46 燃える王宮
「なぁジョン?」
「なんだよベン」
積み上げた土嚢や室内から持ち出した机、棚で作られた簡易バリケードに身を隠しながら隣の同僚に声を掛ける兵士。
「良いのかな?相手は王宮守備兵だろ?下手したら反逆罪だよな、これ?」
「んな事無えよ、下手しなくても反逆だよ。既にな」
「マジか!?ヤバイんじゃ無いか?」
「だったらどうすんだよ?反対して殺されるか?ウィルソンみたいに」
王宮への襲撃作戦を聞かされたのは、今日の夕方のことだった。
「そんな事は出来ない」そう反対した者は皆殺しにされた。
「グアア!」
「スミス!?衛生兵!衛生兵はどこだ?」
「元々そんなの連れて来て無えよ。大丈夫だ矢が腕をかすったただけだよ」
「バラすなよ。ケガを理由にサボんだから」
バリケードの上から転がり落ちてきた同僚の傷を見ながら、自身も飛来する矢に首をすくめる。
「サボるな貴様等!もう間も無く、我等の精鋭部隊が王宮の制圧するだろう。それまで奴等をここに足止めするのだ!栄えある王国革命の礎にその身を捧げられる栄誉を胸に奮戦せよ!」
後方から指揮官の有り難い激励の言葉が響く。
「だったら、後ろで盾に囲まれてないで最前線で身を捧げろよな」
「「うんうん」」
彼らの苦労は始まったばかりだ。
△ △ △ △ △ △ △ △
星天宮
皆を起こして回った。
「王宮が燃えているのか?」
混乱気味にアリシアが聞いてくる。
「分からない。今、姉様が見に行っている」
いち早く偵察に出た姉とヴァルヘイムからの連絡待ちだ。
「無駄よ。離宮は夜になると結界で覆われるわ。進入も脱出も出来ないわ」
離宮の主、王族のフローラが青い顔で告げる。
「ただの火事って事はないのかな?」
「ないだろうな。かなりの数の魔力を感じるし、気勢も上がっている。戦闘行為が行われているだろう」
メリオラの疑問をアリシアが否定する。
その通りなのだろうな、精霊を通じて情報を集めたが『お城から火が出ている』とか『兵隊さんが戦っている』といったものしか集まらない。
だが、王宮で戦闘が起こっているのは事実だ。
「貴族主義の連中だろう。陛下は能力主義で能力さえ有れば、生まれなど気にしない。最たる例が宰相に平民のエリアス様を据えた事だろう。その一件で多くの貴族から反感をかったとも言われている」
兄が冷静に今回の裏事情を分析している。
「ダメね。門の辺りが結界で覆われているわ」
姉とヴァルヘイムが戻ってきた。
「強引に破壊して突破するか?」
ヴァルヘイムが無茶な提案をしてくる。
「止めた方が良いよ。ここの結界を破壊したら他の場所にも悪影響が出るかもしれない。後宮や他の離宮の結界と連動してるかもしれない」
兄の指摘に皆の顔に苦悩が浮かぶ。
「ならどうするのよ?このまま結界が消えるのを待つの?」
苛立たしそうに姉が言う。
誰もが同じ思いだ、如何にかしたいが出来る事が思いつかない。
「隠し通路を使いましょう」
フローラの言葉に皆の視線が彼女に集まる。
「隠し通路?そんなものが?」
「ええ、王宮の1室からこの星天宮への隠し通路が有るわ」
王族のみが知る秘密の通路なのだろう。
王宮に行く手立ては有る。なら大事なのは
「王宮に行ってどうする?俺達だけで敵の壊滅なんて出来ないぞ」
「まずは陛下達の身の安全の確保が最優先ね」
「連中もそうだろうから、狙いは執務室か寝室かだな」
「足止めをする人員も必要じゃないか」
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俺達は突入の準備を進めていった。
「準備はいい?」
隠し通路を通って王宮の1室まで来た俺達はドアの外の気配を伺いつつ飛び出すタイミングを待っていた。
まず俺が先行し【索敵】で周囲の確認を行う。
「よし、周囲に人影は無し。階段付近や広間に多めに配置してるみたいだ」
連続空間にしか効果が無い為、ドアの閉まった室内は分からないが廊下に居る人物は把握できた。
「問題は、敵か味方が分からない事だよな」
この王宮への突入に際して、俺は取得していた【索敵】をLv5に引き上げた。
【索敵】Lv5は対象識別が可能だ。勿論その人物を知っている事が前提だが、索敵範囲内であれば何処に誰が居るのかを知る事が出来る。知らない相手は[UNKNOWN(人間)]としか表示されない。
当然、今現在俺の索敵情報は[UNKNOWN]だらけだ。
「動いている相手は?」
「4人1班で動いているのが8組ほどいます」
兄の質問に索敵結果を伝える。
「なら全部敵だろうな。階段を抑えた状態で探索行動をするのは侵入者側だからね」
流石は優秀と評判の兄だった。
「さて、じゃあ玉座の間に向かいましょうか」
姉の号令で俺達は玉座の間に向かい進み始めた。
何故、玉座の間かそれは
「陛下の事だ、きっと玉座で相手を待ち受けるんじゃないか?」
それは兄の指摘だ「逃げるのなら早々に逃げ出しているだろう、逃げないのなら玉座にて待ち受けている筈だ」
つまりは、玉座に居なければ『逃げた』か『捕まった』かで、『捕まった』なら敵に聞いてみれば分かる。玉座の間に行けば、それで結果はでる。
俺達は【索敵】を利用し敵を避けながら玉座目指して進んでいく。
玉座に至る道は3つ、正面から階段を上り玉座の間へつながる回廊へ行く道、宮殿の東から入り連絡通路を使い玉座の間の前まで行く道、王宮最上階から玉座の間の裏へと降りる道の3つだ。
俺達が今いるのは王宮の西側、ここから玉座に行くには一度外に出て正面に回るか、最上階に登りそこから玉座まで降りるかだ。
「最上階まで行って、玉座まで降りる方が早いわ。外は敵だらけでしょうし」
フローラの指摘で最上階を目指す。
階段前や避けようの無い敵のみ排除しつつ進んでいくと、【索敵】に無数の反応が合った。
「この先で戦闘が起きてる様だけど、迂回路は無いよな?」
「ええ、この先の階段を進まなければ最上階には行けないから」
フローラの言葉に足を速める。
階段前は敵味方の入り乱れた乱戦となっていた。
階段前に盾を構えた重装備の騎士が陣取り、その前で守備兵、近衛騎士が戦っている。
だが、数の差は歴然だ。100を超える襲撃者に対して守備側は20前後
このままでは押し切られる。そんな瀬戸際だった。
「行くわよ」
短い掛け声と共に姉が弾丸の如く駆け出す。
ヴァルヘイム、アリシア、メリオラが後に続く。
フローラの護衛として後方に残った俺も魔銃ベレッタで援護する。
が、敵味方入り乱れた乱戦に射線の確保が出来ない。
「くそっ、数が多すぎる」
不安要素はそれだけではない。
パッキン!
ヴァルヘイムの剣が根元から折れた。
「クソが!脆すぎるんだよ」
持っていた剣を投げ捨て、落ちている剣を拾う。
愛用の装備を準備できなかった俺達は道すがら倒した敵の装備を奪ってきた。
俺もアイテムボックスに入れた有った、ベレッタとパイソンしかない。
普段より明らかに質の劣る装備に不安は隠せない。
『全力で振れない』単なる手加減とは違い、強制的に力を抜かざるを得ない動きにリズムが狂う。
徐々に劣勢に立たされていく。
「兄様、ここは任せます」
左手にベレッタを右手に拾った剣を持ち、乱戦の中心部に向かい歩き出す。
斬りかかる敵を力任せに弾き、近づく敵をベレッタで撃ち抜く。
乱戦の中心部で詠唱破棄で魔法を放つ。
「雷撃の檻」
俺を中心に幾筋もの雷撃が暴れまわる。
複数の敵の殲滅に有効なのは範囲魔法だ。
ただ、敵味方入り乱れた乱戦では同士討ちになるため使えないのが常識だ。
そう、常識的には今この場で範囲魔法など使えない。
最後の手段として自爆攻撃として意外には。
勿論、そんな心算はサラサラ無い。
倒れているのは全て襲撃者だ。
「お前、今何をした?」
突然雷撃が走り自分と切り結んでいた相手だけが倒れた。信じられ無いものを見た、そんな感じのアリシアが俺に問いかける。
「雷撃の檻。確か中級の範囲雷術だったけ?無差別範囲魔法よね?」
こちらも何が起きたのか理解できていない姉が聞いてくる。
「時間が惜しいので切り札を一枚切りました。ちょっとしたコツが有るんですが、それはまた後で」
正直に言えば説明したくない。
発動させた魔法に動く標的を追尾させるスキル【追尾】と遠距離攻撃の精度を跳ね上げるスキル【照準】を同時起動することで自動追尾魔法になることは知られている。
そこに、複数の対象を同時に識別できる【索敵】を追加すれば、マルチロックオンとも言える複数同時攻撃が可能となった。
範囲内を焼く尽くす炎術系の範囲魔法は無理だが、ある程度指向性を持たせられる雷術系は【索敵】【照準】【追尾】の並列発動で識別型範囲魔法になる。
マルチロックオンという概念の有った転生者だから辿り着いた魔法だ。
「で、アンタには聞きたいことが有るんだけど?」
俺の視線の先には、敢えて標的から外した指揮官らしき人物がいる。
それまでの数の優位を失い、絶望的な状況に追い込まれたその人物は、剣を捨て両手を上げ投降の意を示した。
「話が早くて助かる。手短に聞きくが、陛下は?今の状況は?把握出来ている事を教えてもらおう」
いつもは穏やかな兄が高圧的に詰問する。その目には「何でもやるよ」と危険な意志が宿っていた。
「陛下の身柄を確保したという情報は無いようだ。正面の回廊は防衛線が厚いし、王宮東からの通路も突破できていないようだ。この段階で身柄確保の情報が無いなら、無事に脱出されたか、玉座に居るかのどちらかだろう」
情報を聞き出した兄が教えてくれた。
最上階へと上り、そこから玉座の間へと降りる。
辿り着いた玉座の間は王宮内の喧騒とは無縁の無音の世界だった。
「漸く来たか。待ちくたびれたぞ」
そう言い玉座から立ち上がったのは『国王』ではなく『剣皇』だった。
王宮突入です
雑魚を蹴散らし玉座の間で決戦です
次回ボスキャラ登場予定です
感想、ご指摘等ありましたら
宜しくお願いします




