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望むはただ平穏なる日々  作者: 素人Lv1
学院(2年目) 編
54/90

54 視線の先に

『お父さん、お母さん、家族の皆へ


 長らく連絡できずに、心配をかけてごめんなさい。

 私は今、フェルディールの町の、とあるお屋敷で働いています。


 家主のヒロ様は、御実家がロギナス王国の貴族で、

 まだ学生なのに、既にBランクの冒険者と言う、素晴らしい方です。

 

 このお屋敷には、ヒロ様以外にも何人かの住人が居ますが、

 皆様、他国の王侯貴族だったり高ランクの冒険者だったりと、

 凄い方ばかりです。


 お屋敷での仕事は住込みでの家事全般です。

 住む所が提供され、三食が支給され、その上給金まで頂けます。


 そんな訳で、私は毎日元気に過しています。

 皆も体に気を付けて、毎日を過ごしてください。  

                            オリビア』


 ここ一年、全く書くことが出来なかった、家族への手紙。

 お屋敷で働くようになり一ヶ月になったので近況報告を兼ねて久しぶりに書いてみた。


 きっと私は恵まれている。

 一ヶ月前の私からは考えられないほど、幸せな日々が続いている。


 窓の外、お屋敷の庭で剣を振るわれているあの方。

 その御姿を拝見する度に、私の胸が高鳴る。


「ああ、今日も輝いてますね」

 日の光を浴び、その身から飛び散る汗が、舞い広がる髪が、光り輝いている。

 溜息を漏らしつつ、その姿を凝視する。

 その姿は初めて見たあの日と何も変わらない。


 最初は、無人だった大きな家に誰か引っ越してきたんだな、と思った。

 きっとお金に困ったことなど無いのだろう、羨ましい。そう妬んだだけだった。


 しかし、初めてその御姿を見かけた時「なんて綺麗なんだろう」そう心の底から思った。

 日の光の中、舞うように剣を振るわれる姿に目を奪われていた。


 次に見かけたのは、庭の片隅に座り込み草むしりをしている所。

 黙々と草を抜くその御姿はどこか愛らしくも感じました。


 気が付けば毎日、屋敷の前を通り、あの方の御姿を探す様になりました。


 そして、あの日。私の運命が変わった日。

 私はあの方に救われ、この身をあの方に奉げようと誓いました。



 私には借金が有った。


 田舎から共に出てきた3人の友人達と商売を始めた。

 地方の特産品を仕入れ、都市で売る。都市でしか手に入らない物を仕入れ、地方で売る。

 何の変哲も無い、ただの行商でした。


 利益は僅かではあったが徐々に増えていった。一度に仕入れる量を少しずつ増やし、更に利益を増やそうと頑張りました。

 読みが外れて仕入れ値割れする事もあったが、皆で出し合った銀貨30枚がようやく100枚に増えた頃、更なる利益を求めてメイグラム商会から荷馬車を借りた。

 賃借料は銀貨30枚/月と安くは無かったが、一度に運べる量が大幅に増え、時間の短縮にもなり、行商は順調に利益を出していけるようになった。


 そして、気を抜いてしまった。


 ある村で質の良い、綿花を大量に仕入れることに成功し、これを王都にでも持って行けば、大きな利益になる。

 そう確信した私達は、道中で酒を飲み、大切な荷を積んだ馬車から離れてしまいました。


 気が付いた時には、馬車は無くなっていた。

 何者かに盗まれてしまった。  


 幸い貴重品やお金は身に付けていた為に無事でしたが、問題は荷馬車です。


 借り物の荷馬車の紛失は当然、賠償しなければなりません。

 私達はメイグラム商会に多額の負債を抱えることとなりました。


 1人当たりの負債額は銀貨450枚。

 絶対に返せないと言うほどの額でもなく、毎月銀貨15枚ずつ返していけば数年で返せる額でした。


 ただ、このまま皆で行商を続けていくのは無理だと、そこで分かれる事となった。


 賃金の高い王都で働くと言ったサーシャ。

 危険を承知で冒険者になったベイク。 

 故郷に帰ると別れたルイス。


 皆は今どうしているでしょう?


 私もその後、ここフェルディールで働きながら借金の完済を目指しました。


 そんな時に「月々銀貨5枚の利子は辛くないかい?」と声を掛けてくれる人がいました。

 正直、ギリギリの生活だったので、安い利子でお金を貸してくれるという言葉を信じ、金貨5枚を借りメイグラム商会の借金を返済しました。


 今になって考えればそんな上手い話が有る訳がありません。

 確かに最初の数ヶ月は安い利子だったのですが、しばらくすると、利子は跳ね上がっていました。


 それでもなんとか返済しようと努力しましたが、借金の増える速度に追い付けず、気が付けば金貨33枚という返済不能な額になっていました。


 世を嘆き、自分の不甲斐無さを呪っていました。


 しかし、神は私を見捨てなかった。 


 もう、どうしようもないと諦め、奴隷商人に売り払われるところだった私に、あの方が優しく手を差し伸べて下さいました。


 借金の肩代わりをし、住む場所と仕事を与えて下さいました。


 ああ、なんと言う事でしょう。きっとこれが運命というものなのでしょうか?


「いずれ貴女に、この身をお奉げいたします」



 オリビアは、窓の外の美しき女神に祈りを奉げる。




「む?」

「どうかされまして?」

「何か悪寒の様なものが背中を走った」  

「風邪ですの?お体は大事になさって下さい」

「いや、そんな感じでは無かったのだが?」


 エリザベスが見守る中、披露していた剣舞を止め周囲に視線を走らせるが、不審な者は見当たらない。


「気のせいか?」

 首を傾げつつ、エリザベスへと向き直る。


「今日はこのくらいにしておこう」


 クルリと踵を返した彼女の燃えるような赤い髪が、眩しいほど日の光を浴び煌めく。


 それを食い入るように見つめ、溜息を漏らすオリビアの姿に気付く者はいなかった。

オリビアさんのお話でした


敢えて、彼女の信仰の先については明言しません



そろそろ、主人公の活躍の場も考えないとダメですね



感想、ご指摘等ありましたら

宜しくお願いします

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