だと思う)にアイコンタクトで指示を送る。
ネコミミメイドは軽く頷くと
「旦那様」
素晴らしい。流石だ。言ってやれ。
「落ち着いてください。坊ちゃまが不安がられます」
惜しいロージー、『不安』じゃない『煩わしい』だ。
もっと言うなら、『落ち着け』ではなく『出て行け』だ。
そんな息子の思いに、父はソファーに腰掛け、無駄に爽やかな笑顔で
「ふぅ、そうか。だが心配ないぞ。今日は私が一日中ついているからな。」
などと申される。
ふざけんな。それが心配なんだ。
お前とじじいが一緒になるのが嫌なんだ。
そんな憂鬱な朝を過ごし、昼の食事を摂りと短い午睡から目覚めた頃
「旦那様。大旦那様がいらっしゃられました。」
ロージーの突然の報告に父が固まる。
いつも思うんだが、何で分かるんだ?
超能力か?風の精霊の声でも聞こえるのか?
「まさか、早すぎる。着くのは夕方過ぎのはずでは?」
父のつぶやきに、愕然とする。
ちょっ、お前、着くのが夕方過ぎると思ってたんなら
何で朝から居た?無意味に鬱陶しかっただけじゃね~か。
父は非難の視線に気付かず窓に近づくと外を覗き、
「あれは!ベルファー?まさか自分一人だけ先行したのか!」
悲痛な声を上げ、少し何かを考えた後、俺に近づき抱き上げる。
「そんな事で私を出し抜けるなどと思わないで頂こうか」
罠を仕掛けた悪役か?小悪党感が滲み出てるぞ。
お前等はいったい何を張り合っているんだ?
正気にもどれ、頼むから。
もしくは、一思いに雌雄を決しろ、俺のいない所で。ホントにマジで!
ロージー溜息ついて諦めるな。
俺の為に!
コンコンコン
ノックの音と共に
「入るぞ、良いか?いいな。」
返事をする前に(駄目だと言っても入ってくるんだろうが)扉をブチ開け
大旦那様がやって来た。
なぜか、扉に背を向けていた父は、振り返ると
「おや?父上?どうされたのですか?
あー、そういえば、近々顔を見せに来ると言っておられましたね。
今日でしたか」
白々しいにも程がある。
この大根役者が。
「貴様こそここで何をしておる?」
(そうだ、お前は何してんだ?)
祖父の疑問の声に賛同する。
「息子の部屋に父親が居る事がおかしいですか?」
(そんなこと聞いてんじゃねぇ。仕事はどうした、仕事は?)
「仕事はどうしたのか?っと聞いておるんじゃ」
祖父とは気が合うかもしれん。
「ああ、ここ最近働き詰めだったので、2~3日休めと言われたんですよ」
「ほう?帝国からの使節団がもうすぐ来訪するこの時期に、か?」
「え、ええ、本格的に忙しくなる前に休んでおけということでしょう」
「ほう?あの『部下は使い潰す』主義のネルドがっか?」
「あー、そう、そうです。最近は大分丸くなられた様で」
「そうか。明日にでも『愚息が世話をかける』と礼を言いにでも行くか」
「・・・すいません。嘘です。止めて下さい。」
「儂を騙そうなどと、10年早い」
意外と高スペックなんだよ、この大旦那様は伊達に長生きしてねぇよ。
まぁ、見た目はまだまだ、若そうなんだけど、海千山千な感じの貫禄が半端ねぇんだ。
「さあ、じーじと遊ぼうなー」
父から俺を奪うと、締まりのない顔で抱き上げる。
がっかりだよ。色々と。
しかも、なんだよ『部下は使い潰す』主義って?
怖過ぎんだよ、ネルドさん。
「いえ、今日は私が面倒を見ますので」
今度は父が奪い返す。
「・・・」
「・・・」
無言で火花を散らす両者に
「どっちが、遊んでもらえるかヒロちゃん自身に決めてもらえば~?」
(火に油を注ぐなよ、お母様)
この二人の場合『火に火薬』並の爆発力なんだから。
俺を床に置くと二人して両手を広げて呼ぶ。
「今日は、じーじと遊ぼうなー」
「さあ、おいでー、遠慮するなー、じーじは馬に乗ってきたから汗臭いぞー」
「貴様っ、こいつは加齢臭が半端じゃないぞー。こっちで遊ぼうなー」
・
・
・
「6つになっても寝小便をしていた奴とは小便臭くて遊べんよなー」
「なっ、四十を過ぎても自分の誕生日を覚えられない人には構っていられないよなー」
段々と悪口の言い合いになってきたな。
意を決した俺は、二人の間を抜けてロージーの尻尾にじゃれ付く。
ガキか?付き合っていられん。
「なっ、なんと」
「まさか」
振り返ると、羨ましそうな二人の目線と合った。
(フフン、羨ましかろう?)
そりゃそうだ、ネコミミメイドの尻尾にじゃれつけるのは子供の、しかも、幼児の内だけだろう。
大人になっても続けていていたら、変態さん認定だろう。
空気も碌に読まずに尻尾を狙い続けていると、ロージーが俺を抱え上げ母に渡す。
「申し訳ありません奥様。私には耐えられそうに有りません」
なんと!そんなに嫌なのか?尻尾を触られるのが。
「そうね~、呪いの邪眼ぐらい恐いものね~」
固まったまま目線だけが動く二人に溜息をつく母。
あ~二人の視線ね。
まぁ、嫌だよな。大の大人に尻尾を狙われるとか。
「じゃあ、今日はママとお庭に行きましょうか♪綺麗なのよ~」
(よし行こう。すぐ行こう。今行こう)
固まったままの二人残し、俺・母・ロージーは部屋をあとにした。
「「貴様の(貴方の)せいだー」」
聞こえない。何も聞こえない。
精神的な疲労に神経をすり減らし、数少ない安息の時間に心から感謝する。
食事はきちんと食堂で摂るのが決まりのようだ(幼児を除く)。
しかし、メリンダさんよ、幼児の食事にヨダレを垂らすのはどうなんだ?
いくら絶品といえど離乳食だぞ?
食事を摂り終ると、フカフカの絨毯の上でユラユラと微睡む。
コンコン
ノックの音に覚醒する。
しまった。寝てしまえばよかった。
そんな後悔の念と裏腹にバッチリ目覚めてしまった。
「どうぞ。お入りください」
ロージーの声を聞き開く扉の向こうに居たのは
予想外の執事だった。
スラーっとした体に整えられた銀髪、穏やかで優雅な立ち振舞い。
知性と理性を携えた眼差し、僅かに茶目っ気のあるユーモアな性格。
まさしくジェントルマンな、俺が最も常識的な人間と評する人物だ。
「こちらが、ヒロ様のお部屋でございます。ユリアーナ様」
ん?もう一人は誰だ?
バートンの脇を抜け部屋に入ってきた一人の少女。
年は4~5歳か?
俺に近づくと腰に両手の、前にならえの先頭ポーズで見下ろしてくる。
「あなたが、ヒロね。
わたしは、ユリアーナよ」
そいつはご丁寧にどうも
で、結局アンタは誰なんだ?
「あなたのおねえさんよ」
は?誰だって?